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東京都(港区) 創業寛政三年『芝大門 更科布屋』 江戸の歴史と伝統を蕎麦で守り続ける

ねこやま大吉ねこやま大吉

2021/08/17

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写真/ねこやま大吉(取材日7月23日)

五輪とブルーインパルス、そして蕎麦

2021年7月23日、世界が注目するなか、東京五輪が始まる。無観客で臨む大会だが航空自衛隊ブルーインパルスが都内を飛行するとのことで、一目見よう、いや見たいとルートを確認、密にならないポイントを探す。

57年ぶりの東京五輪。その飛行を自身で見るのは最初で最後になるはずだ。入間基地から練馬区・新宿区などを経て国立競技場上空で五輪を描き北区・足立区などを飛行して、再び港区から入間に戻るようである。諸々試行錯誤の末、ランドマークと日本らしいショットを狙うため、芝大門の増上寺を撮影エリアと決め、機材をセッティングする。

予測飛行通過時間は12:40。

澄み切った天まで突き抜けるような青い空、その時が来る。6機の編隊を組むブルーインパルスが東京五輪の開催を宣言するかのよう、機体からカラフルな帯をつけ飛行していく。いよいよ始まる東京五輪。

増上寺を中心とする芝大門付近は江戸時代、門前町として栄えた一帯である。庶民の寺社参拝が盛んになると、参詣者を目当てとした旅籠や商店、手工業者の店が集まるようになり、その後、江戸屈指の遊楽観光地となる。

同じエリア内に「芝大神宮」という由緒ある神社があるが、この時代境内で相撲や芝居を興行することを唯一許され大変賑わっていたという。そして歌舞伎でも有名な「め組の喧嘩」の舞台になるのもここ「芝大神宮」だ。文化二年(1805年)のある日、「め組」の辰五郎と長次郎、その知人である富士松が芝神明宮の境内で行われていた相撲見物の際、些細なことから力士・九竜山と弟子たちとの大喧嘩。火消したちは火の見櫓の早鐘まで鳴らして仲間に知らせ、その騒動はいまだに語り継がれている。

創業寛政三年『芝大門 更科布屋』

江戸そば御三家「藪」「更科」「砂場」。ラーメンの“○○系”と同じでこれらは、蕎麦店の系統で江戸の街で営んでいた各店の呼び名。人呼んで、「江戸三大そば」「江戸そば御三家」。現在も、暖簾分けしたお店が看板に掲げている。そんななか、芝大門にはその御三家の「更科布屋」がある。創業は寛政三年(1791年)と230年もの歴史があり、七代目布屋萬吉氏がその暖簾をしっかり守っている。更科の後の布屋とは店主の名前だったとは知らなかった。

更科布屋の製粉は機械式ローラーを使うことなく人の手により丁寧に石臼を挽いている徹底ぶり。職人の経験と技が蕎麦の風味や色を余すことなく本当に旨い蕎麦を食べさせてくれるはず。店頭の提灯にも書いてある「御前そば」。真っ白なそれは蕎麦の実を挽いた際、最初に出てくる胚乳のみを集めた貴重な「一番粉」を使って打つことにより、色のある甘皮が混ざらない中心の芯部分だけを使い、純白で透き通る蕎麦ができあがる。

時計を見ればブルーインパルスも基地に戻った頃。今日は更科そばを食することにする。

そば味噌――赤味噌をベースに蕎麦の実と胡桃がふんだんに入っている。ピリッと舌を刺激する薬味が味噌を引き立て風味豊かで食感も楽しめる。「令和の禁酒令」下で酒は呑めないが、日本酒と合うのは間違いなさそうだ。

鳥焼――焼鳥ならぬ「鳥焼」。初見はつくねかと思いきや鳥肉をスライスさせ、甘辛たれでさっと焼いてある。付け合わせのピーマンもいい火の通り具合で旨い。鳥本来の旨味が口の中で広がる。焼鳥のようにたれを付けて何回か火の上に置くのでなく、焼きあがったものに後付けでたれをのせているからジューシー感がたまらない。

季節野菜天盛合せ――椎茸・玉ねぎ・蓮根・茄子・ピーマン・南瓜・エノキ。季節野菜が編隊で揚がってくる。衣はカリっと、野菜は本来の味が損なわれることなく素材がよく生きている。どれも旨いのだが特に南瓜は噛みしめるほど甘みが追っかけて来る。やはり揚げたて、蕎麦屋の天ぷらは間違いない。

ヌーハラなんてお構いなし 

三色そば――いよいよメインの更科そば。ブルーインパルスの奇麗な帯の色を思い出しながら、今日は、御前そばに二八と十割の三色にする。蒸籠で出てくるのは、その昔蕎麦切りが始まる前の蕎麦掻を蒸して運んだ名残といわれている。注文してから出るまでが早い。江戸っ子に愛されるわけだ。

風味がよく甘みもあり、なんといっても喉越しがいい。出汁は濃厚醤油をベースに、鰹の香りする少々甘めのもの。ヌーハラなんてお構いなし、やはり蕎麦は音を立てて食べるのが一番。店内には老若男女が蕎麦をすする音でこだましている。

〆を飾る蕎麦湯。この魔法の湯には、蕎麦を茹でるときに出る「植物性タンパク質」「水溶性のカリウム」「ビタミンB」「でんぷん」「食物繊維」「ルチン」などが凝縮しているのだ。出汁を蕎麦湯で割り飲み干した頃、更科布屋の営業は終了。やはり緊急事態宣言下であることを再度認識させられた。

江戸の新旧を味わった『芝大門 更科布屋』だった。

今回お邪魔したおいしいお店:『芝大門 更科布屋』
住所:東京都港区芝大門1-15-8
交通:都営浅草線/大江戸線 大門駅A6出口前、JR浜松町駅北口より徒歩3分

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この記事を書いた人

編集者・ライター

長年出版業界に従事し、グルメからファッション、ペットまで幅広いジャンルの雑誌を手掛ける。全国地域活性事業の一環でご当地グルメを発掘中。趣味は街ネタ散歩とご当地食べ歩き。現在、猫の快適部屋を目指し日々こつこつ猫部屋を制作。mono MAGAZINE webにてキッチン家電取材中。https://www.monomagazine.com/author/w-31nekoyama/

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