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本当の悪者は誰なのか?

横浜の「傾斜マンション」問題、報道されなかった事実

岩山健一岩山健一

2016/08/12

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本当の悪者は誰なのか?

2015年10月、ある衝撃的な報道がされたことをご記憶でしょうか? 杭打ちのデータ偽装が発覚し、日本中の注目を集める大騒動となった横浜市の「傾斜マンション」問題です。

問題となったのは、横浜市都筑区にある「パークシティLaLa横浜」。2007年11月に完成した大規模マンションです。

売り主は三井不動産レジデンシャル、施工の元請けは準大手ゼネコンの三井住友建設、そして杭打ち施工の一次下請けが日立ハイテクノロジーズ、二次下請けで直接、杭打ちを施工したのが旭化成の子会社である旭化成建材でした。2016年1月には、国土交通省がこれら3社に行政処分を下しています。

一連の報道では、悪いのは旭化成建材で、データ偽装はその下請け業者である杭打ち業者が独断で行なった不法行為との見方が中心的でした。ところが、それは大きく事実と異なっていることが、その後、ある記者の調査によってわかっています。

そのときにはすでに世間の注目は事件からほかに移っており、その調査結果が報道されることはありませんでした。そのため、調査結果の詳細はここには書きませんが、旭化成建材とその下請け業者を追及するだけだったマスコミの報道は、表面的な状況を伝えているだけのものだったのです。

私は、あらゆる場で設計者、工事監理者である三井住友建設の責任について言及してきましたが、マスコミが三井住友建設の責任を追及しなかったことは不自然極まりないと、現在でも考えています。

過去にもあった欠陥マンション問題

まず、この三井住友建設という会社について、三井建設と住友建設が合併した会社であることは、社名を見れば誰もがおわかりのことと思いますが、実は、この2社はどちらも、過去にそれぞれ同じような欠陥マンション問題を引き起こしていることが判明しています。

まず住友建設は、福岡西方沖地震の際、福岡市中央区のマンションで、雑壁崩壊により住民が玄関から退避できない状況を招くという極めて危険な状況の被害を発生させています。その原因は、設計図に入っている耐震スリット(*)が正しく入っていなかったという施工ミスでした。

(*)耐震スリット:RC造の建築物の柱と壁の間に設けられた耐震用の建築材料や隙間のこと

そして、住友建設は、時の理事長(1級建築士)を黙らせ、訴訟を回避させました(確たる証拠はないのですが、被害に遭ったマンションの住人とこの件を追跡調査していたテレビ局の人から証言を得ています)。さらに、築5~6年の真新しいマンションであるにもかかわらず、補修費まで取ろうと画策したという経緯があります。

一方、三井建設は、耐震スリットが1カ所も入っていないという前代未聞の欠陥マンションを造っています。これは、耐震偽装問題を引き起こした浅沼・元二級建築士が設計したマンションで、三井建設は住人らの補修要求にも応じずに開き直ったため、住人から裁判を起こされました。この裁判は、和解により三井建設(和解当時は三井住友建設)の補修費用支払いが確定するに至っているものです。

このような2社が合併したからといって、問題がなくなるわけがないと私は思っていましたが、「パークシティLaLa横浜」の杭打ちデータ偽装事件は起こるべくして起こったものだといっても過言ではないかもしれません。

というのも、杭打ちデータ偽装事件のマスコミ報道の際、私の知り合いの記者たちが口々に「三井住友建設に取材陣がコメントを求めに行くと、チンピラまがいの担当者が喚き散らすので取材にならない」と言っていたのです。このことは、三井住友建設という会社の本質を示していると思われます。

早期に全棟建て替えの方針が決まった裏側

「傾斜マンション」問題が報道されてから4カ月あまり、2016年2月には、三井不動産側から全棟建て替えを前提に補償内容が提示され、「パークシティLaLa横浜」の管理組合でも全棟建て替えを目指す方針が総会で決議されました。

傾いているのだから建て替えが当たり前と思われるかもしれませんが、実はマンション問題というのは往々にして長期化するものなのです。問題が発覚してから10年以上も解決しないままという事例はめずらしくありません。

では、なぜこんなに早く全棟建て替えの方針が決まったのか、その判断がなされたことには次のような裏事情があります。

まずひとつは、このマンションの1階の区分所有者が横浜市であったということがあげられます。
連日の報道で、横浜市が会見に応じたり、説明会に出たりと普通では考えられない対応をしている状況に、不自然さを感じていた人は多かったのではないでしょうか。その理由は、実は横浜市自体も当事者だったということなのです。

次にこの事件で、いちばん悪いのは誰かということです。

報道では杭打ちを施工した旭化成建材がいちばん悪いとされていましたが、実は三井住友建設の設計者、工事監理者の責任が最も重いと、追跡調査をしていた記者が指摘しています。旭化成が下請け業者を刑事告訴しなかったことからも、本当の責任がどこにあるのか、客観的に立証されるといえるでしょう。

また法律的に考えても、設計者・監理者の責任は最も重いものと判断されますので、最終的には三井住友建設が最も責任重大ということになるのが当然と考えられます。

責任の所在を問わなければ建設業界の体質は変わらない
一般的に建設現場では、末端の作業員が独自の判断で、特に杭の長さを変えるなどということはできないことになっていますし、作業員が実際にどれだけの権限を与えられているのかを考えれば、作業員が判断するなど、あり得ない話なのです。

もしこの事件が、作業員の勝手な判断で行なわれたものだったなら、とうにこの作業員は刑事告訴を受けているはずですし、マスコミがその情報を放っておくはずがありません。
にもかかわらず、そのような事実は報道されていません。そうであれば、もっと上の立場の人間の責任であると考えるのが自然で、それに該当するのが、三井住友建設の設計者であり工事監理者なのです。

一連の報道で、その立場に該当する人物についてはまったく報道されていませんが、情報公開によって概要書を取り寄せれば、この人物の氏名や建築士番号が明らかにされることになるでしょう。

いまでは新聞やテレビで、この「傾斜マンション」問題が話題になることはなくなってしまいましたが、報道によって責任の所在を明らかにしなければ、建設業界はよくならないというのが、私の考えです。

「パークシティLaLa横浜」の管理組合では、16年9月に総会を開き、全棟建て替えに同意する決議を行なうことを目指しているそうですが、すでに住戸を売って流出してしまう住民が増えており、できるだけ早い決定が望まれています。

しかも、全棟建て替えが正式に決まったとしても、工事が完了するまでには何年もの時間がかかります。その間、小・中学生の子どものいる家庭では転校を伴うような転居を強いられることもあるかもしれませんし、高齢者にとって仮住いの暮らしは非常に負担の大きいものです。

果たして、全棟建て替えが完了し、住人が再び安心な暮らしを取り戻すまでに、三井住友建設並びに旭化成建材は、社会に存在できているのでしょうか。そのことを考えただけでも悪寒が走るのは住人だけではないかもしれません。

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この記事を書いた人

株式会社日本建築検査研究所 代表取締役

一級建築士 建築ジャーナリスト 大学で建築を学び、NHKの美術職を経て建築業界へ。建築業界のしがらみや慣習に疑問を感じ、建築検査によって欠陥住宅を洗い出すことに取り組む。1999年に創業し、事業をスタート。00年に法人化、株式会社日本建築検査研究所を設立。 消費者側の代弁者として現在まで2000件を超える紛争解決に携わっている。テレビ各社報道番組や特別番組、ラジオ等にも出演。新聞、雑誌での執筆活動も行なう。 著書にロングセラー『欠陥住宅をつかまない155の知恵』『欠陥住宅に負けない本』『偽装建築国家』などがある。

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