民泊ビジネスの表と裏
ウチコミ!タイムズ編集部
2015/11/09
最近なにかとニュースに取り上げられている「民泊ビジネス」。ニュース等で報道される情報には限りがあります。かい摘んだ情報では無い、本当の姿や側面について整理したお話しをしていきたいと思います。
【民泊ビジネスの現状】
ニュース等で報道されている通り、一昨年より観光客が大幅に増えて、日本国内の宿泊施設が不足しています。東京、大阪、京都、福岡、札幌など主要な都市ではより顕著な影響が出ています。
国内で仕事などのホテル予約も、宿泊施設の不足から非常に困難な状況が生まれています。更に、2020年の東京オリンピックに向けて、需要の増加が急激な伸びを見せています。
この事に反して、日本国内では人口減少や高齢化に端を発する「空き家問題」が深刻さを増しています。
住み手が居ない事や、賃貸住宅の飽和状態等により放置されている「古い住宅・老朽化した賃貸住宅」などが地域の環境悪化や犯罪の拠点に使われるなど、行政が予算を組んでまで取り組まなければいけない問題が顕在化してきています。
正に両者を解決する「一つの光明」として「民泊ビジネス」が台頭してきつつあります。
そして、今現在の「民泊ビジネス」は、一般の方も法人化して参入している方も「Airbnb」に代表される「宿泊紹介サイト」・・・ほとんどはアメリカ等の海外で発展したインターネットサイトを媒介して展開されています。
簡単に言えば、空き家などの所有者が「自分自身若しくは斡旋業者」から先ほどの「宿泊施設紹介サイト」に物件を登録して宿泊者を募集して、直接お客様(宿泊希望者)と直接やり取りをして営業します。
物件を登録するのは、基本的には「オーナーさん」ですが、賃貸住宅などの所有者から「民泊ビジネス」の許諾を得て、賃貸住宅の転貸(所有者から許可を貰い所有者に準ずる立場)のような形式で宿泊希望者を募り旅行者を宿泊させて料金を徴収します。料金徴収については、サイト側がクレジットカードで徴収して、物件登録者に送金支払いをしています。その際、サイト側に手数料を数パーセント差し引かれています。
後は、旅行者が利用するたびに部屋のクリーニングやベッドメイキングを行う事。以上のような流れが一般的なものです。
【民泊ビジネスの問題点】
報道などでも取り上げられている通り、完全に合法なビジネスではない事が最大の問題点です。
①旅館業法等の許認可が必要な事。
報道でも取り上げられていますが、宿泊料をとって宿泊施設を斡旋する事が既に旅館業法に該当する行為になりますので、宿泊料を他の名目に変えても逃れる術はありません。つまり、都道府県に対して「旅館業」の許認可が必要になるという事です。
そして、旅館業の許認可を受けるためには、宿泊施設の建物にも建物の基準・設備の基準・衛生基準など・・・。沢山の条件もあります。タダで安く上手くやろう・・・なんて事は難しいのです。
最近でも、「京都市で旅館業法違反の疑いで逮捕者」のニュースが流れていましたね。容疑は「無許可営業」という事です。
賃貸住宅の空き部屋を使った営業でしたが、住民が通報した事から今回の騒ぎになりましたね。良く考えて見れば、こんな事が続けられるわけもない事が分かります。
この様な宿泊施設を利用する旅行者は、そんな事情も知りませんし、旅行者です。騒いだり、羽目を外すなんて誰にでも想像ができます。
他方、賃貸住宅だと思って入居されている住民にとってみれば、自分たちの大切な生活の拠点です。オートロックや環境などを気に入って入居して見たら、知らない外国人が時間の区切りも無く出入りして、夜遅くなっても騒いだり出入りを繰り返したり、ゴミ出しなどの色々なルールも守られない・・・。通報されないわけがありません。
「内緒でうまくやろう・・・」なんて思っている方! 注意してくださいね。
次の話も、怖い話だと思います。
②火災保険の話
皆さん、建物には「用途」というカテゴリーがあるのはご存知でしょうか? 何の話をしようとしているかといいますと、火災保険の話です。
建物を所有する大家さんであれ、賃貸物件を所有者から転貸している方にしろ、今の日本でしたら100%近い方が何らかの形で「火災保険」に加入している事と思います。
ここで先ほどの「用途」が関係してきます。火災保険などには、この用途によって「火災保険の料率」や「火災保険の補償内容」などが沢山のカテゴリーに分かれています。
簡単に言いますと、契約内容と違う使い方をしている場合「火災保険が効かない場合がある」と言う事です。
保険の契約をする際に、宿泊施設として不特定多数の利用者が出入りする営業を行う前提で保険加入していれば問題ありませんが、賃貸住宅としての火災保険の加入でしたら、大変です。
民泊として建物を運用している時に、火災が起きても「保険金が出ない」事が予測されます。実際に、保険会社の人に確認しましたが、100%下りないそうです。
では、宿泊施設として「火災保険」に加入すればいい! その通りですが、通常の火災保険の倍ではすみません。つまり保険料が高いのです。
建物の状況や状態もいろいろ違いますし、宿泊施設という建物は、保険会社にとってもリスクが高い建物です。
個人の自動車保険と、法人契約の自動車保険の違いを想像して頂けるとわかり易いと思います。物件の状況によっては加入できない建物もありますので、注意してください。
③事件や事故について
これは現在ではまだ大きな事件が起きていませんので、見過ごされているお話しです。しかし、一旦大きな事件が起きた場合、物件の所有者や管理者の責任は無視できないでしょう。
けが人などが「訴訟」でも起こしてきた場合・・・。考えられている方はどれほどいらっしゃるのでしょうか? 不特定多数の旅行者を迎い入れるのですから、想定の範囲を超えたリスクも考えないといけないでしょう。
④家賃保証と民泊代行会社について
賃貸住宅を民泊代行会社に運用させている大家さんで、賃貸契約を普通賃貸借で行っている方がいるようです。
この契約形態で保証会社を利用していても、事実関係、つまり宿泊施設として利用している事が保証会社の知るところとなった場合、保証内容は事実上白紙となります。「契約違反」「事実不告知」という名目です。
そうなりますと、連帯保証も家賃保証も無い状態となり、契約者が家賃を滞納しても大家さんが自分の費用負担と自分の労力だけで全てを解決しなければいけなくなります。あなたの依頼しているパートナーは本当に大丈夫なのでしょうか?
【考察】
現在、民泊ビジネスは旅館業法などの障壁も多く大手企業は参入していません。ここまでお話ししてきましたとおり、その依頼した会社も「いつ摘発されるか」わかりません。
法律違反の問題、物件での事件・事故・火災、民泊ビジネスでの多様なトラブル、そして依頼している会社との状況・・・。
一方では、宿泊施設の不足から「国を挙げて規制緩和」を模索しています。一部の地域では規制緩和の為の条例を施行し始めています。ですが、全ての規制を緩和していないので、実質的には機能しないと思われます。
この規制緩和の状況については、近いうちにまとめてお知らせします。あわせて、民泊ビジネスの状況などもお知らせしていきます。
ここまでの事を見て頂いただけでも旅館業は大変な事が伝わるのではないでしょうか? いまこの状況で安全に民泊を考えているのでいたら、旅館業法の許認可を考えるのが一番いい方法でしょう。又は、国の規制緩和を待つかですね。
個人単位で行うのであれば、一戸建て住宅系の空き家を流用した民泊でしょうか。他人任せのリスクは、予想以上に大きいので注意しましょう。
この記事を書いた人
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