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【インタビュー】「いつか会えればいいでは間に合わないこともある。元夫の死に直面して気づいたこと」

しばはし聡子しばはし聡子

2020/03/03

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イメージ/123RF

さまざまなかたちで離婚後も両親で子育てを行っているママの実体験を記事化したシリーズ。今回は、元夫が亡くなり、父子関係を築くことができなくなった経験から、共同養育の必要性に警鐘を鳴らすママを直撃インタビューしました。

■離婚後、父子関係はどのようにしていましたか。

円満な離婚ではなかったので、正直なところ息子を元夫に会わせたいという感情はなく、むしろ縁を切りたいと思っていました。それでも、事務連絡で元夫とは息子が2歳位までは電話でやり取りをしていました。面会交流の取り決めはしておらず、具体的に会うところまでに至りませんでした。

思い返せば、元夫は「息子に会いたい」と言っていたようにも記憶しています。ただ、当時は争点が子どものことよりもお互いへの葛藤だったので、子どものことまで頭が回らずじまいでした。

■息子さんには父親のことをどのように伝えていましたか。

息子が0歳児のときに離婚したので、父親の存在を伝えるまでもなかったのですが、成長するに連れて、聞かれたらなんて答えようと日々悩んでいました。息子が2歳になった頃でしょうか。息子に父親のことを聞かれたんですよね。ついにそのときが来たかと思いました。

ネガティブに伝えてはいけないと思う一方で、その場しのぎで「パパはいるけど、お仕事で遠くに行ってる」と伝えていました。

ただ、成長するに従って「なんで?」と質問が来るようになるんですよね。これ以上、ごまかすことはできないと思い、5歳になった頃「パパはいるけど、ママと喧嘩しちゃって一緒に暮らさなくなった」と息子に話すようになりました。

■お子さんが父親のことを話し出すようになってから、何か変化はありましたか。

息子が父親の存在を気にするようになり、3、4歳のときに元夫へ「息子が会いたいと言ってる」と写真を同封して手紙を出したんです。ただ、手紙は未達で戻って来ました。以来、元夫がどこにいるのか分からなくなってしまいました。

小学校3年生になった頃、ふと元夫の名前をネットで検索してみたんですよね。すると、地方にいることが分かったんです。自宅は分からなかったので、職場宛に手紙を出してみました。未達にならず、居場所は間違いないにも関わらず、返事はありませんでした。

その後、息子がいない時間を見計らって職場へ電話してみたところ、元夫が電話に出たんです。息子が会いたがっていることを伝えましたが、突然だったせいか電話口での歩み寄りは難しく破談に終わりました。

当時の私の心境を振り返ると、息子の気持ちを踏みにじられたような気がして、「息子が会いたいと言っているのに、過去の葛藤にこだわり会わないなんて許せない」という思いがありました。ただ、私の心中はさておき、家庭内で父親の話がタブーにならなかったので、息子は時折父の話を聞いてきましたね。私も包み隠さずごまかさずにきちんと話すようにしました。

■その後、息子さんと父親の関係はどのようになりましたか。

中学1年生の頃、パートナーと事実婚し3人で暮らすようになりました。中学にもなると息子も生活が忙しくなり、父親の話をすることもなくなりました。手紙の返事も来ないままだったので、息子にとっては一旦ピリオドを打ったようにも見えました。

そして、高校1年生の秋の出来事です。息子へ「探してみる?」と問いかけたところ、息子が「どんな人か知りたい」と同意したので、元夫の住所を探すことにしました。息子から直接手紙を出せば返事が来るのではないかと準備をしていました。

しかしながら、その願いは叶いませんでした。元夫の居住地の役所から届いた書類には、その年の5月に死亡したと書かれていました。封を開けたのは息子でした。息子は「僕はお父さんに一生会えない」と悲しみ、私も呆然としました。

本当だったら、息子が手紙を出して父子関係をリスタートできたはずなのに、死んでしまってはもう何もできることはありません。息子は生まれてから一度も父親と会うことがないまま、父子関係に終止符を打ちました。私自身、円満に離婚すべきだったのかなど、悔いる思いに苛まれました。

■子どもってどんな気持ちでいるものでしょうか。

子どもが何も話さないことと何も考えていないこととは違います。親の前ではニコニコしていながらも、布団の中で一人で不安な気持ちを抱えていたりするものです。きちんと状況を話すことが大事です。悪口を言うことも何も言わないことも子どもが苦しむのは一緒です。

子どもは知らないことが不安ですし、自分が親からどう思われているかを不安に思うんです。私の息子は一度も会えてないけれど「父がどう思っているか」を知りたがっていました。ましてや、物心着くまで父親と暮らしていた子どもがいきなり父親と会えなくなるだなんて、子どもの心の内を想像すると苦しくて胸が張り裂けそうです。

仮に父子関係が悪かったとしても、子どもは父親から愛されていることを知りたいし、信じたいのではないでしょうか。

■再婚を考えている人へアドバイスはありますか。

もし、元夫と子どもを会わせたくない理由が、再婚を視野に入れていることだとしたら、それは要注意です。もし再婚後、また離婚したら実親と子どもの縁の取り返しがつかなくなってしまうからです。

再婚に夢見られがちですが、必ずうまくいくとは限りません。パートナーは実親ではないのですから、再婚のために実親と縁を切ることは子どもにとっては大損失です。

新たなパートナーを見つける際には、「俺が面倒を見るから実親は切れ」という人ではなく、実親との関係を尊重する人がよいですね。ちなみに、わが家では実父の話題も出ますし、息子にとってパートナーは部活の顧問的存在のような感じです。

■読者の方へメッセージをお願いします。

もめた相手に、子どもを会わせたくないという気持ちは理解できます。私自身も同じ気持ちになりましたから。ただ、自分の感情が邪魔をして、子どもの気持ちが隠れてしまうことを忘れてはいけないですよね。

離婚の渦中にいると、目の前のことで頭がいっぱいになりますが、子どもがいる以上は一時の感情で判断するのではなく、長い目で見て子どもがどう成長するかを考えて判断できるとよいですよね。どんな大人になってほしいかをイメージすることも大事。

面会交流で悩んでいたり元夫の存在を不愉快に思っているのだとしたら、その負のエネルギーを仕事や趣味、次の人生に目を向けてみるとよいかもしれません。

お互いがお互いの非を指摘したり批判し合っているうちは、子どもにとっての離婚の害を冷静に考えられません。どちらが先に折れるかではなく、相手に交渉をしなくてはいけないこともあります。私は離婚を選択する前に、もっと早く気付けば良かったのですが時間がかかりました。

子どもにとっては父親も母親も大事な存在です。子どもの気持ちを理解しながら、離婚後も両親が子育てに関わる共同養育があたりまえな社会になることを祈るばかりです。

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この記事を書いた人

一般社団法人りむすび 共同養育コンサルタント

1974年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。自身の子連れ離婚経験を生かし当事者支援として「一般社団法人りむすび」を設立。「離婚しても親はふたり」共同養育普及に向けて離婚相談・面会交流支援やコミュニティ運営および講演・執筆活動中。 *りむすび公式サイト:http://www.rimusubi.com/ *別居パパママ相互理解のオンラインサロン「りむすびコミュニティ」 http://www.rimusubi.com/community *著書「離婚の新常識! 別れてもふたりで子育て 知っておきたい共同養育のコツ」️

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