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牧野知弘の「どうなる!? おらが日本」#13 外資系高級ホテルの日本進出陸続! 新たなホテル選び時代の到来

牧野 知弘牧野 知弘

2019/12/15

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外資系ホテル4大グループ/123RF

外資系ホテル 2023年までに7000室

最近街中に新しいホテルが目立つようになった。東京五輪を来夏に控えた東京のみならず、大阪、京都、沖縄などでも開業が相次いでいる。新規開業ホテルの増加は、年間3000万人を超えるようになった訪日外国人客の増加が背景にあることはよく知られている。これまでホテルを扱わなかった不動産会社や異業種からのホテル業への参入も増え、ホテル業界は活況を迎えている。いっぽうでホテルは作りすぎなのではないか、五輪が終われば 外国人はやってこなくなり、ホテルは閑古鳥になるのではとの憶測も飛び交う。

だが外野のかまびすしい議論とは別にこれからの日本におけるホテル開業予定を調べると、外資系ホテル、とりわけ外資系の中でも高級ブランドの開業が相次ぐ予定だ。今年から2023年までの国内でオープンを予定している外資系ホテルの一覧を別表に掲げた。驚くべきことに今後国内ではざっと7000室以上の外資系高級ホテルの開業が予定されているのだ。

外資系ホテルはマリオット、ヒルトン、IHG(インターコンチネンタルホテルズグループ)、ハイアットの4大グループに大別される。その中でマリオット系列のホテルが現在判明しているだけで17棟もの開業を予定。ほかにハイアット6棟、IHG5棟、 ヒルトン4棟がこの期間での開業を予定している。

外資系高級ホテルはこれまでは東京、京都、大阪といった日本を代表する都市には進出していたものの、国内地方都市への出店は行われてこなかった。ところが今後の開業予定をみると北海道ニセコで4棟、沖縄で4棟などリゾートエリアでの出店が目立つ。ニセコは今や外国人スキーヤーてんこ盛り、沖縄は南国リ ゾートで不動の地位にあり、いずれもインバウンド需要の高さに目を付けたものと思われる。ところが箱根、別府といった旧来型の日本の温泉リゾートや日光などの伝統的な観光地にも進出するブランドが現れ始めたのは新しい動きだ。

また地方都市への進出も相次いでいる。金沢にはハイアット系列のホテルが2棟、いずれも20年の開業を目指す。福岡には22年に県内では初の5スターホテルとなるリッツ・カールトン(147室)がオープンを予定。九州エリアでは長崎にヒルトン、鹿児島にはシェラトンの計画が進行中だ。広島にも22年にヒルトンが415室もの巨大ホテルをオープンする。京都にばかり押されていた奈良にもJWマリオットが 20年春に150室を構える。

東京にばかり集中しがちだった首都圏では横浜への進出が活発になってきた。ハイアットリージェンシーが20年春、横浜山下町の再開発ビルにオープン。同年夏にはハワイオアフ島の名門ホテル「ザ・カハラ・ホテル&リゾート」がみなとみらい地区に。22年 春には同じみなとみらい地区にウェス ティンホテルが373室を構える。

「エディション」など超高級ブランドの登場

ホテルブランド名でもこれまであまり日本ではなじみのなかったニューブランドがお目見えする。注目されるのが「超」のつく高級ブランドの登場だ。 東京の銀座と虎ノ門にいずれも20年にオープンする「エディション」は、 マリオットグループの最高級ブランド。個性溢れるラグジュアリーライフスタイル型ホテルを標榜。銀座80室、虎ノ門200室など決して大規模ではないが、「リッツ・カールトン」とは異なる スタイルの富裕層の取り込みを図っている。エディションは銀座、虎ノ門のほかでもニセコに進出するとの憶測もある。

IHGは東京新宿で新ブランド「キ ンプトン」を冠したホテル(162室)を オープンする。「キンプトン」はIHGの 最高級ブランド「インターコンチネンタル」とは異なる、ラグジュアリーライ フスタイルホテルとして位置付けて おり、エディションと同じカテゴリーの 対象顧客の取り込みを図る。

東京駅前で市街地再開発組合が開発する超高層複合ビルには 「ブルガリホテル」が入居を予定している。このホテルは三井不動産と世界的なファッションブランド、ブルガリの系列会社ブルガリホテル&リゾーツが合意したものでツインやダブルルームを主体にラグジュアリーなスイートルームで構成されたホテルだ。

4大ブランドの動きに隠れがちだが、沖縄県国頭郡恩納村には今年7月26日にハワイオアフ島の高級ブランドホテル「ハレクラニ」がオープン。京都では東京大手町に進出して話題となったアマンが今年11月1日にオープンした。

高級路線以外の特徴あるホテルも

「超高級」とは異なり心地よいデザインなどで勝負するブランドも多彩だ。20年春に東京銀座にオープンするマリオット系列の「アロフト」はマリオット系列でもとりわけデザインを重視したブランドで、世界20カ国150棟の実績があるが日本では初見参だ。ヒルトン系列のWホテルとコンセプトは近いが、Wホテルも21年2月に大阪の南船場に初上陸、337室を展開する予定だ。Wホテルは98年にアメリカ、ニューヨークに誕生したデザインホテルの草分けだが20年の時を経てようやく日本登場となった。

IHGの「インディゴ」も大規模なスーパーラグジュアリーホテルとは一線を画し、地域性からインスパイアされたデザインに特徴をもたせ、小規模でも居心地の良いブティックホテルを目指している。既に世界で80棟を運営する。日本では神奈川県の箱根や、愛知県の大山といった温泉リゾートでの独自の展開を図る。

供給過剰? 事業リスクはどうなる

作りすぎとも言われる国内の声をまるで無視するかのように外資系高級ホテルが陸続する日本だが、大丈夫なのだろうか。実は日本にやってくる外資系ホテルは、多くの場合、事業に対するリスクをほとんど負ってはいない。

外資系ホテルが日本に進出する場合には、「賃貸」、「MC(マネジメントコントラクト)」、「FC(フランチャイ ズ)」の3つの契約形態がある。賃貸は建物オーナーがホテル会社に直接賃貸する形式のものだ。実はこの形態のホテルはホテル会社側が運営リスクを直接負ってしまうためあまり行われてはいない。東京日本橋の マンダリンホテルや日比谷のペニンシュラホテル、六本木のリッツ・カールトンなど東京の一等地では実例があるが、外資系ホテルプランドはこの契約形態を基本的には好まない。

高級ブランドで多く締結されるのがMC契約だ。この契約では、建物所有者に自社やその子会社としてホテル経営会社を設立させ、その会社で従業員を雇用させ、経営責任を負わせるものだ。ホテルブランド会社からは総支配人や一部経理総務スタッフなどが派遣されるが、経営責任を負うことはない。東京ディズニーランドが実際はオリエンタルランドという日本の会社で経営されているのと同様である。ホテルブランド会社は総支配人などの人件費を負担させ、さらに多額のプランド料を徴収する仕組みになっている。虎ノ門のホテルアンダーズはハイアットグループのブランドだが、実際に経営するのは森ビルの子会社が行っている。

また大阪のANAクラウンプラザ大 阪は大阪のGHSという日本の独立系ホテル経営会社が建物所有者のダイビルから賃借したうえで、IHGから「クラウンプラザ」というブランドを冠してもらっている。

MC契約はホテルブランドに属することで総支配人などの派遣、ブランドの運営ノウハウの享受、そしてブランドの持つ世界中のVIP客を招くことができる予約システムの利用などが可能となることだ。

FC契約は、コンビニエンスストアなどと同じフランチャイズ契約だ。ホテル予約システムなどが利用でき、ブランド名での看板を掲げることができ、実際の経営のほとんどをホテル経営会社側が持つ。経営に自由度がある反面、ブランド側の支援は少ない。シェラトンなどはこの形式のものが多い。だが、経営の自由度が高い分、 高級なブランドになるほどFC契約は締結しない傾向がある。

肝心なのはMCもFCもホテル経営の責任は現地ホテル会社が負っているということにある。ホテル事業にはさまざまなリスクがある。万が一、 国内でまた大きな地震などが発生する(天変地異リスク)、韓国や中国などとの紛争が激化する(政治リスク)、リーマンショックのような景気悪化がある(経済リスク)、新型インフルエンザの流行が勃発する(疫病リスク)などのリスクが顕在化するとホテ ル経営は一気に厳しい状況に陥る可能性も覚悟しなければならないのがホテル経営だ。

実際に並んでいるこれらの新規ホテル計画のほとんどが建物所有者や事業主側が経営責任を負うMCやFC契約だ。外資系ホテルを誘致するためにあまり無理な投資を重ねていると、いざリスクが顕在化した時にこれらのホテル経営会社が大きなリスクを被り、割って建物所有者や事業主にもリスクが及ぶことも否定できない。

今回の日本の不動産の活況は、 都心部からスタート。不動産投資の波は大阪、名古屋などの三大都市圏から地方四市(札幌、仙台、広島、福岡)に飛び火、そして投資マネーは不動産を求めて沖縄に上陸している。最近では沖縄だけでなく全国のリゾート地の物件でも物色が始まっている。

平成初期のファンドバブルと言われた景気はリーマンショックで吹き飛んだ。この時のマネーの動きも東京都心を皮切りに沖縄で終焉を迎えた。今回はどうであろうか。日本に本格的な高級ホテルが定着するのか どこかで巨大なリスクが勃発するのか、目が離せない。

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この記事を書いた人

株式会社オフィス・牧野、オラガ総研株式会社 代表取締役

1983年東京大学経済学部卒業。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。数多くの不動産買収、開発、証券化業務を手がけたのち、三井不動産ホテルマネジメントに出向し経営企画、新規開発業務に従事する。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野設立、2015年オラガ総研設立、代表取締役に就任。著書に『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』『空き家問題 ――1000万戸の衝撃』『インバウンドの衝撃』『民泊ビジネス』(いずれも祥伝社新書)、『実家の「空き家問題」をズバリ解決する本』(PHP研究所)、『2040年全ビジネスモデル消滅』(文春新書)、『マイホーム価値革命』(NHK出版新書)『街間格差』(中公新書ラクレ)等がある。テレビ、新聞等メディアに多数出演。

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