日本の生産性が上がらないのは「上がらない仕組み」をやめないから?

2026/02/19
暗い言葉としての「生産性」
「生産性」という言葉は、これまで何度かわれわれの社会に傷の残るインパクトを及ぼしてきている。
古い時代には「マル生運動」というものがあった。これに対する「マル生反対闘争」と呼ばれる一連の騒ぎも起きている。多くの人生が翻弄される結果となったが、ここでいう「マル生」の「生」こそが、労働・生産現場における生産性のことを指している。
時代が下り、2016年のこと。相模原市の障害者施設で入所者19人が殺害されるとんでもない事件が起きた。津久井やまゆり園事件の名で知られている。残忍な犯行に及んだ男(現・死刑囚)の主張に対し、これを生産性で人を測る思想だとするメディアがいくつか現れた。
2018年には、当時の衆議院議員による雑誌への寄稿が問題となっている。「LGBTのカップルは子どもをつくらない。生産性がない」旨を述べたこの一文が発端となり、従前からの発行部数減も相まって、同誌は事実上の廃刊を余儀なくされている。
生産性についての「働く人」への意識調査
そんな「生産性」だが、ここからは話を変えよう。
昨年11月末、歴史の古いシンクタンクのひとつ、公益財団法人 日本生産性本部が「第4回 生産性課題に関するビジネスパーソンの意識調査」の結果を公表している。目に付くところをいくつかひろっていきたい。
なお、この調査の対象は、従業員規模300人以上の会社に勤める人で、
- 経営層(会長・社長・取締役・執行役員など)682名
- 管理職層(部長・課長など)1,100名
- 非管理職層(係長・主任など)1,100名
―――合計2,882名。比較的規模の大きなものとなっている。
日本の労働生産性が低いわけ
まずは、こんな質問だ。
「日本の労働生産性が低い原因のうち、働き方と業務プロセスについてはどのような問題が大きいと思いますか? 最大2つまでお選びください」
対して、経営層、管理職層、非管理職層、全部を合わせての答えの上位3つが以下のとおりとなる。
| 「無駄な作業・業務が多い」 | 43.5% |
| 「仕事の仕組みのデジタル化が進んでいない」 | 24.9% |
| 「会社の価値観や仕事のやり方が以前と変わっていない」 | 21.8% |
どれも過去30年くらいは議論されているもののように思えるが、これを上記3層別に見ると以下のとおりとなる。(3つのうち「会社の価値観や仕事のやり方が以前と変わっていない」は割愛)
| 経営層 | 35.3%(最も少ない) |
| 管理職層 | 41.5% |
| 非管理職層 | 50.5%(最も多い) |
| 経営層 | 32.1%(最も多い) |
| 管理職層 | 24.4% |
| 非管理職層 | 20.9%(最も少ない) |
見てのとおり、「無駄な作業・業務が多い」とするビジネスパーソンは、いわゆる現場に近いほどその割合が高い。一方、経営側は低い。対して「仕事の仕組みのデジタル化が進んでいない」は、逆になっている。
デジタル化が減らす無駄もあれば、増える無駄もあるだろう。
わが国の会社組織の中に現におられる方々にあっては、少なからず「わかりみ」の深い、実感値の高い数字といえるかもしれない。
生産性を向上させるには何が必要か?
次は、こんな質問だ。
「貴社の付加価値を向上させるためには、どのような取組みをしていくべきだと思いますか? 最大2つまでお選びください」
生産性の向上とは、すなわち生産活動の結果においての付加価値の向上を意味する。そのためにあなたの会社はどう取り組んでいくべきと思うか? との問いかけだ。
まずは、回答者全体でのTOP5を挙げる。
| 「業務プロセス改善」 | 40.8% |
| 「新しい商品・サービスを創造する」 | 25.1% |
| 「ビッグデータ・AI等を活用した顧客アプローチの推進」 | 17.7% |
| 「ビッグデータ・AI等を活用したビジネスモデルの開発」 | 17.3% |
| 「ロボティクス・RPA等の活用による業務効率化」 | 15.7% |
見てのとおり、「業務プロセス改善」が他に抜きん出ている。
そのうえで、上記5番目に見える「ロボティクス」は、総称してロボット工学のこと。「RPA」(Robotic Process Automation)とは、人間が行うパソコン作業をコンピューターにプログラム化させ、そのプログラムをコンピューター自身に自動で実行させていく仕組みのことだ。両方併せて「業務プロセス改善」に含まれると考えていい。
そこで、これら両選択肢における3層別の割合を見てみよう。
| 経営層 | 39.0%(最も少ない) |
| 管理職層 | 40.1% |
| 非管理職層 | 42.6%(最も多い) |
| 経営層 | 18.9%(最も多い) |
| 管理職層 | 15.2% |
| 非管理職層 | 14.2%(最も少ない) |
このとおり、中身は実質同じであろう―――どちらも業務プロセスの改善を指す―――2つの選択肢において、数字はゆるやかながら逆のベクトルを示している。面白い結果ともいえるだろう。
「生産性向上」の意味とは?
次の質問となる。
「生産性向上とはどのようなことだと思いますか? 最大2つまでお選びください」
あなたが思う、生産性向上という言葉の意味は何か? と、ここではそもそも論が問われている。3つの層全体での割合は多い順に以下のとおりだ。全選択肢分の数字を掲げてみよう。
| 「業務を効率化してムリ、ムダ、ムラをなくすこと」 | 43.3% |
| 「労働時間あたりの付加価値を高めること」 | 38.7% |
| 「投入する労働時間や人員、コストを減らすこと」 | 15.7% |
| 「粗利益を拡大させること」 | 12.4% |
| 「最新の技術や手法を積極的に導入すること」 | 12.4% |
| 「個々の従業員が能力を高め意欲的に業務を行うこと」 | 11.7% |
| 「新しい製品・サービスを積極的に開発、創造すること」 | 9.9% |
| 「組織内の資源を最適配分すること」 | 9.4% |
| 「組織内の情報共有やチームワーク、協働を強化すること」 | 7.5% |
| 他「わからない」 | 9.9% |
なお、この質問では生産性向上という言葉の意味について、個々人が抱くであろう印象や、独自の解釈に属すると思われるものも選択肢には含まれたかたちになっている。だが、定義としての正解をいうならば答えはひとつだ。それは2番目となる。
「労働時間あたりの付加価値を高めること」こそが、生産性、厳密にいえば生産性のうち「時間当たり付加価値労働生産性」を向上させるための本筋となる手立てだ。
数式で表せばこうなる。―――「付加価値額/労働者数×労働時間」
よって、1番目の「業務を効率化してムリ、ムダ、ムラをなくすこと」および、3番目の「投入する労働時間や人員、コストを減らすこと」は、つまりはこの2番目に含まれる。1番目、2番目、3番目は、要は同じ答えだ。
すなわち、この質問において、回答者は圧倒的割合であたりまえの回答を示したということになる。
日本の生産性はOECD加盟38カ国中28位
以上、日本生産性本部による「第4回 生産性課題に関するビジネスパーソンの意識調査」の結果から、ほんの一部を紹介した。さらに詳しい内容は下記にあるので、ぜひご覧になってみてほしい。
「公益財団法人 日本生産性本部 第4回 生産性課題に関するビジネスパーソンの意識調査」
なお、同法人によると、日本の時間当たり労働生産性は、現在OECD加盟38カ国中28位にまで落ち込んでいるとのこと。主要先進7カ国中最も低い。OECD平均も大きく下回っている。(「労働生産性の国際比較 2025」)
つまりは、これを踏まえてのさきほどまでの質問―――「日本の労働生産性が低い原因のうち、働き方と業務プロセスについてはどのような問題が大きい?」などとなるわけだ。
もっとも、わが国はもともと要領よく稼ぐタイプの国ではない。
かつての光り輝く(?)ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代でも、順位は18~19位といった辺りでわだかまっていた。(80年18位、90年19位)
とはいえ、それがいまやトルコやポルトガルにも抜かれている。両国には失礼ながら、さすがに緊急事態といえるだろう。
生産性が上がらないのはメンバーシップ型雇用の宿命?
ところで、筆者は、日本の生産性をいまよりも上げるにおいては、いわゆるメンバーシップ型雇用をやめるのがもっとも効果的で、かつ正解であると思っている。
こと、労働生産性においてメンバーシップ型雇用は重荷だ。しかも、そこに終身雇用と年功序列がくっついていると症状はさらに重くなる。
理由は、述べると長くなる上、多くで語られているのでここでは示さないが、さきほど挙げた「ジャパン・アズ・ナンバーワンの時代でも日本の順位は18~19位だった」―――これこそが、メンバーシップ型雇用が中心の経済における、生産性の限界を示しているものと筆者は理解している。
(アメリカは当時、間もなく日本に追い越されるなどと経済的凋落を指摘されていながら、80年の上記順位は4位、90年は2位と、日本を大きく凌駕していた)
しかしながら、一方でメンバーシップ型雇用は、労働者の人生をリスクヘッジするとともに、社会全体における幸福の生産性を引き上げやすい仕組みではあるにちがいない。
「担当者は帰った。そして私は担当者ではない」
こうした冷たいひと言で対応が切り捨てられてしまう、ジョブ型雇用が生み出す「生産性の高い」世界に、われわれが街やオフィスで日頃耐えられるかどうかが、たとえばひとつの身近な問題になるということだ。
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。






















