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一戸建て賃貸の庭の草刈り 入居者・オーナー、どちらの仕事なのか?

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イメージ/©︎libertos・123RF

オーナーのボヤきと入居者の常識(?)

以前耳にした、ある賃貸住宅オーナーのボヤきだ。

「一戸建てを貸してるんですが、入居者の方が庭の草刈りをしてくれないんです。夏になると一面草ボウボウで……。ちなみにお隣の方は私が大家だと知っているので、見映えが悪いからなんとかしろとこちらに苦情が来ます。炎天下ですが、いまから作業に出かけます」

一方、入居者からのこんな声も聞いたことがある。

「一戸建てを借りてるんですが、庭の草が夏になるとボウボウに伸びて大変です。見映えが悪いので毎年大家さんに連絡して刈り取りに来てもらっています。えっ、自分で刈らないのかって? いやいやこれって家を貸して家賃を貰っている側の当然の責任ですよね?」

いかがだろう。両者の想いには互いに敵意も悪意もないものの、なにやら真っ向から対立している様子だ。

一戸建て賃貸での庭の草刈り、これを行うのはオーナーと入居者、どちらであるべきなのだろうか?

答えは入居者 「善管注意義務」を負う

いきなりの答えだ。一戸建て賃貸住宅での庭の草刈り、それを行うべきなのは、契約上定まっていないのならば「入居者」だ。根拠は民法に求められる。400条だ。

(民法第400条)
「債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。」

ややこしい言い回しになっているが、これを建物の賃貸借契約にあてはめるとこうなる。

「賃借物である不動産物件の占有者となる賃借人=入居者は、賃貸借が終了し、その物件を賃貸人(オーナー)に引渡すまでは、善良な管理者の注意をもって、それを保存管理しなければならない」

すなわち、善良な管理者としての注意を行う義務=善管注意義務に、一戸建て賃貸の入居者が庭の草刈りを行うことは該当すると、従来解釈されている。

だが、「う~ん」と、納得のいかない声も挙がりそうだ。

借りているのは建物だけ? 庭も建物も?

まずは、こんな疑問を呈する人もいるだろう。

「契約上、入居者が借りる目的物が建物だけになっているか、庭も含まれているかで判断は分かれるのではないか。庭も含まれていれば庭の草刈りをすることは善管注意義務に含まれるかもしれない。しかし、そうでないのならば……」

もっともな指摘だろう。だが、これについては判例が出ている。東京簡易裁判所・平成21年5月8日の判決だ。

「……庭付き一戸建て物件の賃貸借契約においては、庭及びその植栽等も建物と一体として賃貸借の目的物に含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致するというべき」

「……賃借人は本件賃貸物件の敷地・庭の植栽についても、信義則上、一定の善管注意義務を負うと解するのが相当である」

これらをもって、この裁判では、定期的な草刈りを適切に行っていなかった入居者に対し善管注意義務違反が指摘されている。

ちなみに、この判例で争われた賃貸借契約にあっては、契約書にも、重要事項説明書にも、賃貸借の目的物としては建物のみが記載されていた。敷地(庭)や庭の植栽等に関する記述は一切なかったそうだ。

そのうえで、そういった記述があろうとなかろうと、ひっくるめて「一戸建てを借りる人は、庭も借りているものと理解し、きちんと管理しなさい」としているのがこの判決だ。

すると、庭が結構広いなど、状況によっては、この考え方は入居者にとってそれなりの負担ともなりそうだ。

とはいえ、以上の理屈は、一方では一戸建てを借りる人にとって、大変重要な考え方ともなるものだ。

賃貸借の目的物に、契約上たとえ庭は含まれていなくとも、「入居者は当然そこを通行し玄関から外へと出入りできる」「花も植えられるはずである」「用具・私物等も置けるはずである」など、一戸建てでの“あたりまえ”を保証する裏付けとして、そこが入居者の管理下におかれるとするこの考え方は、非常に大切なものとなるはずだ(=敷地を通常の方法により使用する権利の保証)。

よって、その意味からは、あまたある具体的な状況を考慮せずに“乱用”してはいけないものの、上記判例は、基本として合理的なものであるといって差し支えないだろう。

なお、国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」では、賃貸借の目的物を記載する部分は、実はかなり詳細になっている。庭(専用庭と記載)がこれに含まれるのかどうかもきちんと示されるかたちとなっている。

つまりは、それこそが正解だ。上記の判例等を引き合いに出す以前に、一戸建てを貸すオーナーは、まずは賃貸借される目的物が何かを契約上明記したうえで、必要ならばその管理方法や責任の所在についても約定しておくことが、本来肝心なことといえるだろう。

入居者の注意義務ではなく、オーナーの修繕義務では?

他方、こう思う人もいるかもしれない。

「一戸建て賃貸の庭で伸びた草を刈ることで、家賃を払ってくれている入居者へ不都合や不快感の無い生活を提供するのは、オーナーとしてのそもそもの義務なのでは?」

まさにこの記事の冒頭に示した入居者の声だ。なおかつ、そんな意見をもつ人が法的根拠を挙げるとすれば、それは民法601条および606条ということになるだろう。

(民法第601条)
「賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと(略)を約することによって、その効力を生ずる」

(民法第606条1項)
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない」

いかがだろうか。たしかに「オーナーとしてのそもそもの義務なのでは?」にも、一理ある感じがしないでもない。

しかしながら、庭の草刈りはあくまで上記(606条1項)にいう、賃貸人が義務を負う「修繕」ではなく、物件を占有する入居者が行うべき「管理」の一部であるとするならば、この話は当然ながらさきほどの善管注意義務に立ち返ってしまう。

とはいえ、それでもどこか釈然としない点が残るとすれば、そこには時代や世代による感覚差が生じている可能性もあるだろう。よって、このテーマはおそらく将来に向けては、興味深い課題のひとつとなっていくはずだ。

すなわち、「大家さんにお借りしている家」ならば、庭の草刈りは何となく入居者がするのが当たり前の雰囲気だ。

だが、「投資家が賃貸事業を経営している物件」となると、そこで提供されるサービスへの対価を支払う「客」として、入居者が受け取る感覚は同じものになるだろうか? おそらくは微妙に変わってくるような気もしてくる。

結論は「ガイドライン」にも

結論に戻ろう。一戸建て賃貸での庭の草刈り、誰がやるのかを契約で定めていないのならば、それを行うべきはオーナーではない。入居者だ。

特別な形態等の例を除き、いわゆる一般的な「庭付き一戸建て賃貸」では、庭は契約に明示されなくとも賃貸借される目的物の一部であり、そこでの草刈りは賃借物に対する善管注意義務を負う入居者が行わなければならない。これは、目下のところ不動産業界および市場における了解事項だ。

そのため、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にも、入居者に原状回復義務が発生するケースのひとつとしてその旨が明記されている。

「●戸建賃貸住宅の庭に生い茂った雑草 ……(考え方)草取りが適切に行われていない場合は、賃借人の善管注意義務違反に該当すると判断される場合が多いと考えられる」

なので、一戸建て賃貸を借りている人が、「庭の草が伸びてボウボウだ!大家さん刈りに来て」と頼んで、オーナーが駆け付けてくれたならば、契約上その責務がオーナーに無い以上、それは法的義務を超えた手厚いサービスということになる。

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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