住宅ローンが減免!? 「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」とは?
横山晴美
2016/09/30
「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」とは
阪神大震災や東日本大震災で、多くの住宅に被害が出たことは、記憶から消し去ることができません。自然災害の多いわが国では、災害リスクは避けて通れませんが、万が一、被災して家を失った場合でも、住宅ローンは残ってしまいます。被災した方のなかには、全壊した家のローンを支払う人や、それまでの住宅ローンに上乗せして修繕費のローンを組んだという人も多くいました。
地震の多い日本では、こうした災害リスクを避けて通ることはできません。被災して家を失ったのに多額のローンだけが残ってしまった、などということになれば、それは悲劇というほかありません。
そこで、自然災害によって住宅ローンの返済が困難になった場合に、住宅ローンの免除・減額の申し出すると、調停で話し合いが行なえるという制度があるのをご存知でしょうか?
それが、平成28年4月1日から運用が開始された「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(以下:ガイドライン)です。このガイドラインは、全国銀行協会が中心となって整備されたものですが、銀行だけでなく、政府の支援、そして弁護士や税理士など専門家の協力によって成り立っているものです。
「申し出」ができるだけで役に立つのか?
ただし、「申し出」と「調停」という文言からもわかるように、免除・減額が確実に実行される、という制度ではありません。それは、借入金の返済という性質からするとしかたないところです。住宅ローンの返済が苦しくなった場合の扱いは銀行ごとに異なりますし、家計状況やそれまでの返済状況など個々の事情も考慮されます。つまり、「所定の条件を満たしたら減免」といった点数制では対処できないからです。
これまで借り入れをしている人は、個々に銀行へ問い合わせたり、専門家に相談したり試行錯誤しながら返済苦を訴えていかなければなりませんでした。しかし被災時は、生活再建のためにやるべきことは多く、住宅ローンの返済方法について情報を集めて吟味するという余裕があるとは思えません。
本ガイドラインによって「被災して住宅ローンの返済が苦しくなった場合、どこに相談したらいいのか」という窓口が明確になり、その後の手続きの流れがテンプレート化されたことは、利用者にとって大きなメリットがあるといえるでしょう。
また、破産手続きではないので、信用情報にキズがつかない点も重要です。信用情報に履歴が残ってしまうと新たなローンが組めなくなってしまいますが、この制度であれば「壊れた家のローン免除→新たな住宅ローンの借り入れによる家の再建設」という良い循環をつくることができます。
適用のための手続き方法は
減免の手続きは、銀行との話し合いを経て、調停にて行ないます。調停というと大変そう、というイメージもあるかと思いますが、専門家の支援を初期段階から受けることができます。
では、手続きの流れを見てみましょう。
(1)金融機関へ制度利用の申し出
(2)登録支援専門家(弁護士や公認会計士など)の支援を仰ぐ
(3)債務整理の開始(この時点で返済や督促は一時停止)
(4)専門家の助けを借り、金融機関と協議。債務整理内容(調停条項)をまとめる
(5)調停条項案を金融機関へ提出
(6)簡易裁判所での調停
なお、専門家からの支援は無料で受けることができますが、調停の申し立て費用は申立者の負担となります。詳しくは、全国銀行協会「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」をご覧ください。
ガイドラインがどこまで普及するか
適用を受けるためには、財産があれば売却する必要があったり、複数の金融機関が関係している場合は、すべての借り入れ先の同意が必要であったりと、決して簡単な手続きではありません。またどんなに迅速に手続きしても、適用までには3〜6カ月程度かかりそうです。
金融機関としても制度を適用するかどうかは慎重に見きわめなくてはならないため、時間がある程度かかるのはしかたないかもしれませんが、普及のためにはよりスピーディーな対応が望まれます。
たとえば、現状では返済が停止となるのは債務整理が開始されたときとなっていますが、それを申し出の時点にまで早める、債務整理内容のひな型を用意するといった改善を期待したいところです。
団信や地震保険で被災に備えよう
住宅ローンを抱える人にとっては大きな意義のあるガイドラインですが、被災時には緊急の支援がほしい場合もあるでしょう。そういった場合に利用できる支援制度やリスク対策法をご紹介しておきましょう。
●住宅補修の公的支援
被災時には条件を満たせば「災害弔慰金」や「災害援護資金」などのほか、「生活復興支援金の貸付け」が受けられます。生活復興支援金では住宅補修費として上限250万円の貸し付けが受けられます。ガイドラインと併用できれば家計の負担は大きく減るでしょう。
●火災保険・地震保険
多くの火災保険は、火災だけなく水害や落雷など一定の事前災害も保険範囲に含まれます。ただし、火災保険では地震を原因とする火災・津波などは対象外です。加入するならば、火災保険だけでなく地震保険にも加入しておきましょう。また、火災保険では家だけでなく、家財にも保険を掛けておけば万全です。
●各種保険
残念ながら災害時には死亡リスクも高まります。死亡や病気の際、保険金で住宅ローンを完済する団体信用生命保険(以下:団信)は、ローン名義人はほぼ加入していますが、名義人でない配偶者の備えもしておきましょう。
まだ始まったばかりの制度のため、使い勝手がいい制度かどうか、まだまだ不透明な部分があります。とはいえ、いまのうちに制度内容を知っておいて損はありません。被災時は周辺も自分自身も混乱することと推測されます。平素の備えをしておくことで、より早く生活を立て直せるのではないでしょうか。
この記事を書いた人
ライフプラン応援事務所代表
ファイナンシャルプランナー(AFP)、住宅ローンアドバイザー。企業に属さない独立系FPとして、2013年ライフプラン応援事務所を立ち上げて以降、住宅相談を専門に扱う。マイホーム相談では保険見直し、教育費、退職後プランなど総合的な視点で資金計画、および返済計画を考案。相談業務のほか、セミナー講師、執筆業など情報発信、啓蒙活動にも力を入れている。 「自分の家計は自分で守る」をモットーに、丁寧でわかりやすい面談が好評。 また、給付金や控除など、消費者のための制度を調べるのが得意で、「ここが使いにくい」「誰のための制度なのか」などとケチをつけるのが好き。