クマより27倍危険? 一人暮らしの高齢者へ「餅からの卒業」のススメ

2025/12/10
近年に比べ、死亡者数が突出したクマ被害
間もなく暮れ行こうとしている2025年。東北地方などを中心に、日本各地が「クマ被害」に揺れた年となった。
環境省の発表による12月5日更新分の速報値を見ると、クマによる今年度の人身被害件数は11月までで209件。被害者数は230人となっている。
このうち、亡くなった方は13人だ。そのまま11月末現在における今年の死亡者数となっている。前年度となる1~3月中に、死亡例が無いためだ。
参考までに、過去9年度分の数字も併せ、掲げてみよう。
| 年度 | 被害者数 | 内、死亡者 |
| 2025年度(4月から11月まで) | 230人 | 13人 |
| 2024年度 | 85人 | 3人 |
| 2023年度 | 219人 | 6人 |
| 2022年度 | 75人 | 2人 |
| 2021年度 | 88人 | 5人 |
| 2020年度 | 158人 | 2人 |
| 2019年度 | 157人 | 1人 |
| 2018年度 | 53人 | 0人 |
| 2017年度 | 108人 | 2人 |
| 2016年度 | 105人 | 4人 |
このとおり、今年度の死亡者数は、近年においては突出した数となっている。
クマ被害については「メディアが騒ぎすぎ」との声も時折聞かれるが、上記の推移を見れば致し方ない。
人数こそ少ないものの、亡くなる方が例年の倍から数倍に増えたということで、多少声高に注意喚起されることについては、現状、妥当というほかないだろう。
クマの27倍?―――「餅」による死亡
さて、上記のとおり、今年のクマ被害による死亡者数は11月末現在13人だが、これをはるかに超えて、毎年300人以上が亡くなっているかもしれない、ある怖い事故がある。
かつ、その事故は、間近に迫った年明け頃、特に多く発生することが知られている。ぜひ注意したい。
「餅」による死亡事故だ。主に高齢者が襲われる。
食べる際、のどに詰まらせ、息が出来なくなる。最悪の場合、そのまま窒息死してしまう。
少し前のデータだが、消費者庁が分析し、公表したところによると、2018年で363人、翌19年では298人、合わせて661人の65歳以上の方が、こうした餅による事故で亡くなっている。
そのうえで、事故の発生は、焼いた餅や雑煮など、餅を食べる機会が増える1月に急増する。上記の約43%(282件)を占めるとのことだ。
高齢者が餅の事故に遭いやすくなる一番の原因は、言うまでもないが加齢となる。
消費者庁のリリースから抜粋すると、
- 「歯の機能が衰え、噛む力も弱くなる」
- 「唾液の量が少なくなる」
- 「飲み込む力が弱くなる」
- 「咳などで押し返す力が弱くなる」
そのため、粘っこく、口の中やのどにくっつきやすい餅は、高齢者におけるこれらの特徴と相まって、気道閉塞による窒息を招きやすい。
なおかつ、命が助かったとしても、窒息の状態が長いと脳にダメージが及ぶこともある。障害等、後遺症が残る可能性が少なくない。
下記は、東京消防庁が公表しているデータとなる。
| 死亡(初診時、死亡を確認) | 9.5% |
| 重篤(〃 生命の危険が切迫・引き揚げ時の死亡を含む) | 38.6% |
| 重症(〃 生命の危険が強いと認められたもの) | 9.8% |
| 中等症(〃 生命の危険はないが入院要) | 14.9% |
| 軽症(〃 軽易で入院を要しないもの) | 27.4% |
「餅をのどに詰まらせた」は、当人の生命や、以後の生活に重大な影響をおよぼす可能性が高い、まさに大事故ということだ。
なお、同じ「食べ物で亡くなる」という括りでいうと、2024年の食中毒による死亡者数は全国でたったの3人に過ぎない(ただし患者数は多い―――14,229人)。
さらに、23年は4人、22年は5人、21年は2人に留まっている。(以上、厚生労働省「食中毒統計資料」より)
こうした数字は、餅が危険な食べ物であることを示す、直視せざるをえないデータといえるだろう。
一人暮らしの高齢者へ「餅からの卒業」のススメ
このように、リスクの高い食べ物であると残念ながら認めるしかない餅だが、これを食べるなと言われても、われわれはなかなかそれには従えない。
なぜなら、餅は大半の人がこれを好むだけでなく、代表的な神饌(神様へのお供え物)でもある。いわゆるハレの日の楽しみでもある。
よって、われわれ日本人にとって、餅は文化的にも存在が重く、まさに民族挙げてのソウルフードといっていい。
そのため、「毎年餅を食べて沢山の人が死んでいる」「高齢者だけで年間300人もの人が亡くなっている」と聞かされても、われわれの耳にこれらはあまり響かない。
「お餅は我慢して」との指示や要請は、「高血圧の人は塩分を控え目に」というものとは、意味が土台から違ってくるということだ。
とはいえ、この記事では、あえて高齢者の方々に提言したい。
「餅からの卒業」だ。
とりわけ、背中を叩いてもらったり(背部叩打法―――文末リンク先を参照)、背中側から回した手で上腹部を突き上げてもらったり(ハイムリック法―――同上)など、事故が起きた際に周囲からの助けを得にくい一人暮らしの方は、なおさらのこと、餅とは決別することをおすすめしたい。
なぜなら、餅の事故は突然やってくる。ただし、食べようとしない限り、それは決して起きないからだ。
悲惨な窒息死、さらにはそれが孤独死―――発見遅れにつながるリスクから、われわれは餅を食べない分だけ、確実に逃れることができる。
日本の「65歳以上の者のいる世帯」は、現在2,760万を超えている。全世帯の半分以上となっている。(厚生労働省「2024年国民生活基礎調査」)
このうち、「単独世帯」は約900万世帯にのぼっている。上記の約33%が、一人暮らしの世帯となる。
なお、国など各機関は、「餅は小さく切り、ゆっくり噛んで食べましょう」「のどに詰まった時は云々」―――等、さかんに発信している。それはもちろん大事なことだ。
だが、それらの多くはどこか口ごもっているような気がする。もっと大事なことがあるが、多分それを言っていない。
餅から卒業する人が増える方が、悲劇を減らすには効果的なはずだ。
(なお、餅からの卒業という言い回しについては、国立病院機構近畿中央呼吸器センター・倉原優医師の提言「餅卒」を参考にさせてもらった)
「政府広報オンライン 餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は?」
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室






















