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個人と法人

不動産投資のメリットデメリット

井出光紀井出光紀

2019/01/22

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毎年確定申告の時期になると、サラリーマンの方でも不動産投資にチャレンジされている方が以前より多いと感じる。
世間では不動産投資に係るセミナーも多く開催されており、多くの書籍も出版され、不動産投資への関心も高く、実践している方も増えているのかもしれない。

とはいえ、不動産は多くの権利や法律の絡む分野であり、税金の計算についても少し複雑な部分が多い。不動産オーナーに対して法人化を勧める記事も多く目にするが、これは一般に税金の計算上有利であることを理由に行われているものが多い。しかし、持っている不動産の種類や、それぞれの状況によって一概に個人所有と法人所有のどちらが有利かは言い切れない。そこで各々の場合の具体的な違いを説明していきたいと思う。

◆税率について

給与の金額がある程度高い方なら法人化した方が、個人と法人をまとめてみたときに手残りする金額は大きくなる。

具体的にはサラリーマンの方だと、源泉徴収票の中の「給与所得控除後の金額」-「所得控除の額の合計額」が、330万円を超えているようであれば、不動産所得の金額に課される税率は30%以上(所得税+住民税)になるため、法人所有にすることによるメリットを受けることができると思う。

【個人の場合】
 
不動産所得は、給与等他の所得と合算して下記の税率が課される。
所得税5%~45%(※1超過累進税率)+住民税10%+事業税5%(※2事業的規模の場合のみ)
※1 超過推進課税率とは――所得が高くなればなるほど税率も高くなる方式
~195万までは5%、195万超330万以下は10%…と所得の金額を各層に分解してそれぞれに対応する税率をかけていく。 従って、年収200万円の人でも、年収1,000万円の人でも~195万円までの所得に係る税率は同じ。
※2 事業的規模とは――「不動産賃貸業を収入の柱にしているか?」という税務上の判断基準。

これに該当するかしないかで、取り扱いが異なってくる。あくまで社会通念上で判断するが、形式的に判断できるよう税務署が基準を出している。それが「5棟10室基準」と呼ばれるもので、戸建ての賃貸住宅なら5棟以上。区分所有のマンションやアパート1棟であればこれらの部屋数の合計が10室以上あれば事業的規模に該当するものとしている。
ただし形式的な基準のため、これらの条件を満たさなくても年間の不動産収入が多額で収入の柱になっているなど客観的に見て片手間にやっているような状態でないことがわかれば、事業的規模に該当することになる。

また、不動産を売却した場合は売却により生じた利益に対して上記の所得とは完全に切り分けて、売却不動産の所有期間に応じ、下記のような税率が課される。

所有期間5年以内…約40%(所得税30%+住民税9%)
所有期間5年超 …約20%(所得税15%+住民税5%)
 
個人で購入した不動産を自身の法人に移す場合も外部へ売却したのと同様に課税されるため、購入時は注意が必要だ。

【法人の場合】

(資本金1,000万円以下の中小企業を前提 他項目も同じ)
法人の税率は、
実効税率で概ね23%~36%

だが、年間の利益が800万円を超えると税率が急上昇する。
さらに忘れてならないのは、別途法人住民税の均等割が年間7万円発生するということ。これは赤字であっても必ずかかる税金である。

個人とは異なり、所有不動産を売却した場合も全て上記の税率により課税される。

◆赤字の取り扱い
個人の場合は少し説明事項が多くなるが、法人の場合はシンプルな取り扱いになっている。

【個人の場合】

不動産所得で発生した赤字は、その他の所得からマイナスすることができる。

サラリーマンであれば、給与所得と不動産の赤字を合わせて確定申告を行うことで、給与所得から不動産の赤字差し引かれため、所得税の還付を受けることができる。

青色申告をしていれば、赤字の金額が大きく、赤字の金額とその他の所得の金額を合わせても赤字が残る場合は、3年間赤字の金額を繰越して、翌年以降の所得の金額からマイナスすることが可能。

ただし、赤字の場合は、不動産投資を勤め先に知られたくない方は住民税について注意が必要になる。
住民税を給料から天引きされている方については、お給料の所得と不動産所得の赤字を相殺した金額を基に勤め先へ住民税の天引き額を知らせる通知が送られることになる。

不動産所得で利益が出ていれば、不動産所得から生じた利益の分の住民税を別途自身で納付書により納める方法を選択できるが、赤字で還付を受けるような申告をした場合はそのような選択方法が設けられていない。

【法人の場合】

青色申告していることが前提になるが、赤字が発生した場合10年間繰越を行い、翌期以降の利益と相殺することが可能。

◆保険金収入
個人と法人の違いで意外と知らないのが、所有している不動産が災害等により損壊し、保険金を受け取った場合の取り扱いについては個人の方が優遇されている点だ。

【個人の場合】

個人の場合は受け取った保険金は税金がかからない。
ただし、災害等による損失の金額も経費には入れられない。

俗に言う「焼け太り」の状態になると、収入に対して課税されないことになる。
大まかにだが、下記のような取り扱いとなっている。

損失額が保険金を「上回る部分のみ経費へ計上できる」

損失額を保険金収入が「上回っても収入に計上しなくてよい」

【法人の場合】

受取った保険金は全額収入へ、発生した損失は全額経費へ計上する。

◆土地取得利子

ローンを組んで不動産を購入することが大半かと思われるが、金融機関等に支払った利子の金額は原則全額が経費となる。
ただし、支払利子のうち土地の購入にかかったとされる部分は個人の場合に限り特殊な取り扱いが存在する。

【個人の場合】

不動産所得の金額が赤字になった場合、
その年に支払った利子の金額について、不動産購入時の総額のうち土地の金額に対応する割合を乗じた部分は赤字の金額に足し戻す(経費から除外する)処理を行う。
ただし、この計算の結果黒字になる場合不動産所得は0円とする。

例:総額3,000万円(土地2,000万円+建物1,000万円)の戸建住宅をフルローン(借入3,000万円)で購入(区分所有マンションの場合も考え方は同じ)

本年の支払利子150万円
この計算の直前の不動産所得の赤字80万円

年間の支払利子150万円×土地2,000万円/総額3,000万円=100万円

赤字80万円へ上記利子100万円を足し戻し→黒字20万円
…黒字のため不動産所得は0円とする。

複雑な計算だが、この取り扱いにより融資の金利が高い場合に、赤字経営で貯金を切り崩しているような状態なのに税金の還付も受けられないという状況に陥っている方を何度か見たことがある。

【法人の場合】

特殊な取り扱いは存在せず、黒字でも赤字でも全額を経費に計上する。

◆経費について
個人は事業的規模に該当するかどうかによって、取扱いが異なる。

【個人の場合】
まず、事業的規模で不動産賃貸業を行っているかどうかで判定を行い、判定結果により下記それぞれの取り扱いをする。

・事業的規模に該当しない場合

不動産収入を得るために直接かかった経費に限定される。
借入金利子、建物の減価償却費、固定資産税、物件に係る管理費や水道光熱費など、一目で経費だとわかるようなものの他は経費にすることができない。

また、青色申告による控除は10万円となる。
(個人事業主として別途事業所得の確定申告を行っている場合は、65万円の控除を受けることが可能)

・事業的規模に該当する場合

不動産収入を得るために直接かかった経費のほか、間接的な経費も計上が認められる。
関係者との打合せにかかる食事代など実態として不動産賃貸業の運営にかかわる経費であれば広く計上できるようになる。

そして、家族に給料を払うことも認められる。
ただし、給料を支払った家族については配偶者控除や扶養控除の対象とすることはできない。

また、青色申告による控除は65万円にアップする。

【法人の場合】

事業に関係するものであれば、直接間接問わず全て経費計上可能。
自身や家族に給料を支払うこともできるが、受け取った側は給与所得として課税される。
また、交際費(飲食代やお歳暮等の贈答品代など)については年間800万円までの制限がかかる。

◆減価償却

物件の購入費用のうち土地の購入費用は物件を手放す際まで経費にならず、それ以外の建物や設備の購入費用は購入時に一度に経費とならず数年~数十年に渡って経費として計上していく。
この手続きを減価償却といい、個人と法人で下記のような違いがある。

【個人の場合】

税法で定められた計算方法により算出された金額が、強制的に経費計上される。

【法人の場合】

帳簿上、経費処理した金額を経費計上する。
(税法で定められた計算方法により算出された金額の範囲内)

従って0円でもokなため、利益金額の調整に活用できる。

◆その他(法人の種類)
法人での不動産投資を行う場合、設立に関しての必要経費が生じる。
実費としては、会社の形態に応じ下記のような負担となる。

株式会社…約20万円
合同会社(昔の有限会社)…約6万円

完全に不動産の所有のみを目的とした会社設立であれば、筆者は合同会社を薦めている。
その理由は、合同会社は設立に係る費用負担が軽く、長い目で見ると株式会社では最長10年ごとに役員の登記が必要になるが、合同会社ではこの必要がない。
まだまだ合同会社の一般的な知名度は高いとは言えないため、対外的に営業活動を行うような会社であれば株式会社のほうがメリットはあるが、自身の不動産の所有に限定した目的であれば、そこにこだわる必要はないと思う。

この他に設立手数料や税理士事務所への申告報酬が発生するため、いくつか税理士事務所等に問い合わせて設立~毎年の決算時まで含めてどのくらいの費用負担になるのか確認しておいたほうがよい。

全体的に個人で所有しているほうが複雑な取り扱いが多く、法人で所有しているほうがシンプルな取り扱いが多い。
個人に係る所得税の規定は各個人の事情を汲み取ってきめ細やかに課税しようとする作りなのに対し、法人に係る法人税の規定は「法人=利益を得るために存在する」という考え方の基に作られているため、貰ったものは収入であり払ったものは経費という単純な考え方が強い。

◆最後に

これから不動産投資を考えている方は、個人法人いずれの所有にするか、よく検討してから決断してほしい。
税制のことだけではなく、法人では融資が通りづらいと指摘されるなど、他にも考慮することがある。いずれにしても、現在の自分の状況を考えたうえで、個人で所有した場合と法人で所有した場合購入予定の物件についてどのような取り扱いになっていくのか、かかる経費や自身のその他の収入をまとめてシミュレーションすることが重要なポイントになる。

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この記事を書いた人

税理士

専門学校で簿記に触れ、税理士を志す。 平成25年より会計事務所に勤務し、平成28年税理士資格取得。 現在は会計事務所の所属税理士として勤務している。 人工知能に置き換えられない、提案型の税理士を目指し、 中小企業の顧問から資産税までさまざまな業務に携わっている。

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