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擁壁を知れば土地の価値が見えてくる!…土地投資の落とし穴にご用心(2/2ページ)

南村 忠敬南村 忠敬

2022/10/04

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【壁に加わる“力”の単位・Nを理解する】

擁壁は当然、それに加わる土圧、水圧、自重などによって崩壊(転倒)したり、基礎が滑ったり(滑動)しない構造としなければならず、設置場所や擁壁の規模によって求められる仕様と強度は異なって来る。また、実際の施工現場においては、風圧や静水圧、地震時の土圧と慣性圧、積雪なども含めた荷重も考慮して設計時に構造計算を行うのだそうだ。擁壁の施工単価が1㎡あたり数十万円から数百万円掛かることもあるというのも納得せざるを得ないほど、複雑で高度な技術力が要求される工事なのだ。

擁壁に加わる“力”を計算するには、単に対象となる土の重量だけを念頭に置けば良いというわけではない。様々な圧力を検討する必要があることは書いたとおり。圧力は外的要因と思いがちだが、忘れてはならない。ここは地球なのである。地球上での話をするのに“重力”抜きで考えることは無意味だ。それはもう“仏作って魂入れず”を地で行くようなものだ。
重さと重力の関係は、中学校の理科レベルで学習したように記憶しているが、その中身は残念ながら、「記憶にございません(涙)」。しかし、擁壁の構造計算を行う場合、加わる力の単位は“N(ニュートン)”で表すのが殆どだから、秋の夜長の暇つぶしと頭の体操の一石二鳥を目論んで、遠い昔に習ったはずの物理入門編を紐解いてみた。

地球上の質量を持つ全ての物体に対し、地球の中心に向かって引っ張る力を引力という(うんうん。そうだったな)。万有引力という言い方は、その状態を表している(全ての物体は互いに引き合う)概念だ。そして、地球という天体は、24時間を掛けて一回転(自転)しながら、約365日で太陽を周回している(公転)。この時、地球上の物体は引力(向心力)とは逆方向の力、すなわち外側から引っ張られるような力(遠心力)を受けているはずなのだが、我々にはそういう実感は無い。それは、引力と遠心力が均等(正確にはほぼ均等)で、釣り合っているということだ。そして、重力とは、地球の引力とこの遠心力の和(合わさった力≒合力)であり、厳密には引力より若干小さい。

地球上の物体に掛かる“重力”がなんとなく理解できたところで、擁壁の強度を計算するには、土の重さとは何かを考える必要がある。
質量と重さは同意語と扱われることも一般的だが、実際は異なる。質量とは、「物体が持つ固有の値」であり、それに対して重さとは、「万有引力による力の大きさ」を表している。従って、擁壁に掛かる土の重さを計算するというのは、単に土の持つ固有の質量を量るということではない、ということが分かる(なるほど。。)。
ここでようやく、構造計算に用いる応力度の単位がNである理由に辿り着いた注2。

注2
“重さ≒力”を数値化するためには重力加速度を計算に加えなければ導き出せない。速度は“時間当たりの物体の位置の変化の量”であって、“速さ”の概念とは別物である。因みに、速さは速度の大きさだけを抜き取った概念で、位置の変化量は含まない。そして加速度とは、単位時間当たりの速度の変化量(1秒間でどれだけ速度が変化したか)のことである。
例として、物体の落下運動のように、地球上で重力の影響を受けるときの加速度(重力加速度)は常に一定であるから、地球上の重力加速度は(g=9.80665m/s^2)で標準化されている。

N(ニュートン)は、国際単位系(SI)における力の単位で、1ニュートンは、1 kgの質量を持つ物体に1 m/s^2の加速度を生じさせる力であると定義された。1Nは、地球上で100gの物体に働く重力にほぼ等しいので、1kgの物体に掛かる重力は?というと、g=9.8m/s^2だから、9.8N≒約10Nである。

(450年前の駿府城石垣遺構)

【擁壁の適否で土地の価値は決まる!?】

擁壁を築造する場合、設計及び構造計算を行う際に用いる安全基準に関する数値や係数が示されており、擁壁形状、擁壁躯体の自重、地表面載荷荷重、土圧、転倒、滑動、支持力などをそれぞれ計算し(安定計算という)、安全性を担保しなければならない。また、地方自治体の「がけ条例」に基づいて、安全対策上の許可基準を
① 都市計画法の許可
② 宅地造成規制法の許可
③ 建築確認申請の許可(法88条による準用工作物に該当する擁壁)
のいずれかに求めている特定行政庁が殆どだという。つまり、この許可を得ていない擁壁は安全性が証明できていないと考えるべきで、近年の擁壁崩落事故等の多発を受け、行政側も安全性に対する調査確認を厳格化してきており、安全性を証明できない擁壁の存する土地に対しては、建築確認などが下りない可能性もかなり高くなってきていることに注意が必要だ。

外見上は問題無いように見える既存の擁壁でも、許可基準に照らしてその安全性が確認出来ない、なんてことが後になって判った!というようなことになると、土地購入代金より擁壁のやり直し費用の方が高額!?ってことにもなりかねない。土地取得にはくれぐれもご用心を。

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この記事を書いた人

第一住建株式会社 代表取締役社長/宅地建物取引士(公益財団法人不動産流通推進センター認定宅建マイスター)/公益社団法人不動産保証協会理事

大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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