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賃貸・滞納が起きる前に「させない」ため、オーナーができること

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家賃滞納・未然の対策

賃貸住宅オーナーに向けた「家賃滞納」対策として、いわゆる回収の段取りや訴訟など、法的な手続きを中心としたガイダンスは数多い。

ただし、それらはどれも滞納が起きてからの対策だ。入居者に滞納をさせないための未然の策というわけではない。

では、その未然の対策について、考えられるものがあるとすれば何だろうか?

この記事では、そのひとつとして、オーナーや管理会社、家賃債務保証会社が少なからずやっていないあることについて、あらためて提案をしたい。

答えを先にいおう。それは的確な救済情報の提供だ。

滞納は理由があって発生する

滞納は、それ自体がいきなり0から起きるものではない。かならず理由があって発生する。

理由の中には「うっかり」もある。振込み忘れや、銀行口座残高の確認漏れなどがそうだ。ただし、これらは多くが一時的なミスであって、深刻な意味での滞納とは呼べないものだ。

一方、家賃を払いたくともお金が無い、足りない、といった困窮状態に入居者が陥っているため、滞納が生じることも当然ながらある。すなわち、それこそが深刻な意味での滞納であり、真の滞納といっていいだろう。

真の滞納が起こる理由は主に、

・倒産、失職や業務の削減、病気などによる「収入の減少」
・予期せぬ事故や家族の扶養等、さまざまな要因による「出費の増大」

あるいは、運悪く両者が重なって入居者の身に降りかかる――といった辺りになってくるだろう。

よって、真の滞納が起きるプロセスの多くは、至極あたりまえだが、以下のようになる。

1 収入の減少や出費の増大を招く元々の原因の発生
2 上記による経済的困窮
3 家賃に充てる資金が足りなくなっての滞納

そこで、このうち1については、オーナー側の立場では関与が通常不可能だ。入居者が勤めている会社の倒産をそこと特段縁もないオーナーが事前に防いでやることなど、出来るわけもない。

しかし、2の段階ではそうでもなくなる。

たとえば、困窮時に頼ることができる公的な支援窓口の存在を誰かが本人に教えてやれば、本人はそれを手掛かりに、破綻の一歩手前か、数歩手前で踏みとどまれる可能性も少なくない。

要は、オーナーはそれによって滞納に遭わずに済むわけだが、そのための情報提供は、管理会社なども含むオーナー側が進んで実行しても益こそあれど損はない、手間もさほどかからない、賃貸経営のための有用な自衛手段といえるものだ。

入居者に知らせるべきは、個々の制度の詳細以上に「窓口」

家賃が払えなくなるほどお金に困っている人に対し、これを救済する公的な制度といえば、近ごろ広く名が知られたものに「住居確保給付金」がある。いわゆるコロナ禍にともなって、世の中に大いに膾炙した。

ほかにも、社会福祉協議会が所管する各種の生活福祉資金がある。こちらもやはり2020年以来(国内初の感染者確認)の新型コロナウイルス感染拡大にともなって、多くの人が知るところとなったものだ。

そこで、効果的なのは、こうした制度に的確にアクセスできる窓口を入居者に紹介することだ。

これら各制度は、厳正な運用が追求されるうえで致し方ないことながら、いずれも仕組みが込み入っている。

なおかつ、改正等もふまえた情報の“鮮度”も問題となるため、詳細を第三者が逐一理解しながら紹介することについては、無駄もリスクも多い。

よって、より確実なのが、これらの制度になるべくワンストップでアクセスできる公式な窓口を困っている人に紹介し、利用を促してやることだ。

キーワードを挙げよう。それは「自立支援」となる。

この言葉は、主には2013年に制定された「生活困窮者自立支援法」という法律に因むものだが、これにより「生活困窮者自立支援制度」がスタートした(15年)。それにもとづき「自立相談支援事業」を行うことが、全国自治体の必須業務となっている。

具体的には、生活困窮者のための相談窓口が、これらにより一本化された。

以前は、高齢者、障がい者、子ども等、対象・分野ごとに縦割りされていたものが、以降は自治体ごとに設けられた「自立相談支援機関」または「自立相談支援事業所」が窓口となって、あらゆる相談に対する包括的な対応を行う体制が整備されている。

そこで、まずは各々の自治体にある上記「機関」「事業所」の窓口・連絡先を見つけることだ。

方法はとても簡単。各自治体に電話で「生活困窮者『自立支援』窓口を教えてください」と、問合わせればよい。あるいは、厚生労働省ウェブサイトの下記ページを開いて、全国市区町村の窓口一覧を覗くことも可能だ。

参照サイト:「厚生労働省 生活困窮者自立支援制度 制度の紹介」

自立支援窓口&社会福祉協議会――年1度の周知を

なお、上記厚労省のページを開くと、各自治体によって窓口名がそれぞれ独自のものになっているのが判るだろう。また、これらを運営している「実施者」も、自治体の課・係であったり、委託されているNPO等の法人であったり、あるいは社会福祉協議会だったりと、いくつかケースが分かれていることも理解できるはずだ。

ともあれ、生活困窮者が基本として最初にアクセスすべき窓口はこれらとなる。

よって、これらの名称・連絡先を入居者に普段から把握しておいてもらうことで、オーナー(あるいは管理会社等)は、彼らにいざというときの命綱を一本渡しておくことができる。

加えて、生活支援にかかわる実務範囲の広い社会福祉協議会の連絡先も――上記と窓口が別の場合は――重ねて添えてやることで、

「困窮している状態を家族にも誰にも言えず、相談相手も知らないまま、ついに経済破綻し、家賃滞納――」

よくあるこのパターンを未然に防ぐ決め手となる可能性は高いはずだ。

なので、たとえば年に1度ずつ、

「ご入居者様へ 万が一経済的な支援が必要になった場合は(家賃のお支払いが苦しい状態になった場合等)――」

などと題してレターを配り、そのなかにこれらの情報をしたためておくことについて、オーナー側がためらうべき理由は何ひとつないだろう。

ちなみに蛇足となるが、困窮した賃貸住宅の入居者が手元のスマホやPCで「家賃が払えない」――云々をネット検索していくと、彼らはときに消費者金融やカードローンを解決手段として掲げるサイトに行き着いたりもする。

もちろん、それらを上手に利用して窮地を脱するケースもないことはないのだろうが、それらによって、彼らが人生の躓きをさらに重ねる可能性も少なくない。

よりセーフティな公助の存在を知らないのであれば彼らはそれを知るべきだし、彼らの躓きの影響を受ける立場にある者は、できれば機会を通じて彼らにそのことをレクチャーする努力を惜しまないでおいた方がよいだろう。

家賃債務保証会社の存在はあっても

しかしそうはいっても、「家賃滞納はオーナーにとっていまやさほどのリスクではなくなった」と感じている人も、多分少なくないだろう。

ここ10年から20年ほどの間に大きく広がった家賃債務保証会社による保証サービスの利用が、そのほとんどといっていい理由だ。

とはいえ、こうしたサービスをたとえ利用していたとしても、賃貸オーナーとして、自身の物件で滞納が起きても「一向に気にならない。心配もしない」という人は、ほぼいないはずだ。

なぜなら、そこでは人間がひとり、高い可能性で「追い詰められた」状況に陥っている。

そのうえで、これをひたすら気の毒に思う視点、何か別のリスクに発展しなければいいがと不安を感じる視点、いずれがあるにしても、オーナーはその間落ち着かない時間を過ごさざるをえなくなることはいうまでもない。

すなわち、家賃債務保証会社の存在があったとしても、やはり、滞納は極力起きてほしくないことであり、できれば未然に防いでおきたいものだ。

もちろん、購入した中古物件に、家賃債務保証会社と契約のない古くからの入居者が住んでいるといったケースもままあることだ。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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