「優雅な別荘暮らし」とはベツモノ! 二地域居住のリアル
馬場未織
2016/02/19
「遊びに行くね!」と言われても
「ねえ、どこそこに別荘持ったんですって!素敵ね!」
「いやー別荘って感じじゃないんだけどね。子どもたちと畑仕事がしたくて、毎週末通ってるの」
「すごーい。ねえ今度遊びに行っていい?ダンナも子どもも自然大好きなのよ!」
「えっと…ほんとにきれいな家じゃないよ。なんか来てもらうの申し訳ない感じ」
「いいよ、ぜんぜん気にしない。畑、手伝うし! 近々行くよ!」
「あ、ありがとう…ぜひ来てね」
二地域居住を始めて数カ月。楽しい報告などをしていると、徐々にその生活が友人伝手に伝わるようになります。興味を持ってくれる人もいて、話題が広がりますね。
上記の会話ですが、よくよく読むと、友達はワクワクしているけれど当の本人はちょっと引き気味な感じではないでしょうか。それは、手に入れた家がボロいから? それとも、まだいろいろと片づいていないから?
実は、二地域居住者特有の悩みが、ここに隠されています。
それは、「週末田舎暮らしは、忙しい!」ということです。
田舎の家には基本的に週末しかいませんから、やることがたまっています。前の記事でも触れましたが、春から秋にかけての草刈りは文字通り“待ったなし”。人間の都合などおかまいなしに雑草はぐんぐん伸びていきます。また、畑仕事や趣味の時間、集落とのおつきあいもあるでしょうから、実感としては「忙しい!」という感じになる人が多いのではないでしょうか。
友達を招いてバーベキューしたり、お庭でゆっくり本を読んだり、という優雅な別荘暮らしとはずいぶん違うという印象です(といってもわたしは別荘暮らしはしたことがないので、型通りの想像でしかないですね。笑)。
来てほしいけれど、忙しくて悩ましい
そんなですから、お友達が遊びに来る、というのは割と大変なことだったりします。
まったく気を遣わない親友などなら話は別ですが、そこまでぶっちゃけた仲ではない人が来るとなると、用意も考えてしまいますよね。家の掃除をしなくっちゃ、せっかくだから季節の美味しいものも振る舞いたいよね、遠くから来るのだから観光スポットにもちょっとは連れて行ったほうがいいかしら、とサービス精神も出てきます。
また、「畑、手伝うし!」と言ってくれる友人の好意はとってもありがたいのですが、実は一緒にできる仕事がないときもあります。草刈りなどは刈払い機を使うため、危ないのであまりさせたくありませんし、ひたすら畑の草むしりをさせるのも一般的には気が引けます。「畑仕事がしたい」と目的が明快だったら心置きなく一緒に働けますが、「遊びに来る」人が期待していることを提供しようとすると、その時間を新たに設けなくてはならない。そんなゆとりのないときが、割りとあるのです。
いや、そんな気を遣わなくていいのだ! ありのままでいくのだ! と思おうとしても、日常的な地味な(だけど場所に愛着のある人にとってはやりがいがある)田舎暮らしを楽しいと思ってもらえなかったらどうしよう、と、やっぱり悩みが深まります。
一方、その友達にはまったく悪意などありません。
本当に「家がぼろぼろでも、畑仕事でもオッケー!」と思っているでしょう。新しい土地での暮らしぶりに純粋に興味があったり、普通の旅行よりも知り合いの家に行ったほうが楽しいじゃない? といった気軽なことだったりします。また、不思議なことに、東京では「家へ遊びに行く」のはちゃんとアポをとってから伺うという感覚ですが、田舎の家に関しては「こんどそっち方面に行くから寄っていい?」と気軽に声がかけられる気がします。
まあ、そんな調子ですから、なかなか「忙しいからいま来られても困る」とは、言いにくい。
遊べるチャンスをうまくつくろう
実はこの話、「それをどうやって乗り切るか」ということだけではなく、みなさんが二地域居住をしている友達の家に遊びに行くときの意識について、考えていただきたいという気持ちがあって書いています。
自分もいずれそういう暮らしがしてみたいなあ、と思っている人ほど、友達の暮らしぶりは気になるはず。でも受け手側には、上記のような、なかなかうまく説明できない事情があったりもします。できればそれをうまく推し量ってみてから、遊びに行く約束をしてみてくださいね。
言うまでもありませんが、「絶対来てほしくない!」ということではないのです。タイミングさえ合えば、ぜひ来てほしい、というのも本音です。ただ、いつでもウェルカムというわけにはいかないよ、という、実はけっこう普通のことです。それが伝えにくいのは、「好きでやってる暮らしなんだから、基本的にそちらでの生活は自由だよね?」といった認識をもたれることがよくあるからだと思います。
普段からこの暮らしの苦労なんかも知っている友達や二地域居住者同士だと、そのあたりがツーカーで伝わります。忙しいよね! この時期だもんね! という理解がそもそもあるため、かなり前もって日程調整をします。あるいは、訪れる本人もちゃんとした農作業の恰好をして、がっつり手伝ってもらえるとそのあとのビールがとても美味しいです。逆に、冬場はわりとヒマなのを見越して、その時期に大いに遊んだり。どうせ1日使うなら、その日はみんなでとことん楽しもう! と、醤油づくりやキャンプファイアー、子どもたちを交えての合宿大会などもしたりします。
来客とのつきあい方は、それぞれのライフスタイルによってずいぶん違うとは思いますが、気の減るような場面が少なくなるよう工夫してみてください。両手を広げてウェルカム! という機会をたまにつくってメリハリのある生活を送れたらいいなあと思います。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。