相続税対策は小さな対策を組み合わせて行なおう
高橋敏則
2016/02/22
大きな対策だけに頼ると失敗してしまう
相続税対策は、小さな対策を組み合わせることでリスクを分散させ、大きな効果を生み出すことが大切です。効果の大きな対策ひとつだけで相続税対策をすませようとすると、多くの場合は失敗します。
まずは不動産を活用して大幅な節税をしようと、あまりに大きな借金をしたり、土地全部に建物を建ててしまったりして失敗するパターンがあります。
たとえば、大きな借金をして不動産を購入したり、アパートやマンションを建てたりした場合がそうです。アパートやマンションなどの賃貸経営は決して簡単なものではありません。入居者が集まらず、計画通りの家賃収入が得られないため、ローンの返済に困っている人が少なくありません。所有する土地全部に建物を建ててしまったために、物納や売却ができなくなってしまった人もいます。
生命保険に頼りすぎるのも問題です。生命保険に加入することで相続対策ができるのは事実なのですが、過去には何億円もの変額保険の契約をして大損をしたりとか、毎月の保険料の支払いで日常生活に支障をきたしたりした人もいました。
小さな対策を組み合わせてリスクを分散
不動産の活用も、生命保険の活用も、たしかに有力な相続税対策のひとつなのですが、それひとつで相続税対策をすませてしまおうとするのはかなりの無理があります。
相続税対策にはお金がかかりますし、リスクも伴います。リスクをできるだけ避けるには、ひとつの対策に頼ってはいけません。無理のない範囲で多くの対策を組み合わせて、余計なお金をかけずにリスクを分散させることが何より大切なのです。
相続対策の3つの柱とは?
ところで、相続を円滑に進めるためには相続税対策を考えるだけでは足りません。相続対策は相続税対策のほか、納税資金対策、争族対策のふたつがあります。この3つをバランスよく実施することが大切です。
相続税対策は、相続税の節税対策のことで、実際に相続があったときに収める税金をできるだけ少なくしようとするもので、相続税の仕組みを利用した対策、生前贈与などの財産移転により対策、財産評価額の引き下げによる対策があります。
都市部では地価が高い水準になっていますが、小規模宅地特例の拡充もあり、相続税の負担はバブルの時代ほどではありません。そのため、相続税の節税対策は以前よりも重要性が低くなっているようです。
納税資金対策は、相続税の納税資金を確保しておくための対策です。延納、物納、生命保険の利用、土地活用などによって納税資金で困らないようにしておくものです。相続税対策を行なったとしても、相続税をゼロにできるとは限らないのでこれも重要な対策です。
また相続争いも大きな問題です。相続税対策を行なって節税し、納税資金の準備までして財産を遺したのに、その財産をめぐって親子あるいは子どもたちの間で骨肉の争いを始めるといったことも少なくありません。そこで、遺言の活用や分活用財産を確保することで相続争いをなくすための争族対策を忘れてはいけません。相続税がかからない人でも、家一軒程度の財産があれば考えておくべき対策です。
この記事を書いた人
公認会計士、税理士
1979年、中央大学商学部卒業。80年、公認会計士二次試験合格。アーンスト・アンド・ウイニー会計事務所、監査法人を経て独立、高橋会計事務所を開設し、現在に至る。経理・財務・税務の指導ほか、中小企業の経営コンサルティングに従事。 「専門知識がなくてもわかる解説」が人気となり、税務研究会、企業の社内研修会など各種セミナーの講師として活躍するほか、ビジネス書の著者としても多くの書籍を執筆している。 著書に「相続・贈与でトクする100の節税アイデア」「小さな会社の税務がすべてわかる本」、「小さな会社と個人事業主の消費税がすべてわかる本」 (ダイヤモンド社)、「不動産オーナの節税対策/知っておきたい土地建物の税金」(清文社)、「法人税/有利選択の実務」「消費税/有利選択の実務」(税務研究会)など多数