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新しいオフィスのかたち「猫のいるオフィス」のつくり方

山本 葉子山本 葉子

2020/05/29

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会社に行くと猫がいる――。

猫好きな方にはとても魅力的な状況ではないでしょうか。仕事の合間に猫たちに触れる。のんびりしている猫を眺めるだけでストレス解消になるものです。
もちろん、猫が苦手な方にも配慮しながら、個性的で社会貢献事業にもなる運営ができたらいいなと考えたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

猫の保護団体NPO法人東京キャットガーディアンでは、行き場のない猫の保護・譲渡を行う活動をしています。救える命をなるべく多くするために、ありとあらゆる方法を模索しているわけですが、猫を保護して里親さんへ譲渡するまでの時間を作るためのスペースが必要なのです。企業さんと猫の保護団体双方にとって、メリットのある事業について考えてみます。

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「会社内保護猫カフェ計画」

資金力のある企業さんが「自社ビルの空いているフロアで何か提案してほしい」と言ってきてくださったことがあります。100坪以上のフラットな空間――楽しい想像が次々と湧きます。

担当者の方と顔合わせすると「私、猫飼っています」「実家にはたくさん猫がいて」「マンションがペット不可なのが残念で」と、みなさんかなりの猫好きでした。猫の保護団体と企画の話をするのですから、当然と言えばそうなのですが。

「どんな風に人間の都合や会社の都合と猫たちの都合を折り合わせていくか」

雑談をしながらたくさんのことを書き出していきました。そこでなんとなく出来上がってきたのが「会社の中の保護猫カフェ」というもの。働く人の福利厚生として猫たちに癒される場所があったらいいなというものでした。しかも行き場のない猫たちの助けになり、猫が苦手な人は保護猫カフェを利用しないという運用です。

自宅マンションがペット不可だと嘆いていた女性が「朝会社に来て猫達に会えるなんて!」と、目をキラキラさせています。「休憩の時に保護猫カフェに行って猫達と遊べるのだから他の会社に自慢したくなる」と話す男性のご担当者。「うちには猫が2匹いるけれど、会社で会える猫は別腹だよね」とまるで食後のデザートのような発言は、管理職の方でした。

さて、それらを実現させるためにはどんな工夫が必要になったか。

内装はある程度作って大丈夫。キャットステップやキャットウォークや猫ドアのある楽しい部屋が次々と提案されます。海外の事例の参考写真なども見ながらのミーティングはとても面白いです。猫たちのお世話は保護団体職員が担当することになりました。きちんとしたお仕事の依頼で大変ありがたいご提案でした。

「保護猫カフェ」である以上必要な条件と大きなハードル

猫同士の相性が良いグループを選んで、多頭飼育でもトラブルのないように配慮します。順調に進んできたお話し合いですが、続けていくためには、先方に伝えなくてはならないことがありました。

「受け入れていただいた猫たちは、適切な飼育者さんが希望してくれれば保護猫カフェを卒業(譲渡)させていいですよね?」

皆さん一瞬考え込みました。保護猫達とお別れする日のことを考えてしまったのでしょう。

「あの、例えば最後まで私もお世話するので、ここにずっと居てもらうのはダメでしょうか?」

ペット不可マンションに住んでいる女性が尋ねます。職場で毎日会っている猫とさよならするのは、想像しただけでもつらい。気持ちはよくわかりますが、猫たちの都合についても考えたいところです。この会社の社員さんあるいは取引先の方でも、会社内保護猫カフェに立ち寄った方が里親を希望されてお譲りしても大丈夫な方であれば、やはり譲渡しておうちに迎えていただくのがその子にとっては一番幸せだと思います。そして、空いた場所にはまた次の保護猫を受け入れてあげられる。まるで小さなキャットシェルターのようです。なかには譲渡のご縁がなくて年齢が上がっていく猫も出てくるでしょう。シニア猫によくある症状が進んで、会社内保護猫カフェに居るが厳しい状況になったらどうしたらいいのか。保護団体がお引き受けして必要なケアを最後まで続けると言うことをご説明しました。そして空いた場所にはまた次の保護猫を迎えていただくと言うわけです。お話は行ったり来たりしながら、ミーティングに参加してくださった方々全員が納得していただけました。

「会社内保護猫カフェ」実現に立ちはだかったものとは?

この内容を社内でさらに検討してお返事くださるとのことで、 1週間ほどお待ちすることになりました。そのお返事は、関わってくださったほとんどの社員さんが賛成だったのですが、ビル管理の方からいただいた「退社時から翌日まで、ビルの空調止まります」とのこと。結局、会社内保護猫カフェ計画はNGになりました。

本当に残念な結果になりました。

「猫がフロアを闊歩するオフィス」の選択肢

テナントとしてビルの一角を借りている会社さんからのご相談もありました。

20坪そこそこの仕事場を保護猫たちの住処として使ってほしいというご提案です。早速、細かな打ち合わせ。猫の苦手な方は社員さんには居ないとのこと。
「猫たちはここで眠るわけですが、空調は?」「1年中つけっぱなしになりますよ」と私たち。

「そりゃもぉ!大丈夫」

と社長さんからの頼もしい言葉をいただきました。とてもいい感触です。猫好きさんたちは猫に仕事を邪魔されても問題なし。「書類を踏まれちゃうかも」「おやつは閉まっとかなきゃ」「膝に乗られたら動けないよなぁ」と嬉しそうです。

この様子なら率先してお世話を頑張ってくれそう。猫の数も数頭なので、保護団体としては飼育をきちんとレクチャーした上で社員の方にお任せする方向で話をしました。社長さんから相談をいただいた時には「猫たちの譲渡活動に貢献したい」とのことだったのですが、その話を社員さんたちにすると

「えー、居なくなっちゃうの!?」

と……。やっぱり、お別れは嫌なものです。猫を飼った経験のある方もない方も、一様に「ここに来てくれた猫を最後までお世話したい」と仰ってくださいました。それならシェルターのような運用ではなく、会社をファミリーのように考えた終生飼育の場所にしましょうということに落ち着きました。社長さんは「卒業(譲渡)させてあげたほうがたくさんの子が助かるのに」とも言ってくださったのですが、どちらにしてもありがたいお話です。

始めるのは簡単、でも続けるのは大変

「会社内保護猫カフェ計画」も「猫が邪魔するオフィス計画」も、何を一番優先するかによって運用が変わってきます。保護猫たちを卒業(譲渡)することを優先させれば、キャットシェルターのような形になり、終生飼育することを望んだ場合はお家で世話をするのに近い形態になります。始めるのは勢いで出来るかもしれません。しかし、途中でやめるのは大変です。多頭飼育の猫たちの行き場を探さなくてはなりません。無理なく進めていくためにもこうした企画にはバックヤードの役割を果たす保護団体が必要になります。

どうでしょう? 猫達を助け続けながらの会社運営。

楽しいことばかりでないですが、一度考えてみませんか。ご相談お待ちしています。

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この記事を書いた人

NPO法人東京キャットガーディアン 代表

東京都生まれ。2008年猫カフェスペースを設けた開放型シェルター(保護猫カフェ)を立ち上げ、2019年末までに7000頭以上の猫を里親に譲渡。住民が猫の預かりボランティアをする「猫付きマンション」「猫付きシェアハウス」を考案。「足りないのは愛情ではなくシステム」をモットーに保護猫活動を行っている。

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