若者を狙う住宅ローン投資詐欺。「私は被害者」と言い逃れできない危険な仕組み
2025/04/07

以前から幾度も話題となり、多くの人が「危ない誘い」と知っている。そんな話でも、関わってしまう人は次々と現れる。「住宅ローン投資詐欺」もそのひとつだ。とりわけ、この詐欺の危険なところは「騙されたり、唆されたりした人が加害者となり、責任を追及される」可能性にある。仕組みを詳しく解説していこう。
世間が注目するニュースの陰で
昨年、2024年の11月といえば、前月、自民党の石破総裁が国会で首相に選出され、石破内閣がスタートしたニュースや、兵庫県知事選挙で失職した前知事が再選を果たしたニュース、さらには、後者に関連して地元広告代理店に対し公職選挙法違反の疑惑が持ち上がった件など、いくつかの話題が世間を賑わせている。
そうした中、こんな事件も一部に報道され話題となっていた。
「11月21日、警視庁が詐欺の疑いで東京都杉並区の自営業者ら3人を逮捕。少なくとも12の金融機関から34億円近い融資を騙し取ったとみられる」
彼らの手口は? ───「街頭アンケートで希望者を募り、不動産投資をする目的を隠すよう仕向け、住宅ローンを申し込ませた」
これは「住宅ローン投資詐欺」などと呼ばれるものだ。たびたび話題になるが、それでも騙されたり、関わったりする人が後を絶たない。そのうえで、怖いのは、悪徳業者の“指導”を受けてローンを申し込んだ場合でも、金融機関に嘘を言い、不正な融資を引き出したのは、この場合、借りた本人と見られてしまうことだ。詐欺を働いた主体とされるのは、業者以前にまずはその人なのだ。そのため、発覚した際は厳しく責任を追及される。「悪いことと分かっていながら本人も乗り気だったのだろう」「騙されたと言うが、落ち度はなかったか」───等々、細かく調べられることになるわけだ。
住宅ローン投資詐欺に関わらないよう注意しよう。不正に気付きながら欲に負け、話に乗るなど決してあってはならない。特に、ターゲットにされがちといわれる20~30代の若い人たちはしっかりと気を引き締めたい。
住宅ローンで投資用物件は購入できない
住宅ローン投資詐欺の基本的なかたちはこうなる。
1. 悪徳業者が、不動産投資をしたい客を誘い、騙したり、唆したりして、客本人がその物件に住むと嘘をつかせ、金融機関から住宅ローンを借りさせる。
2. そのローンで、業者は、本来購入を禁止されている投資用の物件を本人に買わせ、儲ける。
理解できるだろう。ここで「本人」が自分の立場をどう解釈したかにかかわらず、嘘をつかれた金融機関から見れば、この借り入れは詐欺となる。つまり、金融機関は被害者だ。一方、「本人」の方は立派な加害者か、もしくはそれに加担したひとりとなる。
では、なぜこうした詐欺が存在するのかといえば、根本的な理由は住宅ローンにおける融資の条件にある。住宅ローンは、原則、利用者本人が住むための家を買う場合に使えるローンだ。なおかつ、その仕組みは借りる側に有利なのだ。どう有利かというと、第一に金利が低い。さらには返済期間が長い。その他、審査が比較的緩いことなども含め、「もしも住宅ローンで投資用物件を買えたら、どれだけ楽な賃貸経営が出来るだろう」と、投資家に憧れの想いを抱かせる条件が住宅ローンには揃っている。
ちなみに、住宅ローンの条件が借りる側に有利な理由としては、ひとつに政策上の配慮が挙げられる。有名な「フラット35」は、それが反映された代表といっていい。国民の良質な住宅確保などを目的とし、独立行政法人である住宅金融支援機構が民間と提携しながらこれを運営しているのは多くが知るところだ。そのうえで、住宅ローンは貸し倒れリスクが低い。それは、あからさまな話だが、借りている誰もが自分と家族の住む家を失わないよう、必死に返済を続けるからにほかならない。住宅ローンでは、主にそうした事情から低金利をはじめとした借り手有利の条件が整えられている。
そのため、住宅ローンは、繰り返すが投資には使えない。投資用物件を買い、賃貸経営するために金融機関からお金を借りるならば、住宅ローンではなく不動産投資用ローンを借りなければならない。ところが、不動産投資用ローンは住宅ローンに比べて借りる際の条件がきつい。金利は通常高く、返済期間も同様に短い。加えて、借り手の返済能力に関しての裏付け、いわゆる「属性」を測る点でも不動産投資用ローンの審査は厳しい。その理由は当然のこと、投資である以上、失敗───貸し倒れのリスクは常に高いからだ。
そうしたわけで、金融機関の立場としては、“国策”に沿ううえでも、自身の経営上も、住宅ローンの借り手が資金を密かに流用するかたちで投資用物件を買う行為を許すわけにはいかない。これは、金融の公正性や安定性、平等性を保つうえでも基本となる大事なルールだ。
そこで、こうした決めごとの合間を衝くかたちで、悪徳業者が横行する。彼らが主に狙うのは、将来への不安などから不動産投資がしたいものの、不動産投資用ローンを借りるにはいまひとつ属性が伴わない人たちだ。すなわち、多くが若い世代となる。経済的、社会的信用がまだ積み上がっていない彼らに、業者は「裏技がある」などと耳寄りな言葉で誘いをかけ、自分たちの儲けに引きずり込む。少し古いデータだが、住宅金融支援機構が19年に公表したフラット35の不正利用の実態を洗った調査では、挙がった全件中、実に84%を20代から30代前半の単身利用者が占めている。
悪徳業者の真の狙い
冒頭に掲げた事件にもあるように、街頭アンケートや、あるいはSNS等の手段を用いてターゲットとなる客を確保した業者は、それらを逃がさないよう必死の誘いを試みる。そこで、よく使われるのが「買った物件に少しの間でも住めば、住むためにローンを借りたことが事実になるので不正にならない」との理屈だ。これはもちろん嘘だが、客はそれに気付かずとも別の理由で難色を示すことも多い。なぜなら、彼らは「早く物件を人に貸し、賃貸経営を始めたい」のだ。すると、そのニーズに応えるため、業者は次に「住民票を移す」などの偽装工作を働きかけたりする。さらには、念を入れて「物件にはあなた名義の郵便受けも置いておきましょう」といった、何やらセコい提案も繰り出すなどする。
そこで、客の側は話が怪しいことに大抵気付くが、ここで欲に負けてしまうと引き返せなくなる。以降は一蓮托生だ。悪いことと知りつつ手を汚す。先ほどの住宅金融支援機構の調査でも「住宅購入者は一連の手続きを事業者グループの指示に従い進めていたが、それが不適正利用だった事実については認めている」旨、報告がされているところだ。
一方、悪徳業者だ。彼らはただ物件を売りたいだけではない。多くの場合、彼らは捕まえたターゲットに対して売る物件の価格をつり上げている。市場価格を大きく超えるかたちで利益を上乗せしているのだ。狙いはそこだ。業者は、物件を余計に高く売って儲けるのだ。のみならず、その物件はそもそも入居者がつきにくく、まともな投資家が検討の対象にしないレベルの物件だったりする。そうなれば、ますますこれを買うリスクは重くなるわけだ。
もっとも、この点、ターゲットにされた客が少しでも勉強し、調べる姿勢でいれば、自分が買わされようとしている物件の価格設定が疑わしいことには多くが気付けるだろう。だが、そういう人は初めから怪しい誘いには乗らないものだ。
一方、そうでない人の末路は厳しい。住宅ローンの借り入れという“裏技”を成功させ、それによる低金利に浴しながらも、足元に地雷が埋まっていることには気付けずに(あるいは気付いたとしても)、やがて来る破綻の日を迎えることになる。
なお、参考までに、彼らが購入させられやすい物件は「東京近郊の通勤圏内にあるファミリータイプの中古マンション」で、その割合は全件中82%となっている(住宅金融支援機構による前述調査)。
一括返済を求められ万事休す
悪徳業者が勧めるスキームに乗り、本来、分不相応だった投資に乗り出した人たち。彼らは、その後まれに上手くいったり、案の定、苦戦しながら賃貸経営を続けたりするが、自らが手を染めた不正の発覚に怯えながら日々を過ごす例も少なくない。
そこに、運命の日は突然訪れる。金融機関からの問い合わせが入るのだ。「あなたは当方の住宅ローンを借りて買った家に住んでいないのではないか」と、調査に基づいた確認が入る。ここで大抵は万事休すだ。虚偽の申告による融資は取り消され、借り入れした当人に対しては残金の一括返済が求められる。そこで「業者に騙された」と訴えても、言い分が通る可能性は極めて少ない。なぜなら、通常、住宅ローンを投資に使えないことの念押しは、融資が行われるまでの過程で書面上や面談等、明確に行われているからだ。
そのうえで、残金一括返済は大きな負担だ。そもそもそうした資金を自前で用意できないので当人は不正に手を染め、ローンを借りている。よって、貯金はもちろん、親の財産などもかき集め、ともすれば一族すっからかんの状態で弁済を果たす例も出てくることになる。
また、住宅ローンを本来あるべき不動産投資用ローンに借り換えさせてもらう、いわばお目こぼしがあった場合でも、先行きは当然危うい。なぜなら、説明したとおり不動産投資用ローンは条件が厳しいのだ。金利が増え、融資の期間が短くなる分、月々の返済は増す。辛い生活を家族に強いるに留まらず、一家離散の悲劇に至る例など、時折耳にされるところだ。
なお、こうしたピンチを切り抜ける手段として誰もが考えるのは、物件を売ってしまうことだ。つまり、投資はもう諦める。売却代金で残りの借金を返す。だが、ここにも罠は用意されている。前述のとおりだ。その物件は業者の思惑により「高値づかみ」させられたものである可能性が高いのだ。なので、売り出してみて愕然、代金のみでは返済分をまるで賄いきれず、ほかに資産を持ち出すなどのケースは普通にあるだろう。
なおかつ、その際、悪徳業者のもとに怒鳴り込み、「値段をつり上げたな」などと文句を言っても、それをかわす言い逃れや証拠を先方はあれこれ用意しているはずだ。あるいは開き直られたり、最悪、姿を消していたりももちろんある。
借金に苦しむ人も「カモ」
以上のとおりだ。住宅ローン投資詐欺は、投資の裏技などではない。あくまで詐欺だ。しかも、誘われた「素人」が加害者として責任を問われやすい、二重に危険な構造となっている。繰り返すが、話に乗らないよう気を付けよう。
なお、住宅ローン投資詐欺への誘いは、不動産投資をしたい人だけではない。それとは別の境遇におかれた人にも降りかかってきやすいことが知られている。それは、カードローンなどの借金をしている人だ。悪徳業者は、住宅ローンを借りることで、投資用物件を購入するだけでなく、手元の借金も返してしまえと勧めてくるのだ。結果、そうしたやり方を選んだ人は、抱えていた借金の分だけ余計に住宅ローンを借りることになる。
だが、一方で低い金利などが功を奏し、当面の返済は楽になる。なおかつ、ひょんなきっかけで投資家デビューまで果たせたということで、一瞬、気分も悪くないだろう。だが、それらは結局のところ布団の中で見る夢と同じなのだ。目が覚め、気が付くと、自分はすでに危ない橋を渡っている。一時的な安堵の気分など、抱えたリスクの重さとは当然比ぶべくもない。
ちなみに、このケースでは、業者は通常先立って自ら当人に融資をし、今ある借金を返させるかたちをとる。住宅ローンへの申し込みはその後だ。なぜなら、そのことで当人には借金が無くなり、クレジットヒストリーが掃除される。住宅ローンの審査が通りやすくなるのだ。
すなわちこれぞ至れり尽くせり。業者の心遣いとプロの手際に感心する人も多いだろう。
だが、その裏で不幸の扉は静かに開かれる。
この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室