最近増えている「敷金トラブル」について知っておこう
川合晋太郎
2016/01/07
通常の生活をしていれば敷金は返ってくる
部屋を貸す大家さんにとっては、入居審査をしたとはいえ、毎月の家賃をちゃんと払ってくれるかは、当然、気になるところです。また、入居者の不注意で部屋に傷をつけられたり、設備を壊されたりしてしまった場合に、その修理費をちゃんと支払ってもらえるかどうかも不安です。
そうした場合の保証金として預けるのが敷金です。敷金は、基本的には退去時に全額を返してもらえますが、家賃の滞納や設備の破損があった場合には、その分を敷金から差し引かれます。
たとえば、禁止されているのに柱に釘を打ちつけてしまったり、壁に穴をあけてフックを取りつけたり、タバコの不注意で畳などに焼け焦げを作ってしまった場合の修繕費は、敷金から差し引かれる対象となります。
一方、普通に生活していて傷んだものについては敷金で修繕する必要はありません。なぜなら、こうした経年劣化による痛みを補修する費用は、もともと家賃に含まれていると考えるからです(最高裁平成17年12月16日判決等)。
ですが、実際には退去するために敷金を清算したところ、たとえば20万円以上預けていた敷金が1万円しか戻ってこなかったというような場合があります。そして、明細を見てみると「畳の張り替え、室内クリーニング代」と書かれていて、入居者としては傷をつけたわけでもないし、汚したわけでもないのに納得がいかないというケースが多く起きているのです。
これが原因で管理会社や大家さんとのトラブルに発展してしまうのが「敷金トラブル」です。
特約がある場合はどうする?
畳にしろ、壁紙にしろ、普通に生活をしていれば当然、古くなっていきます。前にも書いたように、そうした経年劣化による痛みを補修する費用は、もともと家賃に含まれていると考えるべきものですがから、入居者には畳や壁紙を新しいものに張り替える義務はありません。そうした費用は大家さんが負担するものです。
ちなみに、最近の契約書には、「畳や壁、ふすまなどの修理・取り替えは借り主(入居者)の負担において行なう」といった特約があるケースが少なくありません。よくあるのが、退去時の室内クリーニングの費用を敷金から差し引く内容の特約です。
ただし、このような特約は、賃借人の義務(原状回復義務)の例外としての特約であることが説明された上で、書面上も義務の範囲が明確にされ、金額が相応な時に、有効とされます。ですから、特約があった場合でも、差し引かれた金額の内訳が不明であったり、金額が大きいときなどは、管理会社と話し合って、敷金の清算をやり直すよう求めましょう。
正しい知識を身につけてトラブルを回避しましょう
入居者は、借りている部屋を注意して使わなければいけません。このことは、民法のなかで「善良なる管理者の注意義務」として定められています。
それなのに、掃除をまったくしなかったためにカビが生えてしまったとか、タバコの火で床に焼け焦げをつくってしまったなど、入居者の不注意によって損害を与えてしまった場合は、入居者はその補修費用を負担しなければなりません。
とはいえ、なかにはフローリングの一部に焼け焦げをつくってしまったからといって、フローリングの全面張り替え費用を請求されるようなケースもあります。本当にそこまでする必要があるのかどうかは疑問です。
賃貸契約では、退去の際に「原状回復」しなければいけないのが原則です。しかし、原状回復とは入居時の状態に戻すことを意味しているわけではありませんし、ましてや新品にしなければならないわけでもありません。
ですから、本当に全面張り替えが必要なのかどうか、部分的な補修を行なえば問題ないのではないかということを確認しましょう。場合によっては、自分で業者に依頼して見積もりを取ることも必要かもしれません。管理会社のいうなりに応じるのではなく、適正な金額はいくらなのか、管理会社に確認、交渉してみてください。
賃貸物件に住むということは、あくまで部屋を一時的に借りているということです。退去時のトラブルを防ぐためにも、普段から部屋はきれいに使用するよう心がけましょう。しかし、退去時に不当に修繕費を請求されたり、敷金を返金してもらえない場合は、国土交通省のガイドラインなどを参考に納得いくまで話し合いをすることも大切です。
この記事を書いた人
弁護士
1961年、静岡県浜松市生まれ 中央大学法学部卒業。 千代田区麹町において、弁護士3人が所属する川合晋太郎法律事務所を経営している。不動産の仲介管理会社の顧問を10数年勤め、企業、個人の賃貸借、相続等の不動産に関わる問題を中心に弁護士としての業務を行なっている。 東京弁護士会に所属、社会保険労務士 紛争解決手続代理業務 試験委員、年金記録確認東京地方第三者委員会委員等の公務にも就任した。 著作に共著として、「賃貸住宅の法律Q&A」(住宅新報社)等がある。