ウチコミ!タイムズ

賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン

「退去します」の予告は撤回できない!? 賃貸・知られざる厳しい決まりごと

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

退去予告は法律上、撤回できない

賃貸住宅業界で働くプロでも、知らない人(または、忘れている人)は案外多いかもしれない。一般の入居者であればなおさらだ。

今回、ぜひ覚えておこう。

「退去予告は、法律上撤回できない」

そのため、いい加減な心積もりでいると、あとでとんでもない事態を招く可能性がある。

あるいは、その予告がいい加減なものでなかったとしても、細心の注意を配っておくに越したことはない。

「この前の予告はナシにして」は、ナシ!

上記の「法律」とは民法だ。第540条に、以下のように明記されている。

第540条(解除権の行使)

第1項
契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。

第2項
前項の意思表示は、撤回することができない。

つまり、こういうことになる。

ある賃貸住宅に住んでいる借主=入居者が、貸主=オーナーに、下記のように伝えたとしよう。

あるいは、管理会社等を通じて、オーナーにこのように伝えたとする。

「このたび、転勤が決まりましたので、〇月〇日に部屋を退去します」

これが、上記、民法第540条第1項にいう「契約解除の意思表示」に当たる。

すると、第2項にあるとおり、この意思表示は撤回することができなくなる。

「スミマセン、会社の事情で転勤は無くなりました。〇月〇日以降もいまの部屋に住み続けます。先日お伝えした件は、ナシにしてください」

――と、いうわけにはいかなくなるわけだ。

繰り返すが、契約解除の意思表示=予告は、撤回できないのだ。

なぜなら、ここでその権利を認めてしまうと、予告を受けた側は、相手方の意思を確認したにもかかわらず、あとで撤回され、それが認められる可能性もある以上、次の予定を決められない状態に置かれてしまう。

すなわち、事実上、予告が意味をなさない。

そうしたおかしな状態がつくられるのを民法は許していないということだ。

勝手に居座れば不法占拠に

もちろん、上記のようなケースで、オーナー側が、

「そうですか。こちらは問題ありません。この前の申し出はいただかなかったことにしますので、どうぞ住み続けてください」

そういったスタンスをとれる条件にあるのならば、それこそ問題はない。話はチャラになる。

ところが、そうはいかないと厳しいことになる。

その場合、入居者は、部屋を追い出されるだけでなく、損害賠償を求められる事態ともなりかねない。

ところで、賃貸物件の契約では(建物賃貸借契約)、通常、こうした約束がその中で交わされている。

「借主は、貸主に対して、退去明け渡しの30日前までに解約の申し入れを行うことにより、本契約を解約することができる」

なお、物件によって、上記の「30日」がほかの日数になっていたりもするが、要は、こうしたかたちで通常は“予告受付期間”が定められている。

そこで、上記の場合、入居者が退去日であるとした〇月〇日が、たとえば申し入れ(予告)をした日の40日後に当たっていたならば、当該〇月〇日がそのまま契約期間満了の日となる。入居者は、規定の30日前よりもさらに早く、余裕をもって申し入れをしたことになる。

一方、〇月〇日が、たとえば予告の20日後に当たる日だったとすれば、契約書には通常、下記のような約定が記されていて、こちらが適用されることになる。

「前項の規定にかかわらず、借主は、解約申し入れの日から 30 日分の賃料相当額を貸主に支払うことにより、随時に本契約を解約することができる」

すなわち、このケースでは、予告された日までに入居者が滞りなく部屋を去り、契約期間が終了したとしても、30 日分を埋めるだけのその後の日数分、入居者は補償金(?)をオーナーに支払ってやることになる。

ともあれ、いずれにしても話は一緒だ。

入居者側――「退去予告を撤回させてくれ」

オーナー側――「それは認めない」

そんな対立状態となったまま、上記の契約期間、もしくは契約期間プラス“補償期間”が過ぎてしまうと、入居者はまずい立場に立たされることになる。

要は「不法占拠」だ。

入居者は、そこに住む権利を持たないのに居座っている、不法な存在となるわけだ。

なおかつ、そのことによってオーナー側に損害が生じた場合、不法・不当な存在である入居者に対しては、賠償が求められる可能性ももちろん生じてくる。

たとえば、想像しやすいオーナー側の損害としては、退去予告を受けて次の入居者の募集が開始され、結果、契約まで進んでいたような場合に生じる諸々の負担が、まずは挙げられることになるだろう。

加えて、契約の中に、解約後の物件明け渡しの遅延損害金を定めた規定があれば、そちらも要求されることになる。

そうしたわけで、賃貸住宅での入居者による退去予告、実はかなり重い宣言なのだ。いい加減な発信をすると、繰り返すが、あとで困ったことになる可能性がある。

退去予告はしたものの、予期せぬ状況の変化があとで生じた際は、この記事で述べて来たようなリスクを十分に踏まえながらの、真摯で迅速な対応も必要となってくる。

オーナーの自力救済はもちろんNG

一方、入居者のみならず、オーナーに対しても、この件に関してはひとつ注意があるので伝えておこう。

「退去予告した入居者が、契約期間終了後も事情が変わったなどと言って出て行かない。次の入居者も決まったのに、なんて迷惑なことだ……!」

そんな風に腹を立てるあまり、当該入居者の部屋に押しかけ、無断でカギを開けて中に立ち入ったり、家財に触れたりなど、決してしてはならない。

それは、家賃滞納者に対してやってはいけないこととしてよく挙げられる「自力救済」に当たる。司法はこれを許さない。

賠償を求めたい側が、逆に訴えられ、求められる側にもなりかねないので、厳に注意したいところだ。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

【関連記事】
賃貸・水道パッキンの交換は入居者が負担するって、正しいの?
入居者・オーナー・管理会社――心のすれ違い5つの事例


仲介手数料無料の「ウチコミ!」

  • Facebook
  • Twitter
  • LINE
  • Hatebu

この記事を書いた人

編集者・ライター

賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

ページのトップへ

ウチコミ!