大手不動産の実験場・南船橋で始める 「スポーツ・エンタメ不動産」事業とは?(5/5ページ)
内外不動産価値研究会+Kanausha Picks
2021/06/30
東京ドームをお得に買収できた理由
三井不動産は今後、読売側に東京ドームの株式の2割を譲渡し、東京ドーム(スタジアム)の建て替えを視野に三井、ドーム、読売、巨人軍の相互連携を深めようとしている。
実は三井不動産は社名から「不動産」を外す検討をしたこともあるほどで、エンタメなど音楽やスポーツ、ゲームなどを事業の柱の一つに育てようとしている。それにはプロ野球球団の「巨人軍」を持つ読売新聞やゲーム会社などの新興企業に近づく必要がある。
南船橋ですでに関係の構築ができているミクシィとは、代々木のNHK近くで、JリーグのFC東京のホームを想定した多目的スタジアムの設置の検討も進めている。
すでにソフトバンク、楽天、DeNAはプロ野球やJリーグのサッカーチームをグループに入れているが、これはスポーツのソフトパワーにいち早く目を付けたからだ。最近もメルカリがJリーグの鹿島アントラーズの大株主になるなどIT企業とスポーツのつながりは強い。
つまり、三井不動産は、通信、ゲーム、通販、デジタル事業、オンラインビジネス、DX(デジタルトランスフォーメーション)に強いIT企業が持つソフトとしてのスポーツビジネスとの協調と競争で、新たな不動産関連の事業領域で主導権を握ろうと考えている。
三井不動産が「読売、東京ドームの3社の強みを十分に発揮し、一致団結して施設の魅力度を高め、施設周辺を含めた魅力ある街づくりを進める」と言えば、読売新聞グループ本社の山口寿一社長は「三井、ドームと協力して、読売巨人軍とドームが一体となった運営により、来場者に満足いただける観戦体験と価値を提供する」と答える。
総額約1200億円で東京ドームを買収した際、債務状況が不安視された三井不動産だが、実はこの買収は“お得な買い物”だった。
20年4月28日に公表された東京ドームの有価証券報告書を見ると、主要な設備の簿価は、東京ドーム(多目的ドーム、事務所)699.3億円、ラクーア(複合型商業施設)235.9億円、ビッグエッグプラザ(コンベンションホール)281.7億円、東京ドームホテル(ホテル建物)278.1億円、レジャービル(場外馬券売り場、ボウリング場ほか)217.7億円、アトラクションズ(遊園地)91.1億円、ミーツポート(複合型商業施設、多目的イベントホール、庭園)87億円などとなっている。これらを足していくと、ドームとその周辺の複合施設「東京ドームシティ」だけでも、簿価は1900億円近くになり、時価にすれば2000億円を上回り、三井不動産のTOBの総額を大幅に超える計算だ。
また、三井不動産は今年、日比谷・銀座エリアの観劇の祭典「Hibiya Festival2021」を開催。新たに出資した日比谷松本楼が「まちなか劇場」の会場となった。加えて、オンライン会場「HIBIYA FES CHANNEL」で配信中の映像コンテンツでは、松本楼のテラスを舞台に日比谷公園を借景とした能楽・オペラのパフォーマンス映像を公開するなど、将来の「スポーツ・エンタメ不動産」を視野に入れ、着々とテストを行っている。それを総合的に俯瞰できる地が「南船橋」なのである。
この記事を書いた人
都市開発・不動産、再開発等に関係するプロフェッショナルの集まり。主に東京の湾岸エリアについてフィールドワークを重ねているが、全国各地のほか、アジア・欧米の状況についても明るい。