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ペット可が更新で不可に? 賃貸「合意更新・法定更新」を学んでおこう

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突然「ペット可」はやめますって……?

ある事例から紹介しよう。

登場人物は30代の女性・Aさんだ。彼女は、首都圏のある街に建つ賃貸マンションに住んでいる。

そのマンションは「ペット可」物件だ。ただし、足洗いスペースなど、ペット飼育用の設備が充実している「ペット共生型」というわけではない。それでも、小型犬や猫など、小さな動物は1匹までなら飼っていい。

さて、そんなAさんのもとに、先日、建物賃貸借契約の更新案内が届いたそうだ。なお、Aさんがこの物件に住み始めたのは今から2年近く前。今回が初めての更新となる。

早速、管理会社名の入った封筒を開いたAさん。中からは、まだ無記名の契約書2通のほか、挨拶状、さらに予期せぬことが記された1枚の案内状が出て来たのだそうだ。

予期せぬこととは―――?

「今回の更新以降、ペット飼育は不可とさせてください」

続けて、

「新しい契約書では、その部分を改訂しています。ご確認ください」

驚いたAさん。とはいえ、彼女は現在ペットを飼っていない。しかしながら……

「近々飼おうと思っていたのに……」

実は、数年前にある資格を取り、独立・転職したAさん。その後、仕事は順調に増え、収入も増加。そろそろ念願の可愛いパートナーを(ネコを希望していたそうだ)と、楽しみにしていた矢先のことだった。

Aさん曰く、

「残念ですが、飼うのは一旦諦めました。引っ越しも考えましたが、管理会社に電話し、こういう予定だったと気持ちを伝えたところ、オーナー(大家)さんからは―――」

「急な変更で申し訳ないので、ご納得していただけるならば更新料は不要」

との申し出があったとのこと。

「住み替えにかかるコストや時間も考え、今回はとりあえず新しい契約内容で更新させてもらいました。ペットのことは、もう少し月日が経ってから、あらためて考えようと思っています」

勝手な(?)変更は許されるのか

さて、紹介したAさんの事例だが、読者はこんな風に思わなかっただろうか?

「そもそも、そんな勝手な変更をオーナーがしていいの?」

「今回の件は、あくまで契約の更新でしょう? 『ペット可』の部分も含めて、契約内容は全て変更なしで更新されないとおかしくないですか?」

いやいや、それはちょっと違うのだ。

仮に、読者が上記のように考えたとすれば、そこには誤解が含まれている。まずは、それを解こう。

契約更新は、従前(更新前)の内容を必ず踏襲したかたちで行わなければいけないというものではない。

契約している当事者が、それまでの契約内容に、何か不都合や不満を感じているのならば、「次の契約期間ではこうしませんか」と、相手方に提案したり、相談をもちかけたりすることには、何の問題も無いのだ。

というより、こう考えた方がむしろいいだろう。

「契約更新は、当事者双方が、契約内容を改善したり、調整したりするための機会としても存在する」

なので、逆を言おう。

現在、ペットを飼いたいと思いながらも「ペット不可」の物件に住んでいる入居者がいるとする。この人は、契約更新の際、オーナーに対してこんな希望をぶつけても何の問題もない。

「ぜひ更新してここに住み続けたいのです。なので、今回の契約からはペットOKにしてもらえませんか?」

他の入居者の意向との兼ね合いを図る必要があるなどするため、集合住宅では難しいケースが多いが、もちろん、状況によってはこんな願いが叶えられる可能性も無くはない。

Aさんは「合意更新」した

いま述べたとおり、契約更新は、従前の契約内容に縛られながら行われるものではない。あくまで、契約を交わしている当事者双方の意向を突き合せたうえでの合意によって、行われるものだ。

ちなみに、これを「合意更新」という。

当事者双方において、契約内容を変更する希望が「ない」のならば「ない」ことが合意され、「ある」のならば、どうすべきか両者が協議する。その結果、合意が成立すれば、それが新たな契約内容となるわけだ。

よって、先ほどのAさんの場合、結論として、彼女は「オーナーからの提案に合意した」ことになる。

「今回の更新以降、ペット飼育は不可とさせて―――」

と、書面に書かれたオーナーの言葉は(管理会社の代筆と思われるが)、Aさんにとって、まるで指示や命令のように映ったかもしれないが、実際の意味として、これは提案に過ぎない。

なので、Aさんは、結果として今回オーナーの提案を受け容れ、契約を合意更新したかたちとなるわけだ。

では、一方でAさんがオーナーの提案を受け容れず、拒絶していた場合、どうなっていたのだろうか?

なにしろ、物件は現状「ペット可」なのだ。

そのうえで、近々ペットを飼うつもりでいたAさん――その希望に何の落ち度もないAさん――が、

「困ります。私としてはもうすぐペットを飼う予定でいるんですから」

そう言って、オーナーの申し出を拒んだ場合、どうなるのか?

実は、法律は、そんなAさんに強く味方してくれる仕組みとなっている。

「法定更新される」というオーナーのリスク

繰り返そう。今回、Aさんがオーナーの“提案”を断っていた場合だ。

まず第1のケース。Aさんの言い分に対して、オーナーもこれを理解、

「分かりました。そういうご予定があったならば致し方ありません。これまでどおりペット可で更新しましょう」

―――この場合、要はペット可で「合意」が成立したことになる。めでたく合意更新だ。Aさんは予定どおりペットを飼える。

次に、第2のケース。

「急なわがままで済まない。だがAさん、そこをなんとか我慢してくれまいか……!」

Aさんの希望に対し、オーナーもそう言って粘り、両者の合意が成立しないまま時間が過ぎていったとしよう。

この場合、有利な立場はAさんが掴むことになる。理由はこうだ。

まず、更新日が過ぎるとともに、Aさんとオーナーとの間に結ばれている建物賃貸借契約は、法律(借地借家法)の規定により、自動で更新されることになる。これを「法定更新」という。

すると、契約は立派に更新されたのだから、Aさんは、当然のこと、その後もこの物件に住み続けていて構わない。

なおかつ、法定更新では、新たな契約内容は、契約期間を除いて「従前と同一」のものとなる。つまり「ペット可」もそのまま維持される。

そのうえで、契約期間は「定めがない」ものとなる。つまり、以降は更新というプロセス自体が無くなることになるわけだ。

つまり、こういうことだ。

「ペット可の条件は、Aさんがこの物件に住み続ける限り続くものとなる。Aさんは、当然その間、堂々とペットを飼っていい」

なので、この件、紐解けばAさん――入居者側――が、実は圧倒的に有利な土俵の上に立っている。

一方、オーナーとしては、相手の機嫌を損ねて怒らせてしまわないよう、まさにハラハラ、ドキドキものの交渉になるわけだ。(ただし、現実にはそのことにオーナーが気付かない可能性も高いが)

よって今回、有利な立場にいながら、かねてからの想いを断念し、素直にオーナーの希望に従ってくれた優しいAさんなのだ。(Aさん自身はそのことに気付いていなかったようだが)

そんな相手に対し、オーナーが申し出た「更新料不要」程度では、実はさほどのお詫びにもなっていなかったと言えるのかもしれない。

ちなみに、同オーナーがAさんの住む物件をペット可から不可に変えたい理由だ。こういうことらしい。

「以前、複数の空室が長期にわたって埋まらないことに動揺した時期があり、慌ててペット可にした。ところが、ご近所との間で飼育マナーに関するトラブルが発生、ストレスに苦しんだ」

加えて、

「ペット可だと、むしろ飼わないユーザーに敬遠されてしまうロスも、自身の物件の場合は多いことにあとで気が付いた」

そこで、オーナーとしては、現在ペットを飼っている入居者の退去を待ちつつ、新規の募集は「ペット不可」に。

一方で、飼っていないAさんのような人に対しては、更新ごとに件(くだん)の申し出を重ねているということのようだ。

合意があっても合意更新が認められない場合

以上、首都圏の某賃貸マンションに住んでいるAさんの事例をもとに、建物賃貸借契約における「合意更新」「法定更新」について、簡単に紐解いてみた。

そのうえで、大事なことを付け加えたい。

先ほど、

「契約更新は、従前の契約内容に縛られながら行われるものではない」
「あくまで、契約当事者双方の意向を突き合せたうえでの合意によって行われる」

と、説明したが、この合意が有効とならないケースもある。

それは、借地借家法の強行規定に反する特約で、借主に不利なものが結ばれる場合だ。

具体的な例をひとつ挙げよう。

「賃貸借期間は、9カ月とする」

この約定は、強行規定である借地借家法第29条に反するため、無効となる。

代わりに、同条に示されている「期間を1年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす」――に従い、この契約は「期間の定めがない」ものになるかたちだ。

なお、こうした理由で無効となるのは、いずれもいま記したとおり「借主に不利な」特約だ。入居者側は、この部分については基本安心していい。

一方、これ以外の多くの場合、更新時の合意はそのまま契約内容となる。

すなわち、貸主・借主間のゆるがぬ約束事となるので、そのことはしっかりと心得ておきたい。

たとえば、事例に挙がった「ペット」以外にも、楽器演奏の制限、駐車場の利用方法、あるいは、部屋を事業所や店舗として使っている場合の営業時間など、オーナー側から「更新以降は決まりを変えさせてほしい」旨、申し出が生じやすいものはいくつもある。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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