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賃貸・繁忙期 入居を逃さないためにオーナーができること

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かつて「事故」に遭ったオーナー

2023年が始まった。そして、年が明けるとともに賃貸住宅市場はいわゆる繁忙期に入っていく。2月、3月とこれが続く。新たに大学へ進む学生や新入社員が、新居を探すためどっと市場に出てくる。オーナーによってはこの時期が、年間を通して最大の勝負のタイミングとなる。

「繁忙期の入居を逃した部屋が、その後10カ月空室のままだったことがあります。私にとっては二度と起こしたくない事故となっています」

学生の入居が多い、単身者向けのアパートを複数経営しているあるオーナーの声だ。

仮にこのオーナーをAさんと呼ぼう。この“事故”の反省に立って、その後Aさんが行っていること、心掛けていることを紹介しながら、繁忙期を逃さないためにオーナーが「できること・すべきこと」をまとめていこう。

1.スピード――家賃を値引きしてほしい、に即答できるか?

Aさんは繁忙期、物件の入居者募集を任せている仲介(兼・管理)会社に対し、事前にこんなお願い=指示をするそうだ。

・家賃の値引きを求められてもお断りする
・代わりに1.5カ月分のフリーレントを推す

さらに、別の物件ではこんなパターンもある。

・礼金1→0カ月分への値引きは求められればOKする

ねらいはなんだろう? 答えは「スピード」だ。上記を事前に伝えられていることによって、仲介会社の担当者はいちいちAさんに問合せなくとも、自らがその場で相手に即答できる(オーナーに一度問合わせたような演技はしてもらう)。交渉の進捗が、要は早いのだ。

なお、このときの相手というのは、仲介会社の窓口に入居希望者本人が来ている場合はその人、いわゆる客付け会社から問合せが入っている場合は、そちらのスタッフとなる。
(後者のケースでは、入居希望者は客付け会社の窓口に来ている)

ともあれ、いずれにしても、

・客のリクエストに応えられるか否かの「回答」
・可能でない場合の「代案」の提示

これらが、時間をかけず即時に行える体制をあらかじめ整えておくことに、Aさんは重きを置いている。

「繁忙期のお客様の場合、急いでいる方がとても多いんです。入学や就職、転勤等に絡んでのさまざまなスケジュールに追われているため、早く物件を決めたい人が多い。なので、要望に対する答えに窓口がまごついているようだと、彼らは待ちきれません。別の物件に目を移してしまう可能性も高いでしょう」

それを防ぐための「スピード」であり、そのための「窓口に先に答えを渡しておく体制」ということだ。

そのうえで、さらに込み入った判断や、イレギュラーな回答を求められる場合ももちろんAさんは想定している。

「繁忙期は、メール、SNS、電話、どの連絡手段にも素早く対応できるよう、旅行は控えます。スマホを居間にほったらかしにして庭仕事に興じるといったことも無いよう注意しています」――とのことだ。

2.情報――「この物件に決めてしまおう」を早く引き出すために

物件選びを急いでいる入居希望者にとって、短い時間でどれほどその物件に関わる情報が得られるかは、とても大事なポイントとなる。

そのためAさんは、特に繁忙期の募集では、物件に入念に説明書きを添えることにしているという。要は「POP」だ。

「物件を一度ぐるりと内見してもらえれば、その短い時間にメリットが全部伝わるよう、POPでしっかりとアピールします」

たとえば……

「エアコンは〇〇社〇年製。省エネ型のモデルです」
「天井にあるのは洗濯物を部屋干しするのに便利な室内物干しユニットです」
「窓は遮熱性能の高い二重窓にリフォームしてあります。冷暖房が効きやすいので、夏は涼しく冬は暖かです」

加えて、こんなアピールも……

「この壁紙はご入居までに新品に張り替えられます」
「このキズ・汚れは修復されて無くなります」

「特に繁忙期の内見では、物件がまだ原状回復やクリーニングされないうちに、お客様がいらっしゃることも多いんです。なので誤解がないように、こういった情報もその場でちゃんと伝わるようにしておきます」

そして、そんな努力が実った結果……

「この物件気に入ったな。いまの時期、グズグズしていると誰かに取られちゃうかも。ほかの物件見るのやめて、さっさとここに決めちゃおうかな」

丁寧な説明による好感度アップとともに、入居希望者にそんな決断もしてもらうのがAさんのねらいだそうだ。

3.通う――物件の臨戦態勢をつねに整えておくために

内見が多くなる繁忙期、Aさんは自身の物件に通う頻度を一段と高める。「臨戦態勢」をつねに整えておくためだ。

「たとえば、内見のお客様が訪れたその日に、たまたま表の通りから敷地内にゴミをポイ捨てされていて、それがお客様の印象を悪くするなどしたら台無しです」

さらに、もっと驚くケースでは……

「内見中に部屋のトイレを使われ、汚されたことがあります。気付かずにいたら大変でした。あろうことか、客付け会社の従業員が物件の廊下にタバコの吸い殻を捨てていったこともあります。入居者の方が通報してくれました」

そういったことにもすぐに対処できるよう“パトロール”に最善をつくすということだ。

なお、その際はもちろん物件の掃除も行う。なおかつ、そうしている間に入居希望者が仲介会社のスタッフとともに内見にやってくることもある。

そんな時は、「ここの大家です。どうぞゆっくり見ていってください」――Aさんは明るく挨拶をし、さらなる印象アップを図るそうだ。

なお、そうした場面に備えて、

「服装は気さくな作業着スタイルで。物件の前にウチのやや偉そうな車(高級外車)を停めるのも必ず避けるようにしています」

フリーレントを選ぶ理由

以上、「賃貸・繁忙期 入居を逃さないためにオーナーができること」と題して、3つの工夫を並べてみた。参考になる点があれば、ぜひ実行を検討してみてほしい。

ところで、最初の工夫のところにあった、

・家賃の値引きを求められてもお断りする
・代わりに1.5カ月分のフリーレントを推す

この考え方について、若干説明を加えておこう。

まず、フリーレントのようなオーナーにとっての一時的な損失に対し、家賃の値引きは、期間が伸びれば伸びるだけ拡大していく終わりの見えない損失だ。なので、両者を比較したうえで、終わりが明確なフリーレントを選ぶというのがAさんの考え方だが、賛同する人は多いだろう。

そのうえでAさん曰く、フリーレントを採る理由はもうひとつあるとのこと。それは――

「どのみち家賃発生が遅れることが、繁忙期の契約では多いからなんです」

つまり、繁忙期の部屋探しでは、入居希望者側として、

「物件確保のため契約は急ぎたいが、実際の入居は入学等に合わせ、契約時点よりもかなりあとになる」

そんなケースも生じやすい。

その際、「実際の入居日か、それに近い日まで家賃発生を遅らせてほしい」とのリクエストがオーナーには寄せられることが多く、対して、オーナー側としては契約がほぼ手中にある中、これを断りにくい。

「そこで先回りしてのフリーレントなんです。1.5カ月分は、実はもともと想定済みの損失なのです」

なかなかにスマート、あるいはクレバーなAさんの答えだ。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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