アパートの外階段崩落による死亡事故 善意のオーナーが身を守るには
ウチコミ!タイムズ編集部
2021/05/27
文/朝倉 継道 イメージ(本文とは関係ありません)/©︎melenaslavina・123RF
原因は階段踊り場に使われていた木材の腐食か
4月17日、東京都八王子市でアパートの外階段が崩落、入居者が転落死するという痛ましい事故が発生した。
原因は、階段踊り場に使われていた木材の腐食と見られている。これにより、階段との接合部が重さに耐えられなくなり、ついには分離、落下したようだ。建物はまだ新しく、築8年。通常はありえない話だが、その後、これを建てた施工会社による人身を顧みないずさんな仕事ぶりが、現場での調査や元社員の証言などにより、次々と明らかになってきている。
【参考記事】八王子・アパート外階段崩落事件のその後 尊い命と引き換えに制度は一歩前進
防水加工がされていなかった
国土交通省が急遽集計したところによれば、この会社が手掛けた同様の外階段付き集合住宅は、2010年4月以降に完成した分で、東京都内および神奈川県内に166棟存在する。そのうちのいくつかには、やはり八王子の物件同様、外階段まわりの腐食などが見つかっている。加えて、一部報道によれば、八王子の物件の階段踊り場については、設計上、腐食を防ぐために防水加工されるはずがされておらず、現場従業員がそれを指摘したところ、会社は無視したという。
なぜ、そうした判断が押し通され、人命を奪うほどの危険が潜むアパートが建てられ、運用に至ったのか。今後、この事件は、各物件のオーナーや入居者、管理会社、設計者、工事監理者、さらには指定確認検査機関をも広く巻き込んだ、大型の騒動に発展していきそうな気配だ。
当の施工会社は早々に破産申請
そんな中、当の施工会社は、5月13日、横浜地裁にあてて早々に破産を申請している。信用調査会社の速報によれば、負債総額は4億418万円。近年、同社は資金繰りを悪化させており、20年には、取引先への報酬未払などで訴訟も抱えていたという。すると、この間、ずさんな仕事ぶりがますますエスカレートしていなかったか、築2~3年を下回るような新品物件のオーナーも、いまや気が気ではないだろう。
今回漏れてきている証言の中には、会社側が、「どうせいい加減な建物を建てても、賃貸では建築主(オーナー)はそこに住まないのだから分からない」というものもある。これが事実であるとすれば、入居者、オーナーにとってはとんでもない話だ。
オーナーに責任は生じるのか
だが、実際に、こうした業者の思惑が通り、問題のある物件を知らずに取得させられ、その後、当該問題が原因で入居者が死傷するような事件が起きた場合、オーナーは責任を取らされるのだろうか?
結論をいえば、取らされる可能性が高い。
危険な建物を造ったのは施工会社で、オーナーはその危険が存在することを事故が起こるまでまったく知らなかったとしても、今回のような事態となれば、賠償責任は基本としてオーナーが負うことになる(民法第717条1項:工作物責任における所有者の無過失責任)。ただし、管理会社が介在するケースでは、その絡み方(契約上の物件管理責任の有無や範囲等)によって、司法判断が揺れることもあり得るだろう。
法的責任論は措いておくとしても、自身の運営する物件の不備によって、入居者が亡くなったとすれば、オーナーにとってそれは一生残る悔いとなる。
物件に存在する危険…それは住んでいる人が知っている
ならば、事前にそれを避けるためにはどうしたらよいか。
答えのひとつとして、当たり前だが、普段からオーナー自身がちゃんと物件を見て、確かめること。さらには、定期的な修繕等のメンテナンスを怠らないことだ。
もうひとつ、これはオーナーも管理会社もほとんどが実行していないことだが、ぜひおすすめしたい。それは、入居者からアンケートをとることだ。物件に存在する危険は、住んでいる人が一番よく知っている。
筆者自身、賃貸物件において、「漏電が見過ごされていた例」、設備の老朽化により、「マンション一棟でまるごと断水が起きた例」を過去に目にしているが、いずれの例も入居者が早くから、その予兆や異常に気付いていた。定期的にでもアンケートをとっていれば、こうしたことも早期に把握できていたかもしれなかったわけだ。
昨年、ある首都圏の物件の入居者から、こんな話も聞かされた。
「4年住んで、つい先頃退去した物件だが、地震や風での揺れをかなり感じる建物。そのせいか、年々部屋の壁紙のヒビ割れや盛り上がりが増え、長さも伸びていく。中の壁はどうなっているのだろうか?」
“来たる”大地震の際のことがどうしても心配になってくる。 しかしながら、壁のヒビがあることによって日常生活に支障が出るわけではないため、こうした状況に、尋ねられずとも自らオーナーや管理会社へ伝えてくれる入居者は、ほとんどいないと思った方がいい。
話を戻そう。
今回の八王子のアパートのような、何らかの危険が潜む物件で、実際に事故が起こり、オーナーに賠償責任が及んだ場合、これを補償する保険があることも知っておいてほしい。
それは「施設賠償責任保険」だ。
火災保険の特約として、知らぬ間に加入していることもある保険だが、賃貸経営を行うにおいては必須といえるセーフティネットだ。自身の加入状況、さらに、補償内容はどうなっているか、一度確認してほしい。
この記事を書いた人
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