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都市と自然のあいだに暮らす。広島へ移る理由──移住支援最前線・地域力創造課インタビュー

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今回のウチコミ!タイムズは、旅行メディア「日本の旅侍」との共同企画第2弾です。「日本の旅侍」はお城を中心としたオトナ旅・知的旅を発信しているメディアで、城を旅するWebマガジン「旅と城」を発行しています。

今回は広島県と呉市を特集し、広島県地域政策局地域力創造課で広島への移住促進や、移住希望者のサポートなどに取り組むグループリーダーの上原正義さんに、広島県への移住に関する取り組みについてお話を伺いました。インタビュアーは呉市地域おこし協力隊の「島ギャル ゆうな」さんです。

広島県呉市の「旅と城」はこちらをご覧ください。

-広島県で取り組んでいる移住促進策について教えてください

上原 広島県では「ひろしまスタイル定住促進事業」として①広島らしいライフスタイルの魅力発信②移住希望者と地域のマッチング③移住者に対する受け皿づくり、の3本柱をかかげ、県外からの移住者の獲得に向けて取り組んでいます。

①の魅力発信では、デジタルマーケティングの手法を活用しながら、移住ウェブサイト「HIROBIRO.」やSNSで情報発信に取り組んでいます。

情報発信で興味を持ち「移住したい」と感じられた移住希望者には、②のマッチングに取り組んでいます。市町や人材紹介会社などの企業の皆様と連携し、個別相談やセミナー等を開催しているほか、東京の有楽町にある「ひろしま暮らしサポートセンター」に相談窓口を設けています。令和6年(2024年)は2141件の相談を受け付けました。

③の受け皿づくりでは、広島県に移住された方に協力いただき、移住サポーターや、担当市町に関する相談を受け付ける地域コーディネーターになっていただき、移住相談を受けてもらっています。

-広島県への移住者の数や傾向について教えてください

上原 平成27年(2015年)からの移住世帯数のデータを見ると、右肩上がりで推移しています。平成27年は県と市町が捕捉した分の合計で109組でしたが、令和4年(2022年)には259組まで増加しました。その後は横ばいで、令和6年(2024年)は250組でした。広島県では県や市町の支援を通じて移住された人のみをカウントしているので、他県よりは数字は小さいかと思います。

令和6年には457名の方に相談いただきましたが、3分の2がIターンです。年代別では30代が多く、次いで40代と20代ですね。昔はもっと年齢が上の方が多かったのですが、最近若い人が結構来られています。

東京に窓口があるため東京の方が圧倒的に多く、次いで神奈川県、千葉県や埼玉県となっています。職業は会社員・被雇用者の方が多いですね。

出身地は全体の3分の1弱にあたる141名が広島でした。それ以外は県外なので、やはり県外出身で広島の暮らしに興味を持ち、観光などで広島を訪れ、良いなと思って広島に移住したいという方が多いのではと思っています。

-Uターン、Iターンでそれぞれどんなケースがありますか

上原 Uターンでは東京で就職して違和感を覚えて広島に戻ってこられたり、結婚や家を持ちたい、というタイミングで戻られたりなど、ライフイベントのタイミングで住環境を見直される方がいらっしゃるのではと考えています。私も一度は日本の中心地で過ごしたいと考え、大学は東京にしましたが、就職活動を経験したとき、満員電車などの生活に違和感を覚えました。「30年以上こんな生活をするのはありえない」と感じて広島に戻ってきました。

Iターンの方は観光や仕事での赴任、大学が広島だったなど、広島を訪れたことをきっかけにされている方が多いです。私がIターンした方へのインタビューですごく印象に残ったのが、東京出身で広島の企業に就職された方。「東京にいるときは意識できていなかったけれど、広島から東京に帰省したときに、人が多くてストレスを感じた。自分は東京にいるときにストレスを感じていたことに気づいた。東京出身だけど広島の方が良い」と話されていました。そういうのはなかなか気づけないんですよね。我々はそういう「気づいてもらえるきっかけ」を提供できないかと考え、取り組みをしています。

広島で就職された方に話を聞くと、広島の方がアウトドアスポーツがやりやすいという声を多くききます。東京の場合、キャンプに行こうとすると車で2時間以上かかるけれど、広島だと1時間以内で、季節によってはスキーも楽しめます。大きなテーマパーク等はありませんが、広島は自然を身近に感じられる点が魅力です。ドライブやツーリングが好きな方は「広島が良い」とおっしゃる方が比較的多いように感じます。

私たちの仕事は、選択肢を提供し、自分にふさわしいライフスタイルを見つけてもらうお手伝いをすること。移住していただけたら一番嬉しいですが、強制はできません。人生相談にまで発展するケースが多いので、いらっしゃる方のお悩みに気づいてどれだけ寄り添えるかが我々のミッションです。

-移住者の実体験を通して、広島に移住する「リアル」を知ってもらう取り組みもされています

上原 昨年、移住ウェブサイト「HIROBIRO.」で「ひろしま移住ストーリー2024」を掲載しました。広島県に移住された方に生の声を語ってもらうためのメッセージを募集し、多くの応募をいただきました。投稿者が書いた良いところも悪いところも手を加えず掲載しており、ウェブでありのままを知ることができるコンテンツだと思っています。移住希望者の方にも読んでもらえており、評判が良いですよ。

また、尾道在住の移住コーディネーター、酒井裕次さんに毎月相談会を実施してもらっています。Uターンされて東京と尾道の2拠点ワークを実践されている方で、尾道での仕事の紹介から地元のコミュニティの紹介まで、さまざまな活動をされています。

Iターンの方に多いのが、人と人との繋がりを求めてくるケースです。実は移住を決めた方のなかには、エリアではなくそこに住んでいる方々が好きだから決めた、という方も結構いるんです。移住の奥深さを感じますよね。

-さまざまな取り組みをされている中で、難しさを感じるのはどの部分でしょうか

上原 最終的には現場がすべてだと感じています。着任してまだ半年ほどですが、「これが正解」という答えがない世界だと日々実感しています。

たとえば、「移住の決め手は仕事」という方が多いので、県内企業に参加してもらってフェアを実施したことがありますが、なかなか人が集まりませんでした。暮らしの相談とセットでフェアをやると、暮らしの相談にばかり人が集まり、企業ブースが閑散としている。参加いただいた企業に申し訳なくて、胃が痛くなるような思いもしました。

一方で、そうした場でも、歩いている方に積極的に声をかける企業は2名ほど採用につながり、実際に広島への移住に結びついています。知名度の高い企業でも、担当者がじっとブースに座ったままだと誰も来ない。きっかけと決め手は必ずしも一致しないのだと、面白く感じる場面もあります。

-移住の決め手は人それぞれということでしょうか

上原 決め手としては相談ベースで仕事が74.8%、住居が23.4%となっています。仕事は大きな要素ですが、仕事をテーマにしたイベントは意外と集客が難しい。他県も同じ悩みを抱えているようで、どうすればよいのか、試行錯誤を続けています。

仕事中心で住む場所を選ぶとどうしても東京のような大都市になりがちかもしれませんが、暮らしに注目して仕事を選択すると、我々地方も選択肢に入ると感じています。

-仕事の紹介についてはどのように取り組まれていますか

上原 広島の人材紹介会社と協力し、「仕事と暮らしの転職相談会」を東京で年に7回開催しています。また、時間が合わない場合は直接、人材紹介会社と相談者をおつなぎする場合もあります。我々県職員が前面に立つというよりは、我々はあくまで繋ぎ役として、その方にあった支援者や地域につなげていくことがポイントだと思っています。

傾向としては、職種で仕事を選ばれる方が増えてる印象です。東京のサポートセンターには事務職や営業職などを希望される方が多いと聞いていますが、企業側は技術職を求めていることが多く、そこにはどうしてもミスマッチな部分がありますね。

東京では、職種がはっきりと分かれた「ジョブ型」の働き方が増えていると認識していますが、広島をはじめ地方では、部署をまたいでさまざまな業務に関わる「メンバーシップ型」の働き方が主流です。そこでギャップを感じる方もいますが、「歯車の一部ではなく、仕事の全体に関わりたい」という方には、むしろ地方の方が面白い企業が見つかる可能性があるかと思います。

例えば建築士の方で、「東京ではプロジェクトの一部分しか担当できず、1から10まで手がけてみたい」というお悩みをお持ちの方を、広島の企業とつないだことがあります。地方企業は一人が担う範囲が広い分、裁量も大きく与えられています。その方は自分の力で最初から最後までプロジェクトに関われることに魅力を感じて広島に移住されました。そういう声はほかにも聞きますので、「裁量を持って全部自分の力でやってみたい」という方には魅力的だと思います。

地方の場合、求めている仕事にピッタリのものというのは少ないんです。ですので、人材紹介会社の中には求人票ベースではなく、「こういうスキルの人がいるのですが御社で活かせませんか」と企業に提案するスタイルでマッチングするところもあります。企業側も「今までやってこなかったけれどやってみよう」と気づくことがあり、うまくいけばWin-Winの関係になります。

移住者の方の多くは転職されており、一部でリモートワークの方もいらっしゃるというような状況です。島しょ部はリモートワークでないと移住が難しいという話も少し聞いています。東京圏との2拠点ワークの方はあまりいませんね。どちらかというと東京からもう少し近い地方に移住されたような、新幹線で通えるケースの方が多いのではと思っています。

-移住者の方から聞いた苦労される点や、想定外だったことなどを教えてください

上原 よく聞くのは、住宅事情と交通、物価面でのギャップです。東京よりは安いものの「家賃が意外と高い」という声をよく聞きます。

-確かに郊外や島しょ部では広い一軒家で安く暮らせるケースもありますが、呉市中心部はそれなりの家賃水準ですね

上原 交通面では、「時刻表をよく見るようになった」という声もあります。東京と違い、地域によっては、電車が1時間に1本、バスが20分に1本など、少し待つんですよね。当たり前といえば当たり前なのですが、東京からの移住者の方には想定外だったようです。また、広島市内はそうでもないのですが、車がないと生活が不便という話もよく聞きます。

物価についても、「野菜は東京の八百屋さんの方が安かった」「魚売り場の品ぞろえは広島が圧倒的に多い」などの声もあり、全部が全部安いというわけではありません。以前はスーパーの折り込み広告をお見せしたこともありましたが、相談を受ける際はなるべくそうしたギャップを解消できるよう、お話ししています。全体的には「生活費は思っているほどではないが、ある程度は抑えられる」という感じだと思います。

-住まいの受け入れ状況や支援について教えてください

上原 住宅については住宅課が空き家バンクを運営しており、空き家情報を登録・紹介しているためご紹介しています。ただ、移住希望者は賃貸を求められる方が圧倒的に多いので、その場合はどうしても民間の不動産会社がメインになります。行政としては、空き家バンクの情報提供や、地域の方との橋渡しが中心になります。

空き家の場合、大家さんが「住む方は自分で選びたい」というケースが割とあります。このためネット上には掲載されていない物件も多く、現地に行って地域の方と話すなかで「あなたなら貸してもいいよ」と紹介していただけるケースもあります。移住希望者が積極的に動かなければなりませんが、そういうところは行政でお手伝いできますね。

-広島県といっても広いですが、地域ごとの傾向を教えてください。

上原 東京の相談窓口での相談ベースで見ると、希望エリアとしては広島市が多く、続いて尾道市、福山市、呉市、三原市です。その相談の後に、実際に移住される方は、広島市と尾道市が拮抗している印象で、その次に三原市が続くイメージです。

広島市は都会と自然が近いところ。いわゆる「近接性」が広島の大きな魅力で、「ちょうどいい規模感の街」と評価していただくことが多いです。東京から来た方には「広島市は田舎」と言われますが、他のエリアに行ってみると「意外と都会だった」と言われることが多いですね。令和5年(2023年)のG7広島サミットの影響もあり、ヨーロッパやアメリカからいらっしゃるインバウンドの方も観光で多く来られています。

尾道市はロケーションの良さに加え、先に移住した方々がしっかりとしたコミュニティを持っていて、やりたいことがある人が入りやすい環境が整っています。尾道市も移住に積極的に取り組んでいるので、受け入れ態勢が非常に整っている地域だと言えます。三原市は三原駅に新幹線が止まることや広島空港があることがメリットです。

キーワードとしてはやはり「瀬戸内」が強く、呉市や倉橋島、大崎上島、江田島など、海や島のあるエリアへの関心が高いです。一方で、山間部の相談件数はそれほど多くありませんが、紹介してみると意外とうまくいくケースもあると聞いています。

-移住に向けたサポート体制について教えてください。

上原 東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)にお住まいの社会人の方を対象に、広島への来訪に必要な片道分の交通費を補助する「片道交通費支援」という制度があります。新幹線代と飛行機代が対象で、一定の条件を満たす方が対象です。
条件としては、市町の移住相談窓口や企業の面談、家探しなど、移住に関連する訪問先を2カ所以上回っていただくこと。帰省目的や観光目的は対象外で、本気で広島移住を検討している方向けの制度になります。
令和6年度(2024年度)は99組にご利用いただきましたが、およそ半数の方に実際に移住していただいています。相談の場合は2割程度ですから、この制度を使う方は本気度の高い方が多いと感じています。

-最後に、広島への移住を考えている方に向けてメッセージをお願いします。

上原 よく言われるのは「広島はちょうどいい町」という言葉です。ある程度の都市機能がありながら、自然がすぐそばにある。スキーも海水浴も楽しめる環境が整っていて、アウトドアが好きな方には本当におすすめできる地域です。そういう都市と自然が近くにあることを魅力に感じている方にぜひ来ていただきたいですね。

また、広島県はスタートアップ企業を応援する取り組みも積極的に行っています。挑戦を応援する県でありたいと思っていますので、新しいことに挑戦したい方にはぜひ来ていただきたいですね。

-ありがとうございました

「HIROBIRO.」
広島移住メディア。広島県に移住した方のインタビューや、東京での移住イベントなどの情報がたくさんつまったサイト。
https://www.hiroshima-hirobiro.jp

呉地方隊と倉橋島の旅と城はこちらをご覧ください。
呉地方隊と倉橋島の旅と城を読む

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この記事を書いた人

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