きちんと知れば怖くない。田舎で虫と共存する方法
馬場未織
2016/02/12
虫嫌い、どの程度ですか?
週末は田舎暮らしをしています。という話をすると、「いいですね!」「畑とかなさるんですか?」「わたしも憧れているんです!」なんていう言葉をいくつかもらった後、「…でも、虫とかいるんじゃないですか?」と聞かれることが多いです。
虫は、嫌いですか?
わざわざそう確認する必要もないくらい、大抵の方は好きではないみたいですね。二地域居住を始めたいあなたも、そうですか?
残念ながら、田舎には虫がいます。都市よりも確実にたくさんいます。外にいてくれるのであればまだしも、家のなかにもわりと出没します。それはどうしても耐えられないという方は、本当に残念ではありますが、田舎で暮らすことを再検討なさったほうがいいかなと思います。
ただ、「好きではないけれど、ケースバイケースで対応可能」といった方は、田舎での虫とのつきあい方について、ちょっと考えてみてもいいかもしれません。
害虫か、益虫か
都市生活でもよく見かける虫の代表は、ゴキブリですよね。なぜか人の恐怖心をあおる、あの黒くてテラテラして動きの速い物体。わたしは虫が苦手なほうではないのですが、ゴキブリだけはどうもダメです。でも、南房総のわが家では、不思議なことにゴキブリはあまり見かけません。
なぜならば、家にゴキブリを捕食する生きものが棲んでいるからです。「アシダカグモ」という、巨大なクモ。巣をはらず、獲物にそっと忍び寄って、素早く捕まえます。捕食の瞬間を一度見たことがありますが、ぱっとゴキブリに飛びついて羽交い絞めにし、その上でくるくると回って瞬殺。何とも鮮やかな仕事っぷりでした。
しかしこのアシダカグモ、虫嫌い(正確にはクモは虫ではないですが)にはかなりキツいかもしれません。大きさは、足まで入れるとCD1枚分くらいあります。ちょっと毛深いようなテクスチャで、足が長く、大変な存在感です。壁や鴨居、トイレのドアなどにワッペンのように張りついているのを見ると、その大きさにびっくりして思わず声が出そうになります。
でも、このクモは害虫ではなく、いわゆる益虫といってもいいもの。アシダカグモが家にいるとゴキブリが全滅するといわれており、ゴキブリがいなくなると家からそっと出ていく、というダンディなふるまいをします。
わが家にはいま、多分2匹のアシダカグモがいます。週末に人気のない南房総の家にたどり着いて電気をつけ、白い壁にアシダカグモがくっついているのが見えると、ちょっとほっとして「ただいま」と話しかけるくらい親密な気持ちになりました。子どもたちもすっかり慣れて、脱皮した抜け殻が壁にくっついてふわふわしていると「かわいい」などと言っていますが、かわいいというほどの愛嬌は感じませんね。
さらに、アシダカグモに輪をかけて不気味なのが、オオゲジという虫。体長15センチ、足の数30本、音もなくサワサワサワサワサワッ! と滑るように高速移動するという、もっとも出会いたくないタイプの生物です。しかも敵に襲われるとこの長い足を自分で切って本体が逃げるらしい。その足は切り離されたあともシャカシャカシャカシャカ…と動き続けて敵の気を引くらしい。想像力が自動停止するほどおぞましい姿です。
でもこのオオゲジも、わが家には頻繁に出没します。見た目が怖すぎるし、とんでもない毒がありそうに見えるので、見た瞬間「ぎゃ~~!!」と飛びのくこと必至。でも調べてみると、これもゴキブリなどを捕食する益虫なのです。ムカデは噛まれると死に至るほどの強毒をもっているそうですが、オオゲジ・ゲジはめったに人間を噛まない上、ほとんど毒はないそうです。
このことを知ってから、こどもたちと「むやみに怖がらないようにしてみよう」と話し、オオゲジとも友好的につきあうようにしています。つまり、家にいても、そっとしておくということです。
知ることで恐怖感が薄れる場合も
よく考えると、わたしは虫自体よりも「虫を殺す」行為のほうが怖かったりします。シューーと殺虫剤をかけた後の断末魔の様子が怖いのです。そう考えると、無用な殺生をなるべく控えて、あたりさわりのない距離感で共存するほうが心穏やかです。
もちろん、「不快害虫」が周囲にいるだけで落ち着かない、という生理的な拒絶反応がある場合は、駆除したほうが安心して暮らせるでしょう。でも、もし心に少しゆとりがあるのであれば、「この虫は、どんな害があるのか」ということをきちんと学び、把握してから対処してもいいかもしれません。
人間に危害を加える虫はきちんと駆除し、姿が怖いだけの虫はちょっと我慢してよく見てみる。調べて、知ってみる。知ろうとすることによって、やみくもな恐怖感は薄れる場合があります。
また、虫と一緒にいる機会が多いと、けっこう慣れてきたりもするんですよね。夫などはゴキブリにさえ慣れてしまい、先日はそっと手でつかんで外に逃がしていました(これにはちょっと驚きました)。
「わたしは虫だけはダメ」という人も、田舎暮らしをするなかでその感覚が少しほどけてきて、環境に適応していく場合も、ひょっとしたらあるかもしれませんね。
この記事を書いた人
NPO法人南房総リパブリック理事長
1973年、東京都生まれ。1996年、日本女子大学卒業、1998年、同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経て建築ライターへ。2014年、株式会社ウィードシード設立。 プライベートでは2007年より家族5人とネコ2匹、その他その時に飼う生きものを連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約250往復以上する暮らしのなかで、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らと共に任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。 メンバーと共に、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査などを手掛ける。 著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。