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高金利の時代が近づく? そのとき市場から締め出される投資家とは? 不動産投資のセオリーは変わっていくのか

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高金利の時代が近づいているといわれている。そうなれば不動産投資にももちろん影響が及ぶ。日銀が決める政策金利とは何か?低金利の時代に比べ、高金利の時代は何が変わるのか? おさらいをしながら今後の動きを探っていく。

5会合にわたり見送られた利上げ

本記事の執筆時点(2025年10月中旬)で、直近に行われた日本銀行の金融政策決定会合は9月18日・19日のものとなっている。この会合では、政策金利(短期金利の誘導目標)が0.5%に据え置かれた。5会合連続で引き上げは見送られたかたちとなっている。

その理由のひとつとして、日銀は「各国の通商政策等の今後の展開や、その影響を受けた海外の経済・物価動向を巡る不確実性が高い状況が続いている」点を挙げている。現状のわが国の実質金利は未だ極めて低い水準にあるものの、もう少し様子を見たいといったところだろう。なお、実質金利とは、名目金利から物価の変動による影響を差し引いた金利水準を指す。実質賃金と同様、文字どおり実質的かつ現実的な数値だ。

そのうえで、今回の決定は公表もされているとおり全員一致のものではない。政策委員会委員9人のうち2人が反対した。この2名は利上げを主張している。そのうち1人の委員は「物価上振れリスクが膨らんでいる中、中立金利にもう少し近づけるため」政策金利を0.75%程度に引き上げることを提案した。なお、中立金利とは、その時々の景気を刺激するでもなく抑制するでもない、中立と判断される金利水準のことを指す。

ちなみに、今回日銀が金利を据え置きした理由、さらに反対理由、ともに正論だ。前者における「各国の通商政策等の今後の展開や影響」というのは、主にはトランプ関税のことを指している。これがアメリカ自身の経済に何をもたらし、世界に影響が及ぶのか、見極めるにはたしかにもう少し時間がほしい。しかしながら、いまのうちにせめて中立金利程度までには金利を近づけておくべきとの意見も間違いではない。なぜなら、それは利上げのペースが物価上昇に対し後れをとった結果生じる経済の不安定化(ビハインド・ザ・カーブと呼ばれる)を危惧する真っ当な見解にほかならないからだ。

植田総裁率いる現在の日銀は、知られるとおり、利上げ路線堅持のスタンスに立つ。そのため、9月の会合でこそ上記が判断されたものの、物価上昇が続く中、次の会合(10月29日・30日)ではいよいよ利上げに踏み切るだろうと、少し前までは予測されていた。ところが、そうこうしているうちに、自民党総裁選が行われ高市早苗氏が勝利した。これにより利上げはさらに遅れ、12月会合(18日・19日)以降にずれ込む可能性も高まっている。なぜなら、高市氏やその周辺は現状のインフレについて、デマンドプル(需要が主導するかたち)なものとは見ていないとのこと。そのため、利上げをきっかけにデフレが再燃することを怖れている。日本を二度とそこへ戻したくない(と多くが思っているはずの)停滞の時間を避けるうえで、これも間違いとはいえない判断だろう。つまり、高市政権発足となれば、その見方こそが政府の立場となるわけだ。

以上、さまざまな人がさまざまな角度から考え、悩んでいる政策金利だが、本記事をお読みの読者は現在、執筆者よりも少し先の未来を眺めている。様子はいかばかりだろうか?

「政策金利を取り巻く主な動き」(10月中旬時点まで)
2023年 4月 日銀植田総裁就任
2024年 3月 マイナス金利政策の解除を決定
7月 0.25%へ政策金利を利上げ
2025年 1月 0.5%へ 〃
4月 トランプ関税・計画発表
9月 政策金利「据え置き」5会合目
10月 自民党総裁選・高市氏が勝利
29・30日 金融政策決定会合(予定)
12月 18・19日 同上(予定)

なぜ金利は上げられたり下げられたりする?

さて、このように日銀や政府を悩ませる金利だが、そもそもなぜ金利は上げられたり下げられたりするのだろう。単純な答えをいおう。目的は物価の安定だ。そのために「景気」という、かなり漠然としながらも全ての人々の生活に深く影響する世の中の動きを少しでもコントロールしていくためだ。

日銀が政策金利を上げ下げすると、それは金融機関を通じて企業や個人が融資を受ける際の金利に反映される。上がるとお金は借りにくくなり、下がると借りやすくなる。こうした違いは、企業の運転資金や設備資金の調達に影響する。なおかつ、個人の借り入れにも影響は及んでくる。つまり、政策金利が下がれば、企業や個人は物やサービスを購入する資金を得られやすくなる。そのため、物やサービスがよく売れるようになる。すなわち、景気が上向いているとされる状態だ。すると、よく売れるのだから物やサービスの値段は上がる。つまり物価が上昇する。ここがゴールだ。とどのつまり、物価を上げるために景気を上向かせることこそが、金利を下げること  利下げの目的といっていい。

一方で、物価を下げなければならない場合もある。たとえば、物やサービスの値段の上がり方に人々や企業が追いつけず、困っているような状態だ。つまり、その時点においては通常、景気が過熱している。少し冷ましてやらなければならない。そこで、日銀や各国の中央銀行は利上げを判断する。これにより、企業の資金調達コストが増え、個人の住宅ローンなどの利息も上がる。つまり、お金が借りにくくなる。需要の抑制につながっていくわけだ。物やサービスが売れにくくなり、景気が下向く。物価が下がる流れとなっていく。

このように、最終的な目標としては、物価を安定させるために金利の上げ下げが行われる。そのため、日本では日銀が金融政策の中で政策金利を決め、景気をコントロールする。そのことで物価の安定を図るのだ。

しかしながら、景気というものには、その影響を受ける立場、立場でさまざまな受け止め方がある。それらは人々の声のもと、政治にも反映されていく。なお、物価とは裏返せば通貨の価値でもある(よって日銀は物価と並行して通貨価値の安定も図っている)。

そのため、一国が決める金利は外国為替市場を通じて他国にも影響を及ぼす。ゆえに、その面でも利害は多方面に波及していく。政策金利の決定が、国の内外を含むさまざまな意見や要求のせめぎあいのもとに決められていくことの、それが所以となるわけだ。

サラリーマン大家を育てた低金利の時代

金利の動きについて、それが気になる筆頭といえるなかに、不動産投資家はもちろん入ってくるだろう。不動産投資は、通常多額の資金を借りて行われる。物件を担保とした借り入れによるレバレッジの効果と、さらには長い返済期間による期限の利益を活かすことで、いわば等身大レベルを超えた投資に臨めるのがアパートや賃貸マンション、商業テナントビルなど不動産投資の特徴だ。

そのため、これまで述べてきた「金利」は、不動産投資において重要な要素として絡んでくる。説明するまでもないが、投資したい物件を購入するため、お金を借りることで金利が発生するからだ。そのうえで、投資家は発生した金利を長期にわたって利息として払い続ける。そのため、金利が高ければ高いほど、手元に残るはずの利益が削られる。キャッシュフローが痩せていくのだ。つまりは、投資利回りがその分下がっていくわけだ。

そうした意味で、先ほど記したような日銀の基本スタンス(利上げ路線)はありながらも、実際には現在も続いている低金利の時代というのは、実は多くの人が不動産投資に参加しやすい時代だ。なぜなら、当たり前だが低金利のためお金を借りやすい。お金を借りやすいので自己資金が少なくて済む。自己資金が少なくて済むということは、貯蓄の少ない人にも投資の門戸が開かれやすい。それは、たとえば若い会社員などだ。借りたお金を継続的に返済できる安定した収入があれば、多額の自己資金が無くとも金融機関はお金を貸す。よって、いわゆる「サラリーマン大家」さんというのは、90年代半ば過ぎから始まった日本の低金利・超低金利時代が生んだ時代の申し子といってもいいだろう。

そのうえで、低金利は繰り返すが支払う利息を下げてくれる。家賃収入が削られる度合いを抑える。手元に儲けが残りやすいのだ。この儲けとは、すなわちインカムゲインを指す。「保有する資産が継続的に生み出す収益」のことだ。

まとめると、低金利・超低金利の時代における不動産投資では、インカムゲインがねらいの中心となる。利払いによるマイナス分が小さいため、多額の融資による重い返済を長期間背負ったとしても、投資家が利益を出しやすい。いわば月の売り上げを積み上げるかたちの投資となるわけだ。

では、それが崩れるとどうなるだろう? 高金利の時代になると、いま述べたような投資のセオリーはおそらく崩れるのだ。

不動産投資はキャピタルゲイン重視に

日銀の利上げスタンスが継続され、高金利の時代がやがて訪れるとしよう。文字どおり、借りたお金の利息が高い時代だ。不動産投資においては、高い利払いが家賃収入による利益をその分だけ深く削っていく。

すると、単純に分かることは、インカムゲインには期待しにくくなるということだ。投資利回りが下がってしまうのだ。しかも、多少下がるだけならまだいいが、場合によっては稼いだ家賃が、経費、税金とともに利息に取られ、手残りが消えたりもしてしまう。怖い世界といっていい。だが、一方でこのとき世の中ではおそらく別のことも起きている。

前半の話をここで思い出したい。高金利の時代というのは、景気が上向いていたり、過熱したりしている時代だ。つまり、そこでは物価も上がっている。そのうえで、不動産も「物」なのだ。よって、物価としての地価や建物価格も、その際は上昇のレールに載っている。土地の値段は上がりやすく、建物の価値は下がりにくくなっている。すなわち、こうした時代はインカムゲインではなく、キャピタルゲインに期待する時代となる。キャピタルゲインとは、要は売却益だ。高金利の時代というのは、不動産投資において、基本的には物件売却益の拡大・伸長が望める時代ということになる。ただし、それが行き過ぎるとバブルになる。

自己資金を充実させ家賃を「正しく」上げる

では、そんな時代が今後実際に来るとして、そのとき、不動産投資家はどんな姿勢で投資に臨めばよいのだろう。ポイントは大きく2つある。まずは自己資金だ。物件購入にかかる費用のうち、借入金の割合を可能な限り減らすことだ。理由はいうまでもない、高金利による利息のマイナス分を減らすのだ。すなわち、その意味で高金利時代の不動産投資は、言ってしまえばもともとの手持ち資金が豊富な方々───お金持ちがその主役とならざるをえないものとなる。サラリーマン大家さんは、おそらく現在までのようには生まれにくくなるだろう。

さらに、もうひとつの大事なポイントだ。それは、入居者の皆さんには申し訳ないが、高金利の時代においては、不動産投資家は躊躇せずしっかりと家賃を上げていくことだ。それによりインカムゲインの減少を補うのだ。ただし、知ってのとおり、わが国では家賃の値上げは法令上難度の高い仕事となる。だが、ここで再び思い出そう。高金利の時代においては、物やサービスの値段が上がっている。もしくは上がっていく。すなわち、物件運営費の高騰、近傍類似物件における家賃の上昇等により、法が定める制限をクリアできる条件が整いやすいのだ。これは、高金利の時代が生み出す不動産投資へのプラスの側面といえるだろう。もちろん、それでもストレスは少ない方がよい。家賃の値上げは第一に入居者の入れ替わり、第二に契約更新時を捉えて行うのが無難な選択となる。

以上、まとめると、借り入れを少なくして利息のロスを減らす。さらには「正しく」家賃を上げて収益を増やす。これら2つの守りを整えることで、賃貸経営を可能な限り健全な状態に維持しておく。そのうえで、キャピタルゲインを最大化させるタイミングを計っていくのが、今後訪れる可能性のある高金利時代における、不動産投資のセオリーとなるはずだ。

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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