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新しい生活スタイル「リモートワーク」への違和感――その根本的な理由はどこにあるのか?(1/2ページ)

遠山 高史遠山 高史

2020/07/22

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イメージ/©︎dotshock・123RF

アナログ人間にとってのリモートワークへの戸惑い

コロナウィルスの脅威は未だ去らず、世間では、リモートワークを推し進めている。画面越しのやり取りが今後、ますます増えると思われる。これも時流と言えばそれまでだが、変革がもたらすものは、良いことばかりではないことを忘れてはならない。

Sさんは、中規模の食品会社の営業部長である。足で稼げと言われていた時代に入社し、取引先に出向いては積極的に売り込みをかける典型的なスタイルの営業であった。部長になるまでは、週に4日は外出し、客先を回るのが日常であった。

しかし、コロナ禍が始まって、会社からは物流を除いた全ての部署をシフト制に切り替え、特別な用がない限りは、シフト以外の出社と、客先への訪問は避けるようにと通達が出された。

Sさんは、ひとまず、自宅に仕事をするスペースを作ってはみたが、戸惑いは大きかった。アナログなSさんでも、さすがに若い部下たちの手前、メールやSNSを使うが、細かいやり取りは、直接会って指示を出すか、電話したほうが、スムーズに行くように思えて仕方がない。パソコンのカメラを使って、リモート会議なるものも、やってはみたが、どうにも違和感がある。

そもそもSさんは、パソコンが苦手である。コロナ禍の前は、部下たちが煩雑な作業は変わってやってくれていたし、メールも文章を打つのが遅いので、若手に頼んだりしていた。こうしたこともあって何事も直接会うか、電話で話すほうが、よほど確実であると思っていた。

リモートワークが始まっても、業務の指示や、その確認で電話をしていたが、ある日、部下から、「部長、メールも、チャットもあるんですから、細かいことは、そっちを使ったほうが楽ですよ。わざわざ電話をいただかなくても、証拠も残りますし、そちらのほうが確実です」と言われた。

Sさんは少なからずショックを受けた。細かいことだからこそ、電話をしていたのだが、部下からすると、煩わしいばかりだし、文字で残したほうが確実であるというのである。

それからSさんは、できるだけメールを使うことにしたが、ちょっとしたニュアンスの違いや、誤解の結果、ミスが増えた。指示を出すと、「了解しました」と返事は来るが、Sさんの意図とは違った受け取られ方をしていたりするのである。

直接話せば、相手の反応を直に感じ取ることができるので、指示の修正や、補足ができるのだが、文章のやりとりでは、それを感じ取るのは非常に困難である。結局ところ相手の反応を予測して、文面を考えなければならず、それもストレスになった。

インターネット回線を通じたビデオ電話も試してみた。が、顔は見えるが、うまく意思の疎通ができていないような気がして、なんとなく気持ちが悪い。自分をカメラで撮っている気恥ずかしさもあり、すぐにやめてしまった。結局メールを送った後に、確認の電話をする羽目になり、部下からはあからさまに煙たがられた。

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この記事を書いた人

精神科医

1946年、新潟県生まれ。千葉大学医学部卒業。精神医療の現場に立ち会う医師の経験をもと雑誌などで執筆活動を行っている。著書に『素朴に生きる人が残る』(大和書房)、『医者がすすめる不養生』(新潮社)などがある。

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