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やってはいけない賃貸の「又貸し」―――無断転貸。初心者は特に注意

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又貸ししてはいけない

この春、進学、就職などを機会に、初めての賃貸一人暮らしを始めた人、つまり初心者は特に気をつけてほしい。

もちろん、初心者でなくとも「知らずにうっかり」の事例はある。ぜひ注意しよう。

あなたが契約し、借りた部屋を勝手に「又貸し」してはならない。

オーナー(貸主・賃貸人、あるいは大家)に告げず、管理会社にも言わず、許可なく無断で借りている部屋を誰かに貸す行為―――又貸し・無断転貸は、賃貸住宅に住む人が決してしてはいけないことのひとつだ。

オレが家賃に上乗せして借りてやるよ

ある20代の男性、Aさんの事例を紹介しよう。

Aさんは、就職のため地方から上京し、一度転職した。その後、前の会社で知り合い、仲良くなった先輩B氏と時々会い、一緒にお酒を飲むことがあったそうだ。

ある晩のこと。

「先輩、オレいま住んでる賃貸マンションから引っ越そうと思ってるんすよ。バイク買いたいんだけど、置き場所が無いんで」

そうAさんが言うと、B氏は、

「え、そんならオレに貸してくんない? いまのお前の部屋」

その部屋からAさんが出たあと、借主の名義はAさんのままで、B氏が代わってそこに住むというのだ。

そのうえで、

「いまお前が負担している家賃に、5、6千円上乗せしてお前に払ってやるよ。お前の部屋、駅近で場所がいいから、オレの仕事に都合がいいんだ」

「光熱費は……?」

「当然こっちで払うさ」

だが、これ、冷静に考えれば変な話だ。

なぜなら、B氏がその部屋を借りたいのならば、Aさんが退去したあと、次はB氏が借りたいと、事前に管理会社に話をもちかければいい。

ところが、Aさん、そのときはそこまで頭が回らなかったという。

「いいっすね!」

ありがたい提案―――と、そのまま酒場の席で承諾。Aさんはほどなく転居し、バイク用の駐輪スペースがある別の物件に住み始めたという。

苦情が入ってます!

さて、その数カ月後。Aさんの携帯電話が不意に鳴った。見ると、前の部屋の管理会社からの着信だ。

「Aさんですか。困りました」

「何ですか」

「あなたのお部屋に周りの入居者さんからいくつも苦情が出ています。何か勝手にご商売など始めてませんか?」

聞くと、昼間から深夜にわたる長い時間、不特定多数の男女がAさんの(住んでいた)部屋に次々と出入りし、騒音が止まないため、

「〇階にうるさい部屋がある」「調べろ、〇号室だ」

さらには、

「見かけない顔がしょっちゅう廊下をウロウロしている。玄関に食べ物クズを捨てる輩もいる。オートロックの意味がない!」

複数の入居者から管理会社にクレームが入っているという。

「エントランスに注意の張り紙もしました。見てませんか?」

見ていない。なにしろAさんはもうそこには住んでいないのだ。

そこで、Aさん、慌ててB氏に連絡すると、

「わりい、わりい、静かにさせるから」

「静かにさせるって、誰にさせるんですか? 部屋には先輩が住んでるんじゃないんですか?」

「うるせえなあ。仕事に都合がいいから借りるって言ったじゃん。仕事に使ってんだよ。ちなみに、来週いっぱいで出ていくことになったから、あとはよろしく」

「えっ」

裏切られたAさん

結論はこうだ。

B氏はAさんから借りた(又借りした)部屋をなんとさらに又貸しし、仲間が営む違法風俗の店として使わせていたようなのだ。出入りしていた男女は、主にその客と従業員だったらしい。

なおかつ、部屋は仲間内のたまり場にもされていたらしく、床にはこぼれた飲み物の跡が広範囲に広がり、居室やトイレ、浴室の壁など、深い傷が何カ所にも付けられていたという。

管理会社はこれに激怒。

「我々もオーナーから厳しく叱られています。重大な契約違反です。あなたとの賃貸借契約は即刻解除させてもらいます」

さらに、

「預かっている敷金のみでは原状回復費用の数割も賄えません」

Aさん、給料の2カ月分が吹っ飛ぶくらいの損害賠償を請求されることになったという。

「ここを読み返してみて下さい」

管理会社の事務所でスタッフに促され、自身が交わしている建物賃貸借契約書をAさんが改めて読んでみると、そこには―――

「第〇条 借主は、貸主の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない」

Aさん曰く、

「こんな約束になっていたんですね。これって普通のことなんでしょうか? きっとそうですよね。とにかく、僕は何も深く考えてませんでした……」

なお、管理会社からは、

「契約解除と損害賠償までで済んでよかったと思ってください。あなたに不当な利益(B氏による家賃の上乗せ払い)も生じていた今回の件は、別途違約金が請求されてもおかしくないくらいの行為です。契約書の中にはそこまで規定がなかったので、オーナーさんは我慢してくれました」

加えて、

「出入りしていたB氏やその仲間の人たちが、たとえば漏水事故を起こして、ほかの入居者さんに損害を与えていたとしましょう。B氏らは、あなたが加入している賃貸住宅入居者用の保険の被保険者ではないので、賠償についてはあなたが自腹で負担することになっていた。こういう理屈も知っておいてくださいね」

Aさん、まさにゾッとしたそうだ。

親しいはずの先輩に手ひどく裏切られたAさん。

「腹が立つけど、もうあの人とは縁を切りたいので……」

B氏には一切連絡せず、諸々の支払いは自分ひとりで済ませる判断をしている。

ところで、B氏だ。

この人はなぜ、物件を他人名義のまま借りようとしたのか。

考えられる理由としては、B氏やその仲間含め、過去にもトラブルがあり、地域の管理会社や仲介会社に面が割れていた。名前も知られていた―――そんな可能性は高いだろう。

無断転貸はそもそも法律に違反する

さて、とんだ苦い経験をさせられたAさん。

しかしながら、これは自業自得だ。

部屋を汚し、傷付け、何人もの人に迷惑をかけたのはB氏ら他人だが、この件において、責任はもちろん契約当事者たるAさんが負うべきものとなる。

よって、読者は同じような失敗を決してしないこと。ぜひ心してほしい。

そのうえで、手元にある自身の建物賃貸借契約書を開いてみてほしい。

そこには、ほぼ100%、先ほどAさんが見たような記述があるはずだ。

「借主は、貸主の書面による承諾を得ることなく、本物件の全部又は一部につき、賃借権を譲渡し、又は転貸してはならない」

信頼して契約した相手ではない、まったく別の人物が、大事な財産である賃貸物件の中に知らぬうちに入り込み、生活したり、何かに利用したりする―――。

そんな「無断転貸」を許すオーナーなどひとりもいないことは、自らがその立場に立つと考えれば誰でも想像がつくことだ。

さらに、無断転貸はそもそも法律に違反する。

民法第612条だ。

「第六百十二条
賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。」

加えて、多くの賃貸借契約書にはこんな記述もあるだろう。

「借主は、入居者氏名欄に記載された者の居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」

このように、無断転貸に対しては、そもそもの「法律」に加え、契約上は「賃借権譲渡と転貸の制限」「物件使用目的の規定」―――これら三重のロックがかかっているのが普通だ。

すなわち、無断転貸は、オーナーや管理会社がもっとも嫌い、避けたいと思っている違反行為のひとつといっていい。賃貸住宅に住む人はこのことをしっかりと覚えておこう。

無断転貸が許されることもある?

ところで、そんな無断転貸でも、「許される場合がある」と、賃貸住宅に詳しい法律のプロならばそう言うはずだ。

先ほどの民法の規定にある、賃貸人(貸主・オーナー、あるいは大家)における契約の解除権だが、過去の判例に沿えば、

「無断転貸の事実はあっても、それが賃借人による賃貸人への背信行為と認めるには足りない特段の事情を備えるものである場合」

は、無断転貸が許されると解されている。

ややこしいが、要はオーナーが、無断転貸をした入居者に対し契約を解除できず、それ以上の責任追及も出来ないといったケースが、場合によってはあるということだ。―――(勝手な又貸しだけど、この件に限っては事情を汲み、許してあげていいでしょうとなる個別さまざまなケース)

しかしながら、そこを最終的に判断するのはあくまで司法となる。

よって、こうした答えを得たいならば、入居者は、裁判や調停の場において、自らの行為に汲むべき「理」があることを裁判官等に認めてもらうほかないわけだ。

もちろん、自身が行った無断転貸の非は認め、契約解除を受け容れる場合であっても、ほかに要求されたペナルティが重すぎるといった場合、その点について争う余地はあるだろう。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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