BOOK Review――この1冊 『マンション管理員オロオロ日記』
BOOK Review 担当編集
2020/11/18
『マンション管理員オロオロ日記』 南野苑生 著/フォレスト出版 刊/1300円+税
マンション管理員は、快適なマンションライフを支えてくれる心強い存在だ。
しかし、多くの人は管理員に対して、いつも管理員室にいる人とか、ロビーの掃除をしたりする人というくらいのイメージしかもっていないのではないか。具体的に何をする人なのか、はたから見ているだけではよく分からない。けれどその実、設備の点検や植栽の管理、住民トラブルの対応まで、背負う役割は結構大きい。
本書は、現役のマンション管理員が、日ごろの仕事や、仕事のなかで関わる人々とのエピソードを伝える一冊。
現在72歳の著者が、自ら立ち上げた広告プランニング会社の経営不振から、夫婦でマンション管理員として働くようになったのは13年前のこと。勤務時間は朝9時から夕方5時まで。手取り月給は夫婦で21万円ほど、住み込みなので家賃はタダ。ある程度年齢を重ねてから、年金をもらいながらやる仕事としては、結構良い条件ではないかと思ってしまう。
しかし、世の中そんなに甘くない。
本書では、著者が管理員として勤務するなかで大変な目に遭った話を多数披露しているのだが、読んでいると、「管理員って、想像以上にキツイ仕事なんだなぁ」と、深いため息をついてしまいそうになる。
横柄な態度で時間外業務を指示するフロントマン(管理会社の担当社員)がいれば、「タクシーを呼んでくれ」などと、明らかに管理業務とは関係のない私用をおしつける住民もいる。マンション住民で構成される管理組合の理事長が、夜中でもお構いなしに自宅におしかけ、数十分にわたり日頃の管理業務にクレームをつけてくる住民もいる。著者は「それは契約で定められた管理業務ではないので、対応しかねる」というようなことをやんわりと、時にキッパリと伝えるのだが、それがますます理事長のゴキゲンを損ね、事態をこじれさせる原因となってしまうことも……。
けれども、大変なことや辛いことばかりというわけでもない。
アルミ缶を回収しに来るホームレスのおばあさんとのやり取りはユーモラスで、人のつながりのあたたかみを感じさせる。マンションから飛び降り自殺しようとしていた青年を警察と協力して保護した話は、ちょっと感動的ですらある。何より、著者自身が、管理員の仕事に誇りをもって働いていることが文章のあちらこちらから感じ取れるので、重い気持ちになりすぎずに読めるのもいい。
スペクタクルもサスペンスもないけれど、そこにある悲喜こもごもな、なんだかほっこりしてしまう。普段はあまり光をあてられることのない、マンション管理員の仕事の苦労や舞台裏のこぼれ話を、ユーモアたっぷりに垣間見られる一冊だ。
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ウチコミ!タイムズ「BOOK Review――この1冊」担当編集
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