中古マンション・中古一戸建ての購入に【フラット35】はおすすめできる? 利用時の注意点は?
菅 正秀
2016/01/04
中古マンション・中古一戸建てを買う人の選択肢が増えた
中古マンション、中古一戸建てであっても、新築マンション、新築一戸建てであっても、購入するときの住宅ローンに違いはありません。同じ住宅ローン商品のなかから選択することになります。
以前は、全期間固定金利が大きな魅力だった住宅金融公庫(当時)のローンを借りるには、購入対象となる物件に、細かい制限がありました。そのため、中古マンション、中古一戸建てを買う場合には融資条件が比較的緩い、変動金利の民間ローンを利用するのが一般的でした。
その後、2007年に住宅金融公庫が住宅金融支援機構へと業務継承されると、制限が緩められ、全期間固定金利型の【フラット35】を利用する人が増えました。
【フラット35】は、住宅金融支援機構と民間金融機関との提携商品で、申し込む金融機関ごとに金利が異なるため、どの金融機関で申し込みをするか比較検討して選ぶことが可能です。また、中古マンション、中古一戸建てでも一定の基準を満たせば利用可能ですし、金利水準も長期間固定金利タイプのなかでは最も低金利な住宅ローンのひとつです。
一方で、民間金融機関の住宅ローンも「20年固定」を比較的低金利で選べるようになったり、キャンペーンを行なって金利を引き下げたりと、さまざまなサービスを展開しています。
中古マンション、中古一戸建てを購入する人にとって選択肢が増えていると言えるでしょう。
【フラット35】の魅力とは?
中古マンション、中古一戸建てを購入する場合に、【フラット35】はおすすめの住宅ローンです。その理由として、【フラット35】の魅力を見てみましょう。
(1)少ない頭金で借りられる
なんといっても大きなポイントになるのは、融資額が物件価格の最高90~100%である点です。つまり、用意する頭金は1割、もしくは頭金なしでも融資を受けることができるのです。
自己資金が少なく、多くの頭金を用意するのがむずかしい人でも、返済能力さえあれば低金利のローンを利用できます。
(2)最長35年、全期間固定金利で家計が助かる
また、「最長35年」「全期間固定金利」というのも大きなメリットと言えるでしょう。
借り入れ時に総返済額が確定し、返済途中で金利は変わらないため、返済中の家計の見通しをつけるのも楽になります。
(3)保証料、繰り上げ返済手数料が無料
さらに、民間金融機関の住宅ローンでは必要になることが多い「保証料」と「繰り上げ返済手数料」も不要です。
保証料とは、ローン契約を結ぶ際、保証会社にいわば連帯保証人になってもらうための費用で、数十万~100万円前後かかりますが(一括払いの場合と、月々の返済に上乗せする場合があります)、【フラット35】ではこれが無料になります。
繰り上げ返済手数料とは、繰り上げ返済を行なう際に金融機関に支払う手数料のことです。繰り上げ返済する金額によっては、繰り上げ返済による金利軽減効果が、手数料よりも小さいというケースも考えられますから、手数料が無料になるというのは魅力的と言えるでしょう。
(4)優良な住宅であることの証にもなる
【フラット35】の融資を受けるには、建築基準法とは別に、購入する住宅が、住宅金融支援機構が定めた技術基準に適合していることを証明する「適合証明書」が必要になります。
チェックする技術基準は、住宅の「規模」「耐震性」「耐久性」など8項目です。
床面積が70m2以下の住宅や基礎の著しく劣化した住宅や、一般道に接していない住宅などは基準をクリアできず、【フラット35】を利用できません。
【フラット35】の適合証明書が交付された物件は、厳しい基準に合格した、優良な住宅の証にもなります。
(5)リフォーム費用も一緒に借りることができる
住宅ローンとリフォーム費用を一本化した【フラット35(リフォーム一体型)】では、中古住宅の購入とリフォーム工事に必要な資金の借り入れを、一本の手続きで進めることができます。
融資限度額についても、「100万円以上8000万円以下(1万円単位)で、中古住宅購入価額とリフォーム工事費の合計額以内」、つまり、物件価格とリフォーム工事の合計額をすべて借り入れることも可能とされているのも魅力です。
現場では【フラット35】より銀行ローンが重用される
実務では、住宅ローンを使用して家を購入する場合は、売買契約書に「住宅ローン特約」が入るのが一般的です。住宅ローン特約とは、万一、住宅ローンの審査が通らなかった場合、その契約はなかったものになるというものです。
買い主の都合で売買契約をキャンセルした場合、通常、手付金として支払ったお金は解約金として扱われ、買い主に返却されることはありません。ですが、この住宅ローン特約を入れておくと、住宅ローンの審査に通らず契約がキャンセルになった場合、手付金の全額が買い主に返されることになります。
仮に、住宅ローンを使う買い主に交渉優先権を与えると、売り主はほかに有利な買い主(現金一括で購入する買い主など)が現れても売買交渉ができなくなります。それで交渉優先権を与えた買い主のローン審査が通らなかったら、売り主にとっては大きな機会損失となってしまいます。
そのリスクを避けるため、住宅ローンを使う買い主には、金融機関の事前審査の承認結果を提示しないと交渉優先権を与えないケースが多いようです。そのため実際の現場では、手続きに時間のかかる【フラット35】よりも、審査スピードの速い銀行ローンが重用されています。
そのため、【フラット35】を使いたい場合には、まず銀行ローンで予備審査の承認を取って優先交渉権を押さえた後、契約手続きと並行して【フラット35】を申し込むようにしています。
頭金はどれくらい必要か
近年、頭金なしでも住宅を購入することは可能になっています。
かつて自己資金は物件価格の3割はないと住宅ローンが組めないと言われていました。なぜなら、物件価格の8割までしか融資を受けられなかったからです。そのため、最低でも頭金用に物件価格の2割と、諸経費(登記費用、融資手数料、仲介手数料など)に1割、合計3割の自己資金が必要といわれていました。
しかし、現在はそうした事情は大きく変わっています。
【フラット35】では、返済能力さえあれば、一部の諸費用まで含めて100%融資を受けることが可能です。また、民間の住宅ローンであっても100%融資はもちろん、すべての諸費用分まで借りられる金融機関も少なくありません。
「頭金がないからローンが組めない」という時代は過去のものになりつつあるのです。
とはいうものの、無理な資金計画でローンを組むのは避けたいところです。
借入額が大きいほど余分に利息を支払うことになります。これまでの常識通り、ある程度の自己資金を貯めてから買うべきか、それとも目いっぱいまでローンを組むべきか、悩むところかもしれません。
この場合、判断の目安になるのが金利情勢です。頭金を貯めている間に金利が上昇すると考えると、自己資金を貯めるよりローンを借りてしまったほうが、総返済額を低く抑えられるということもあり得ます。
ですから、たとえば年間100万円程度の貯蓄しかできなければ、頭金がなくても購入に踏み切ったほうが結果的には得するケースもあります(ただし、リフォーム費用が別途必要な場合は検討を)。頭金はあったほうが有利ですが、その間に金利が上昇してしまうリスクがあることも念頭に置きましょう。
注意したいのは、「頭金なしで購入可能!」といった不動産チラシなどは、たいていは変動金利1%、返済期間35年で計算していることです。
これで2500万円の融資を受けた場合、毎月の返済額は7万571円(ボーナス払いなし)ですみますが、金利が上昇して3%になれば、毎月9万6212円まで上昇します。実に毎月2万円以上も支出が増えてしまうのです。
頭金なしでローンを借りる場合には、全期間固定金利型の住宅ローンを選択する。また金利情勢を見きわめて借り換えるといった対応も必要になります。
この記事を書いた人
株式会社フェリーズディア 取締役チーフコンサルタント
宅地建物取引士、マンション管理士、住宅ローンアドバイザー、福祉住環境コーディネーター。 1958年、大阪府大阪市生まれ。創価大学法学部卒業。大学卒業後、弁護士事務所に勤務、宅地建物取引士資格取得を契機に大手不動産会社に転じる。法律知識を活用し中古住宅、中古マンションの仲介営業を担当。 その後、顧客と一緒にモノづくりをするために、地域中小建設会社に移り、注文住宅・賃貸マンションの受注営業を担当。大手建設会社との競合が激しい中、操業以後に流入してきた近隣住民のクレームにお悩みの経営者さんに、不動産会社時代の人脈を使い工場の移転先を斡旋した上で、その跡地に93戸の賃貸マンション建設の受注をするなど、15年間で約32億円の受注する実績をあげる。現在は、建築にも明るい不動産コンサルタントとして、不動産会社のエスクロウ業務(契約管理)・新人社員指導等を行なっている。 一生に一度の買い物ともいえる住宅の購入をアシストできる人材を育成し、業界の健全な発展に貢献すべく活動中。