裁判には勝ったけれど… ひょんなところからボロが出てきた「晴海フラッグ」問題 (2/2ページ)
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2022/04/05
天下御免の「五輪要因」 露呈した開発法の矛盾点
ところが、ひょんなところから開発法を使ったこのスキームの矛盾点が露呈してしまった。
中央区の21年9月の補正予算で晴海フラッグのため必要となる小中学校建設用地を晴海特別出張所等の施設整備用地として、区が都有地を購入する必要に迫られ、177億円が計上された。
中央区は、近隣の都有地の路線価が1平方メートルあたり約100万円だったことから、東京都に「公共施設の整備のための用地として使う公共減額により、路線価の5~6割を支払った」と中央区の幹部は議会などで述べている。
都有地を購入した中央区
晴海選手村の土地は13.4ヘクタールで129億6000万円であることから、1平方メートルあたりの価格は9万6800円。しかし、中央区の購入地は3.1ヘクタールで177億円なので1平方メートルあたり57万967円となり、なんと民間デベの主に商業ベースを開発目的にした購入額の5倍以上になる。
つまり、公共減額でも減額幅5割程度にとどまるのに、9割引というのは「五輪要因」がいかに莫大に評価されているのかが分かる。
こうした大幅値引きの安値売却のカラクリが、開発法という行政が財産を処分する際の禁じ手ともいえる奇策を使った都とデベにとっての「不都合な事実」が透けて見える結果になったのである。
さて、東京都から土地を購入した開発業者が、選手村を「再整備」する形でできた超大型マンション「晴海フラッグ」は、2019年7月に分譲が開始。分譲予定は4000戸以上で、2021年までに約1500戸を供給した。
小中学校や商業施設も新設され、約1万数千人が暮らす街となる見通しだ。国内の全国各地のほか、アジアからの申し込みもあった。
積み上がる住民側敗訴 機能不全の民主主義
フランスのスタンダールの傑作小説『赤と黒』は、熱烈な恋愛小説と日本では見なされ、漫画などの人気コンテンツにされてきた。
しかし、実はこの小説、スタンダールが数々の訴訟記録を読み、そこには上流階級の欺瞞を打ち破る力が蓄積されていると直感したことに端を発するとも言われている。
いわば『赤と黒』は、当時のフランス王国における王制下の貴族と市民の階級闘争、そして7月革命に実はおびえながら、贅沢三昧の暮らしを送る貴族らの実態を鋭くついた社会小説だった。
東京都を相手取った訴訟の主なテーマは、旧築地市場の移転、豊洲市場の区画整理など再開発と土壌汚染など市場用地の売却購入の経緯、そして五輪選手村の開設など、東京都の一連の湾岸再開発の延長線上にある。ただ、一般にはなかなか注目されてこなかった問題であるが、開発をめぐる住民訴訟では住民側敗訴の判決は積み上がっている。
それらをつなぎ合わせて読めば、圧倒的に行政側に立った同じような判決のオンパレードになっている印象が強い。あたかも、原告側が糾弾したところに行政側の「開発独裁」的な手法がお墨付きを得ているような感じだ。
日本の司法制度は、精神鑑定や不動産鑑定など専門家の「鑑定」結果によって、判決が左右されることが少なくない。しかし、鑑定結果が世間の常識とかけはなれていたとしたらどうなのか。
この晴海の問題で言えば、不動産相場から見ればタダ同然の価格で大手デベなどに売却したことへつながる。専門家の「鑑定」のさじ加減が左右するように見える。
鑑定には「絶対」はなく、関係者の思惑を通じて幅広く解釈できてしまうものである。
公的地価の鑑定、公共事業をはじめ、最大の鑑定発注者は国や都道府県、自治体など「お上」であり、なかなか頭が上がらない相手だろう。ただ、そうした公的な予算は税金・公金から支出される。それを住民がチェックできない、正せないとすれば、民主主義は揺らぐ。
原告らほか、さまざまな疑問に東京都も裁判所もマスコミもまだ、答え
例えば、選手村の家賃38億円(消費税込で41.8億円)が2年
また、中央区は、特定建築者11社に対して、学校などの区のイン
こうした疑問は数多く、高裁の舞台でこれらのことが噴出すること
もし、スタンダールがこんな現代日本の不動産評価事情を検証したら、どんな物語が生まれるだろうか。
この記事を書いた人
都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。