賃貸借契約における消滅時効

賃貸借契約

賃貸借契約についても消滅時効が問題となる場面がいくつか存在します。今回は、賃貸借契約と消滅時効についてお話します。

そもそも、消滅時効とはどのような制度なのでしょうか。

消滅時効は、ある一定の期間、行使できる権利を行使しなかった場合において、当該権利は消滅し、行使することができなくなる制度のことをいいます。 賃借人による債務不履行が原因で、賃貸人が契約を解除する場合の解除権は、民法167条1項により債務不履行時から10年という期間で消滅時効にかかります。

では、具体的に消滅時効の制度と賃貸人が関係する例として、①賃借人の賃料不払いによる賃貸借契約解除権、②無断転貸における賃貸借契約解除権の行使があります。

①賃料不払いによる賃貸借契約解除権

賃料不払いを原因とする契約解除の場合、定期的・継続的に賃料が不払いの状況に陥っていることが考えられます。この場合において、消滅時効の起算点をいつの段階における賃料不払いにするかが問題となります。これについて判例は、「支払債務の不履行は、ほぼ同一事情の下において時間的に連続してされたという関係にあり、…最終支払期日が経過した時から(時効が)進行するもの」としました。すなわち、各月の賃料不払い毎に時効が進行するのではなく、一括して一個の解除原因にあたるとし最終支払日の債務不履行時から時効が進行することになります。

上述のように賃貸借契約の解除権は、形成権にあたるので消滅時効については、民法167条1項が適用され、10年の経過によって消滅します。

しかし、賃料債権については、民法169条が適用されるので5年間の短期消滅時効に該当します。この違いは、賃料不払による解除は、最終支払日期日から10年までは、消滅時効にかからないが、各月の賃料支払請求権は、5年で消滅時効にかかることを意味します。

②賃借人による無断転貸

賃貸借契約を締結する際に、無断転貸の禁止という条項を織り込む場合が多々あります。この条項に違反した賃借人に、賃貸人はいつから解除権の行使が可能になるか、またいつから解除権の消滅時効が進行するかが、問題となります。賃貸人の解除権行使は民法612条2項に規定されており「賃借物の使用または収益をさせたとき」です。すなわち、賃借人が転貸借契約を締結しただけでは、契約の解除権は発生せず、転借人が使用・収益した時に初めて解除権が行使できるようになります。また、消滅時効は権利行使が可能になったときを通常起算点とします。これについて判例も、「転借人が転貸人との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、…消滅時効が…進行する」としています。

したがって、転借人が使用・収益した時から10年の消滅時効が進行します。しかし、賃借人・転借人が使用収益しているのを上手に隠していた場合、賃貸人は権利行使することが出来ずに10年の消滅時効が経過してしまったなどの事態も考えられます。このような場合には、賃借人・転借人は悪意であるにもかかわらず、消滅時効を主張することは、信義則違反、権利濫用などの一般条項で調整し、時効の援用をそもそも許さないという裁判例もあります(東京地判昭和59年11月27日)。

以上のように、賃貸人となった場合において、せっかくの債権が消滅時効でなくなってしまうということもあります。数ヶ月で消滅してしまうという債権はありませんが、数年で消滅してしまう債権も存在するので注意が必要となります。

この記事のコラムニスト

森田雅也
森田雅也(弁護士)
弁護士法人法律事務所オーセンス 弁護士(東京弁護士会所属)。
上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。
[著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。
[担当]契約書作成
森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。