住宅ローンの返済と子どもの教育資金で家計を破綻させない5つの方法
牧野寿和
2017/02/02
教育費の確保に不安を感じる人が増えている
つい最近ことですが、経済誌で「持ち家が危ない」「持ち家は下流老人への近道!」といった記事を目にしました。人口が減少し、高齢化が進む日本では、これから家を持つことはリスクだというのです。
こうした記事がすべて真実だとは思いませんが、30年とか35年といった長期のローンを組んで住宅を購入することに不安を感じている人が増えているのは確かなようです。私のところに相談にいらっしゃるお客さまのなかにも、そうした不安を感じていらっしゃる人がいます。
なかでも不安に感じられているお客さまが多いのが「教育費」の問題です。住宅ローンを支払いながら、子どもの教育費をどう確保したらいいのか不安に思われているのです。
実際、ソニー生命保険が、大学生以下の子どもを持つ20〜59歳の男女に対して行なった『子どもの教育資金と学資保険に関する調査2016』によると、「教育資金に不安を感じる」と回答した人の割合は79.4%となっていて、その理由として最も多かったのは「教育資金がどのくらい必要となるかわからない」(54.5%)というものでした。
教育費は思っている以上にかかるもの
率直に申し上げると、子どもの教育費は思っている以上にかかるのが現実です。子どもふたりが私立大学に通っている場合には、平均可処分所得の1/2超を教育費が占めるというデータがあるほどです。
そのため、子どもが小さいうちから教育費対策をしておかないと手遅れになりかねません。年々上昇する授業料を見るまでもなく、今後、教育費負担は増大することが予測されます。
幼稚園から大学まで、それぞれの在学期間にかかる教育費はどれくらいかかるのか、図1にまとめましたのでご覧ください。
次に、幼稚園から大学卒業までにかかる教育費はどうなっているか。総額を見てみましょう。
・幼稚園から大学まで国公立の場合:約1074万円
・幼稚園から大学まで私立で、大学が文系の場合:約2381万円
・幼稚園から大学まで私立で、大学が理系の場合:約2739万円
これは、子どもが自宅から大学に通っている場合なので、自宅外に部屋を借りると、さらに出費がかさみます。ちなみに、仮に幼稚園から高校まですべて私立で、大学が私立の理系、さらに自宅外から通うとすると、教育費の総額は約2946万円になります
私立に進むことを前提に資金計画を考える
ここまででおわかりいただけるように、進学する学校が公立か私立かによって大きな差が出ます。それぞれの教育費の差を見ると、私立は公立に対し、幼稚園では2.3倍、小学校では4.9倍、中学校では2.9倍、高校では2.6倍となっています。
すべて公立の学校に通えればいいですが、受験に失敗して私立に通うことになったり、子どもの希望で私立を選択したりということもあります。
毎月の住宅ローンの返済を確実に行なっていくためには、リスク管理として、子どもは私立に行くことを前提に資金計画を考えておくのが基本と言えるでしょう。
また、子どもの教育費は、大学入学・在学中に家計に占める割合が最も大きくなります。
文部科学省が調査したデータがあるのですが、子どもが中学校へ進学して以降、家計の貯蓄は低下していき、大学進学時にはマイナスに。つまり、家計は赤字になってしまうというということも頭に入れておいてください。
ここまで教育費の現実をお話ししてきましたが、これほど家計の負担となる教育費をどうカバーするか、考えられる対策について見てみましょう。
<対策1>住宅ローンは長期の固定金利を選ぶ
まず最も大切なのはローンの組み方です。ご存知のように現在は超低金利時代ですから、その恩恵を最大限に活かしましょう。
私がおすすめする低金利時代のローンの基本は、「期間はできるだけ長く」「金利タイプは全期間固定金利型」というものです。そうすることで、月々の返済負担をできるだけ小さくして、家計を安定させることができます。
そして、教育費を確保するために、繰り上げ返済は行なわず、できるだけ手元のお金を貯蓄や運用に回すことです。
後ほどご説明しますが、教育ローンを借りるとしても、住宅ローンより低い金利で借りられるものはありません。住宅ローンの返済を優先した結果、手元にお金が残らず、より金利の高い教育ローンを借りることになってしまうのは、できれば避けたいところです。
繰り上げ返済をするかどうかは、教育費の負担が終わった後に、老後資金の準備をにらみながら慎重に検討しましょう。
<対策2>貯蓄したお金を運用する
貯蓄したお金は運用に回すのもいいでしょう。
まとまった教育費が必要になるまで、どれくらいの期間があるかによって運用の方法を変えてみるのもおすすめできます。
短期間(5年間くらいまで)で教育費を積み立てるのであれば、元本割れのない、普通預金や定期預金にしておきましょう。現在、利息はほとんどつきませんが、預金口座に入れておくことで、教育費以外に使ってしまうこと防げます。
中長期(少なくても5年間以上、できれば15年間以上)で積み立てる場合は、普通預金や定期預金のほかに、個人向け国債、株式や債券投資、投資信託や保険商品といった金融商品で運用をすることも考えられます。
ただし、これらの金融商品のほとんどは、元本保証がありません。中長期で考えれば、定期預金以上の利率が期待できますが、運用結果が積立金額より下回ってしまう可能性もあります。
元本保証のない金融商品で運用をするのであれば、家計の収支に影響を及ぼさない範囲内にしておきましょう。また元本保証がされている商品と組み合わせて運用をしていくことが大切です。
<対策3>奨学金を利用する
奨学金は、学生つまり子ども本人が借りるもので、いまや大学生の52.5%が利用しています(日本学生支援機構調べ)。
日本学生支援機構の奨学金には、無利息のものと、利息がつく貸与型のものがあり、貸与型がよく利用されています。
奨学金の貸与額は、月額3万円〜12万円の間で設定された金額から選択できて、毎月定額が貸与されます。金利は上限3%と決められており、2016年3月末の時点で0.16%と一般の教育ローンと 比べると低金利で借りることが可能です。
ただし、 留年すると奨学金は原則打ち切られます。また連続3カ月滞納するとブラックリストに掲載されたり、延滞金額に年率10%のペナルティーが課されたりするなど、シビアな面もあります。
奨学金は、大学卒業後、だいたい30代半ばまでかけて毎月返済していきます。勘違いしやすいのですが、親ではなく、子どもが債務者になります。
ある調査によると、奨学金を利用していた人の約4割が、返済を「苦しい」と感じているのが現実です。
大学卒業後に始まるローンの返済の滞納者が約1割に上るということは知っておいていただきたいデータです。
毎月8万円の奨学金を受け取っていると、卒業と同時に400万円弱もの借金を背負うことになります。
奨学金の返済の負担のために、なかには貯金ができず、将来の見通しを立てられなかったり、住宅を購入しようとしたときに住宅ローンの審査が通らなかったりするケースも出てきます。
貸与型の奨学金は、あくまでも返済の必要のある〝学資ローン〟の一種であることを忘れてはいけません。
<対策4>教育ローンを借りる
教育費をカバーする手段として、教育ローンを借りる方法もあります。教育ローンが奨学金と違う点は、まず借り入れをするのは親である点、また契約が成立すれば一括で貸し付けてもらえる点です。
いつでも申し込みができて、最短1〜2週間でお金を受け取ることが可能です。一括で貸し付けてもらえるので、たとえば大学の合格発表後、3月中に振り込まなければいけない入学金と初年度前期学費を賄うこともできます。
ただし、国の教育ローンには所得制限があり、それを超えてしまうと借りることはできません(子どもひとりの場合、親の年収が790万円までなど)。逆に民間ローンの場合、すでに借り入れしている住宅ローンの残額と、新しく借りる教育ローンの金額が年収の50%を超えると、満額融資を受けるのはむずかしいかもしれません。
教育ローンは、銀行、信販会社、日本政策金融公庫など、さまざまな金融機関が取り扱っています。
私がおすすめするのは、日本政策金融公庫です。民間の教育ローンの金利が3〜4%程度なのに比べると、日本政策金融公庫なら2.05%(固定金利、平成28年3月現在)と低い上に、平成26年度から利用可能額が300万円から350万円に引き上げられました。
また、在学期間中は利息だけの返済が認められている点もメリットといえるでしょう。
参考までに、ある都市銀行と日本政策金融公庫で教育ローンを利用した場合(借入金額200万円、返済期間10年、ボーナス支払いなし)の比較例を作成しましたのでご覧ください。
<対策5>教育資金の贈与を受ける
祖父母からまとまったお金を贈与してもらえるなら、「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」を利用しましょう。教育資金援助は贈与の対象とはされず、ひとり1500万円まで非課税になります。
ただし、手続きに少し手間がかかるほか、援助された資金は30歳までに使い切らないと贈与扱いとなり、贈与税が課税される点については認識しておいてください。
なお、この制度の詳しい内容については、税務署等に問い合わせてください。
以上、住宅ローンの返済と教育費の確保を両立させるための対策について見てきました。何よりも大切なのは、将来必要になるであろうお金を把握して、無理のない資金計画を立てることです。
すでに住宅ローンを借り入れていて、教育費を貯蓄する余裕がないという場合には、奨学金や教育ローンの利用を検討するほか、金融機関に返済額の軽減や返済期間の延長を申請するという手もあります。
まずは金融機関の担当者やファイナンシャルプランナーなどに相談してみてはいかがでしょうか。
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この記事を書いた人
CFP、一級ファイナンシャル・プランニング技能士
1958年名古屋生まれ、大学卒業後、約20年間旅行会社に勤務。出張先のロサンゼルスでファイナンシャルプランナー(FP)に出会い、その業務に感銘を受け、自らもFP事務所を開業。 その後12年間。どの組織にも属さない「独立系」FPとして、誰でも必要なお金のことを気軽に考えてもらうため「人生を旅に例え、お金とも気楽に付き合う」を信念に、日本で唯一の「人生の添乗員(R)」と名乗り、個別相談業務を行なうとともにセミナー講師として活動している。 また、賃貸不動産の経営もしており、不動産経営や投資の相談にも数多くのアドバイスやプランニングをしている。