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申込金をめぐるトラブルについて

森田雅也森田雅也

2023/02/09

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今回は、不動産の賃貸や売買の際に、入居希望者や購入希望者から、いわゆる「申込金」を受け取る場合にまつわる、生じうるトラブルについてみていきたいと思います。

申込金とは

そもそも「申込金」の正確な意味は何でしょうか。
「申込金」とは、正確には「申込証拠金」といい、よく「預り金」とも呼ばれます。ここでは、「申込金」と統一することにします。

申込金とは、賃貸や売買の契約成立前に、目的物を予約しておくために支払うお金のことをいいます。額としては数万円程度であることが多いです。

申込金を支払うことによって、その物件の入居や購入を希望する他の人よりも優先して物件を借りたり売ったりしてもらえることになります。申込金を支払っておけば、例えば、ある物件を気に入ったが購入資金調達に時間がかかるといったような場合に、資金調達の間にその物件が他の人の先に売られてしまわないようにキープするということが可能となります。つまり申込金とは、優先的に契約するための予約金、ということができます。

申込金の支払いがあった後、実際に契約に至った場合には、支払われた申込金は、その契約に伴う費用の一部に充てられることとなります(売買なら購入資金として)。
逆に契約に至らなかった場合には、受け取った申込金は全額返還しなくてはなりません。申込金は、あくまで契約成立前に、他の人に優先して無事に契約を成立させるための予約金にすぎないので、契約が成立しなかった以上は、返さなくてはならないのです。

このことは法律で明確に定められています。宅地建物取引業法第47条の2第3項、宅地建物取引業法施行規則第16条の11第2号が、「宅地建物取引業者の相手方等が契約の申込みの撤回を行うに際し、既に受領した預り金を返還することを拒むこと(条文から引用)」を禁止しています。

ちなみに、申込金を受け取った際に、受け取ったことの証明書をわたす場合には、領収証ではなく「預かり証」をわたす必要があります。申込金はあくまで優先的に契約するための予約金として預かっているにすぎないものだから、領収証ではないわけですね。

手付金と混同しないで

申込金とよく混同しやすいのが手付金です。手付金とは、賃貸借契約であれば賃借人から賃貸人に、売買契約であれば買主から売主に対し、交付される金銭のことをいいます。手付金は、申込金とは異なり、契約成立前ではなく、契約成立時、あるいは成立後に交付されます。

手付金は何のために授受されるかというと、一言でいえば、契約を互いに簡単にキャンセルさせないようにするためです。目的物が不動産のように、額が大きいとか複雑な手続きが必要だとかいう契約の場合に、簡単にキャンセルされたらたまったものではありませんからね。 

手付金が一度授受されると、契約を自己都合でキャンセルするためには、賃借人や買主であれば、交付した手付金の放棄をしなければなりません(交付したお金は戻ってこないということです)。賃貸人や売主であれば、受け取っている手付金の倍額を賃借人あるいは買主に支払わなければなりません。このことは民法557条1項に定められています。

ここで申込金と手付金の違いを一言でいうならば、賃貸人や売主が、「申込金」を没収することは許されないが、「手付金」は没収することができる、ということになります。

生じうるトラブル

ここまで申込金の性格についてみてきて、申込金を巡りどのようなトラブルが生じうるか、ある程度の想像がついているかもしれませんが、ここで整理していきましょう。

  • 申込金交付後、契約成立前に申込みが撤回された場合
    →「いったん受け取った申込金は返還できません」等と言うことは許されず、必ず返還しなくてはならない
  • 賃貸借契約の場面で、賃借人が物件を借りるという契約申込みの意思を示すため、賃借人から不動産会社へ申込金が交付された場合

①「賃貸人が賃貸借契約の申込みを承諾して、不動産会社からその申込金を受領すると、そこで賃貸人と賃借人の賃貸借契約が成立して、申込金が「手付金」に変わる」という方式をとる場合
⇒契約解除の場合は手付金として清算

②賃貸人が賃貸借契約の申込みを承諾して、賃貸人と賃借人の賃貸借契約が成立した段階を過ぎてから、賃借人が契約を解除する場合に、不動産会社が、預かった申込金を「手付金」だと称して返還しない場合
⇒あくまで申込金として預かっていたのだから、不動産会社はそれを返さなくてはならない

申込金を巡っては、以上のようなケースが想定されます。
このような場合にトラブルが大きくならないためにも、契約前に交付される金銭の意味をしっかり説明して、相手と共有することが重要です。

例えば、「お預かりしました金員は、賃貸借契約申込金としてお預かりし、申込みが撤回されたときは全額お返しします。」といった文言を記載した重要事項説明書を交付してから申込金を受け取るなどし、トラブルにならないようにすると良いでしょう。

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この記事を書いた人

弁護士

弁護士法人Authense法律事務所 弁護士(東京弁護士会所属)。 上智大学法科大学院卒業後、中央総合法律事務所を経て、弁護士法人法律事務所オーセンスに入所。入所後は不動産法務部門の立ち上げに尽力し、不動産オーナーの弁護士として、主に様々な不動産問題を取り扱い、年間解決実績1,500件超と業界トップクラスの実績を残す。不動産業界の顧問も多く抱えている。一方、近年では不動産と関係が強い相続部門を立ち上げ、年1,000件を超える相続問題を取り扱い、多数のトラブル事案を解決。 不動産×相続という多面的法律視点で、相続・遺言セミナー、執筆活動なども多数行っている。 [著書]「自分でできる家賃滞納対策 自主管理型一般家主の賃貸経営バイブル」(中央経済社)。 [担当]契約書作成 森田雅也は個人間直接売買において契約書の作成を行います。

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