江東区森下(東京) 明治30年創業『桜なべ みの家』 東京下町の歴史と文化「蹴飛ばし」を食する
ねこやま大吉
2019/08/01
下町文化が残る「深川・森下」エリア
東京の街は、いま勢いよく変化している。1年立ち寄らないと見慣れた風景が新しいものに覆いつくされる。
仕事で調べる機会があり、旧江戸と今の東京の地図を照らし合わせる。江戸時代に埋め立てが始まった東京湾。このような埋め立てエリアの中で元々からある場所が、隅田川を中心に堅川・小野木川に挟まれた深川である。水運の街だったここは、人々によって独自の文化が育まれた場所でもあり、日本橋の鰻や牛鍋、神田の蕎麦などといったように高嶺の花ではなく、庶民が普段使いできる下町でもあった。
百聞は一見に如かず、深川・森下を探索することにした。
下町の伝統と文化を受け継ぐ『みの家』
都営線「森下」駅から2分ほど歩いたコンクリートジャングルの中に、“狙っていた店”があった。
木造2階建てでレトロ感かつ情緒溢れる店構えの 『桜なべ みの家』である。そして1畳はありそうな店の看板には、銅板に金文字で桜の花びらが施されている。「ここは間違いない」とひとり呟く。
創業明治30年と、120年以上の時を「蹴飛ばし桜鍋」一本でやってきた店の自信度が外観からも伺える。蹴飛ばしとは「馬肉」のことだ。
低カロリー・高タンパク質・鉄分を多く含む馬肉は、今も昔も大切な体への贈り物である。そして馬肉は当時、安くスタミナが付く貴重な食べ物であったのだ。不規則な仕事でヘトヘトとなった体に栄養を補給するため、さっそく食の冒険を始めるとする。
「蹴飛ばし」を食する
暖簾をくぐると下足番のスタッフが迎えてくれる。履物を脱ぎ座敷に案内されると、旅館の番頭さんを思い出した。外からは分からなかったが、店内の座敷は、40畳以上はあるであろうか。とにかく広い。商売繁盛の立派な熊手に迎えられながら中ほどの席に案内してもらうとステンレス製コンロ付きの長机が並んでいる。数えはしなかったが、いったいいくつの五徳が並んでいるのやら。そのさまは圧巻である。
早々にビールの中瓶を頼み、品書きと相談する。食べ物の品書きは17品、飲み物は8品しかない。まずは肉さし(馬肉の刺身)、 あぶらさし(たてがみの下の部分)を注文。
肉さしはロースの中心部だけを厳選し、赤身本来の旨味が口の中で広がる。臭みはなく、柔らかく淡白で生姜醤油との相性がいい。
あぶらさしはゼラチンの塊かと思いきや、肉のしっかりした歯ごたえと甘味がある。これは旨い。肉さし、あぶらさしをそれぞれ1枚ずつ食べるより2枚重ねて食べる方がさっぱり感と濃厚な脂が口の中で融合していく感覚を味わえる。
次に桜なべのロースとヒレを注文。鞍置き背中から腰の部分の部位が運ばれて来た。
薄い鉄板鍋には、割下に八丁味噌と白味噌のプレンド味噌がのっている。火を入れるとあっという間に食べ頃に。肉のあっさりとした味のあとに、割下がぐっと追いかけてくる。そしてまた肉の旨味がやってくる。ちょっとでも躊躇すると肉が硬くなってしまうといったところも江戸っ子気質に合っていたのかも知れない。次に葱・白滝・お麩を入れ、割下が行き届いたら食べ頃。肉の旨味を吸った割下が野菜本来の美味しさを引き立てる。
『みの家』に長湯はご法度である。さっと上がり、さっと食べ、さっと後にする。粋な大人の酒場なのである。
ちなみに『みの家』の店名の由来について店員の方は「初代が美濃国出身でそのまま店名になっているようですが、文献が残っていないので正確なことは分かりません」とのこと。
歴史と文化、そして粋な食文化が交差するこんな街に住んでみたくなった。
今回お邪魔した美味しいお店:『桜なべ みの家』
住所:東京都江東区森下2-19-9
交通:地下鉄都営新宿線・大江戸線「森下」駅A4出口より徒歩1分
この記事を書いた人
編集者・ライター
長年出版業界に従事し、グルメからファッション、ペットまで幅広いジャンルの雑誌を手掛ける。全国地域活性事業の一環でご当地グルメを発掘中。趣味は街ネタ散歩とご当地食べ歩き。現在、猫の快適部屋を目指し日々こつこつ猫部屋を制作。mono MAGAZINE webにてキッチン家電取材中。https://www.monomagazine.com/author/w-31nekoyama/