部屋探し以外でも面白い 人生が変わるきっかけになるかも— —「日本周遊 賃貸ポータルサイト散歩」のススメ
賃貸幸せラボラトリー
2022/01/21
イメージ/©︎9edo・123RF
用が済んだらサヨナラはもったいない
賃貸住宅ユーザーにとって、不動産ポータルサイトはなくてはならない存在だ。
もっとも、これに触れる機会となると、通常は数年に一度の部屋探しのときに限られる。それ以外でポータルサイトを開き、物件を検索してみることなど、ほとんどの人はおそらくないはずだ。
自動車ユーザーやバイクユーザーであれば、自らがなんらかの車種のオーナーになったあとも、新車情報や、ライバルモデルのインプレッションなどが気になり、多くが専門サイトや雑誌をたびたびチェックする。
しかし、不動産ではこうした傾向はほぼない。物件探しの目的が達せられれば、そこでポータルサイトとは一旦サヨナラだ。また数年後に逢う日まで——が、通常となる。
だが、実のところそれではちょっともったいない。不動産ポータルサイトは、特段目的がない場合でも、覗くと結構面白いのだ。
そのうち、今回は賃貸の分野に限っての話を3つ語っていこう。
サイトを開き、あの街……この駅……と散歩をしているなか、アナタの人生を変えるきっかけが飛び出す可能性もある。
家賃総額10万円・魅惑の4都市周遊生活プラン
最初に、とびきり夢っぽい話から入ろう。否、一部の人にとっては夢でも空想でもなく、すでに検討事項かもしれない。「家賃10万円・魅惑の4都市周遊生活プラン」のススメ、というものだ。
どういう話かというと、別に「10万円」「4都市」だけにこだわらなくともいい。要は、不動産ポータルサイトで日本中のあちこちの街の賃貸物件を検索してみると、賃料月額管理費込みで2万円台半ばくらいまでの結構“まとも”な単身用の物件が、いくつも存在することが分かる。
つまり、4都市=4部屋で約10万円、3都市=3部屋ならば約7.5万円の家賃コストで、これらを全部同時に借りることができてしまうわけだ。なお、10万円も7.5万円も、東京の都心部ならば1Kやワンルームでもよく見られるありふれた金額だ。
西の方から見ていこう。物件はどれも木造ではない。鉄筋・鉄骨系のマンションだ。なおかつ全て新耐震基準(81年6月以降の建築確認)が推定される建物で、もちろんバス・トイレ付きだ。この12月下旬(21年)に実際に大手ポータルサイトを巡りながら拾ってみた。
鹿児島……ワンルーム 2.5万円(市電徒歩10分以内)
福岡……1DK 2.3万円(JR徒歩10分以内)
松山……1K 2.3万円(私鉄徒歩10分以内)
広島……1K 2.5万円(市電徒歩5分以内)
岡山……ワンルーム 2.2万円(JR徒歩10分以内)
京都……1K 2.3万円(私鉄徒歩5分以内)
金沢……1K 2.5万円(JR徒歩10分以内)
名古屋……ワンルーム 2.4万円(地下鉄徒歩5分以内)
仙台……1K 2.7万円(地下鉄徒歩5分以内)
札幌……1DK 2.0万円(地下鉄徒歩10分以内)
いかがだろうか。ポータルサイトの中を小一時間も歩き回れば、格安の賃料で設備も比較的整った、こうした物件をいくつも拾うことができる。このうちどの4物件を選んでも、合計の家賃はほぼ10万円に収まるかたちだ。もう少しグレードを上げて賃料3万円程度を探しても、3部屋=ほぼ10万円以下となる。
すると――、もうお分かりだろう。「家なんか買うな」のホリエモン氏ではないが、彼のように場所に縛られず、どこででもアウトプットができる仕事と、ミニマルに暮らす習慣さえ手にすれば、彼のようにリッチでなくともかなりの人がこうした低家賃の物件を各地に借りることで、日本中好きなところを移動しながら働く生活ができてしまう。
無論、そうした生活には特有のコストもかかるが、それはひょっとすると酒好きなサラリーパーソンの月の飲み代程度かもしれない。ともあれ、冬は暖かい九州で、夏は涼しい札幌で気分を変えながら仕事……と、そんなシーンがいきなり目の前に広がってきたりもする楽しいポータルサイト散歩、といったところだ。
通勤環境の差にため息
いまだ終わらない新型コロナウイルスによる「コロナ禍」。多くの働く人に、テレワーク・リモートワークという新たな就労のかたちを体験させた。しかし、そのことで特に東京を中心とする首都圏では、以前は変わらぬ日常のルーティーンだったあることに、深刻な拒絶感を抱くようになった人も少なくないだろう。
電車通勤だ。「時間と体力の大幅な消耗であるばかりか、心身をストレスで蝕むリスクだ」――あらためてそう気付かされたという人が、われわれの周りにも大勢いる。
そこで、ぜひ迷い込んでみてほしいのが、不動産ポータルサイトの中にある鉄道沿線家賃相場のページだ。東京周辺ではなく、同じ大都会といえる関西、さらには名古屋、それに続く福岡・札幌などといった物質的な利便性にかけては東京に何ら劣ることのない大都市のページを訪問してみよう。
すると、まさに実感するはずだ。何かといえば、それは東京の異常性だ。例えば、名古屋とその周辺からなる名古屋都市圏は、G7のひとつイタリア最大のミラノ都市圏、同じくドイツのベルリン首都圏よりも都市圏としてはるかに規模が大きい。さらにスペイン・マドリード首都圏や、近隣ではシンガポールにも勝る規模を誇る、まさに世界の大都会だ(実はそうなのだ。日本国内では名古屋は何となくあなどられている気配もあるが)。
ところが、その名古屋の中心商業地である「栄」から地下鉄でほんの2~3駅進んでみよう。単身向け家賃相場はすぐに5万円台に下がってしまう。中心オフィス街のひとつ丸の内にある「丸の内」駅も同様、隣の「浅間町」がすでに5万円台エリアだ。
一方、これを東京と比べると――、例えば新宿からJR中央線を西へ(郊外側)向かってみる。すると14駅目の「西国分寺」まで5万円台の数字は出てこない。しかも、その先でも人気の「立川」などで相場はまた大きくハネ上がってしまう。ついには19駅目、東京都心とはもはや気候さえ異なるといわれる「八王子」でも、なんと6万円台を維持している格好だ(以上はLIFULL HOME’Sの昨年12月末のデータによる)。
いかがだろう。とにかく圧倒される東京・名古屋両都市の違いというほかないが、これは名古屋の住居コストが低い、職住接近性に優れているなどということではない。明らかに東京が異常といっていい。
東京で働き、仕事に疲れた会社員が転職先を探す際など、求人サイトを開きつつ、ついつい惰性で都内の情報を探してしまいがちだが、そこはちょっと待った――!だ。先に不動産ポータルサイトを開いてみると、別の人生への視界が広がる可能性もあるだろう。
家賃の断層に目を付けよ
次も沿線相場の話をしよう。東京都心のターミナル駅などから四方に伸びていく鉄道路線それぞれの駅における賃料相場を順に眺めていくと……、ときに「断層」を発見することがあるだろう。ある駅、またはいくつか一団の駅辺りから、急に賃料相場が下がったり、上がったり、要はフェーズが変わるのだ。
そこで、そうした場合、なぜそうなるのかを調べると、理由によっては家賃が安く便利で暮らしやすい、穴場の駅・街を見つけることができる。
例を挙げよう(LIFULL HOME’Sの昨年12月末のデータより)。池袋から埼玉県の川越方面に伸びていく東武東上線では、池袋の隣の「北池袋」から「下赤塚」までの8駅にかけて、単身用物件の家賃相場はおしなべて高値安定していて、下がっても7万円台半ば程度までを推移する。
ところが、9駅目の「成増」でガクリと相場が下がる。次の「和光市」でもう一段下がる。まるで二重の丘を下るような急な下降が、ここで観察されることになる。
この主な理由は、地元の不動産会社であればよく知っている。成増駅エリアというのは、実は東京都と埼玉県の都・県境をまたいで広がっている。さらに和光市駅からは、エリアがほぼ完全に埼玉県内に含まれることになり、要は、物件所在地が東京から埼玉に変わることが大きな理由のひとつとなって、ここに家賃の断層が生じているわけだ。
ところが、そんな成増・和光市の両駅、利便性となれば沿線随一だ。成増は街が大きく、買い物がしやすいうえに、池袋を出る東武鉄道の速い列車のうち、準急・急行・快速はいずれもひと駅目で成増に停車する。つまり、さきほどの「北池袋」~「下赤塚」の8駅は飛ばしてしまうのだ。ある意味、成増は池袋のとなり駅といっていい。
さらに、和光市に至っては、交通利便性はおそらく成増よりも上で、上記に加え快速急行も停まるだけでなく、この駅からは東京都心に向けて東京メトロ有楽町線、および副都心線も伸びている。東京との結びつきだけが街・駅の魅力というわけではないが、ともあれその基準に照らせば、首都圏穴場の駅のうち筆頭格といえるのがこの和光市駅だろう。
そうしたわけで、一例を挙げたが、似たような発見はこれ以外にもあちこちのエリアで可能だ。
例えば、乗り入れている路線が1本なので、不便そうに見えるのか家賃相場が前後の駅に比べて下がるものの、住む位置を選べば都心の各所につながるJRの2駅が利用可能といったケース(JR埼京線の十条と京浜東北線の東十条のペアがそうだ)など……。
進学や就職などで上京してから1年以上が経ち、生活も落ち着いてきたといった人は、休みの日にはぜひ不動産ポータルサイトを散策し、いろいろな発見をしてみるとよい。
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室