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ハザードマップ「警戒区域外」にも土石流  九州・久留米の豪雨災害が示す大事な知見

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※記事中の被災地の写真ではありません

記録的豪雨が土石流を誘発

7月10日に、九州北部を記録的な大雨が襲った。各地に被害が発生している。15日時点での死者数は、福岡県5人、佐賀県3人、大分県1人の計9人となっている。

そうした中、福岡県久留米市田主丸町の竹野地区では、大規模な土石流が発生した。10日午前9時半頃のことだ。住宅少なくとも7棟が損壊し、1人が亡くなっている。

土石流は、現地を流れる千ノ尾(ちのお)川沿いを激しく流れ下った。航空写真からは山の斜面が崩れ、山肌が露出している様子が見てとれる。大量の雨が土壌に溜まり、表層崩壊(厚さ0.5~2.0メートル程度の表層土が滑落する現象)を発生させたものといまのところは推測される。

水を大量に含んだ土砂は、周りの木々や岩も浚い、それらを巻き込みながら谷筋を下り、麓の家々を襲ったようだ。

ハザードマップの隙間

今回の災害現場を国土交通省・国土地理院の「重ねるハザードマップ」で確認したい。

上図のとおり、赤い矢印が示す辺りが被災地の中心だ。ここは「土砂災害警戒区域」に指定されたエリアとなる(黄色の部分)。そのうえで、土石流が流れ下った谷筋は「土砂災害特別警戒区域」(赤色の部分)に指定されている。ハザードマップがあらかじめ指摘していたまさにその場所で、指摘どおりの災害が起きたかたちとなる。

ただし、今回、現地の様子を写した写真や映像と見比べると、ある重要なことにも気付かされる。土砂による大きな被害は、いま示した黄色のエリアを外れた部分でも発生している。具体的には下の図、赤い丸で示す辺りだ。

こうした警戒「区域外」に住まわれ、被害に遭った方の1人を取材した報道によれば、その方は自宅がそうした“安全”な場所にあることをご存じだったとのこと。それもあって、事前に避難しなかったという。しかしながら、自宅は被災。幸いなことに家族ともども命は助かっている。

同様に、現地からはほかにも多数の住人が、同じような判断のもと避難を躊躇したとの話が伝わってきている。検証は当然必要なことになるだろう。

ハザードマップは安全を保証する地図ではない

近年、多くの国民に浸透してきた災害・防災ハザードマップだが、もちろん完全無欠なものではない。これらは一定のデータや知見、要件に基づく「想定」が示されたものだ。なおかつ、それはマップが作られた時点までにおいての想定となる。

よって、作成者側の努力にかかわらず、結果として漏れや誤りは当然生じうる。さらには想定を超える「想定外」も、つねに発生しうることとなる。

その意味で、今回、土石流が発生した久留米市の被災地においては、まさに想定外といえるまれな状況が生じている。

この場所は、久留米市の南東側に屏風のように横たわる耳納(みのう)山地(または耳納連山など)の麓にあたっている。ここには気象庁の観測地点がある。データを見てみたい。災害当日(7月10日)の速報値だ。

(観測地点:福岡県久留米市耳納山)
1時間降水量の日最大値 91.5mm(09:15まで) 観測史上1位の値を更新
3時間降水量の日最大値 167.0mm(06:20まで) 観測史上1位の値を更新
6時間降水量の日最大値 316.0mm(09:20まで) 観測史上1位の値を更新
12時間降水量の日最大値 366.5mm(13:20まで) 観測史上1位の値を更新
24時間降水量の日最大値 402.5mm(09:30まで) 観測史上1位の値を更新

(数値等の詳しい見方については、気象庁「解説 降水の状況について」を参照)

このとおり、説明の必要もないだろう。

こうした、過去の経験からはおよそ想定外となる大量の雨を吸い込んだ土砂が山を駆け下ったとき、その麓では、当然ながらハザードマップが想定しない範囲にまで被害がおよぶ結果となっている。

付け加えると、今回の土砂が流れた経路である千ノ尾川沿いにあっては、3カ所に砂防堰堤(さぼうえんてい)が設置されていた。いわゆる砂防ダムだ。しかしながら、大量の土砂はこれらを埋め尽くし、おそらくは軽々と乗り越え、下流に下っている。これも当然のこと想定外の事象といえるだろう。

すなわち、ハザードマップは、

「危険の存在を示してはいても、安全を示しているものではない」

それが、今回の久留米での災害が教えてくれている大事な知見となる。

亡くなった方のご冥福を祈るとともに、被災されたその他の皆さんへも心からのお見舞いを申し上げたい。

土砂災害警戒区域は東京都心でもあちらこちらにある

とりいそぎ、今回の福岡県久留米市での土石流被害に関連して、現在わかっているまでのことを拾ってみた。

なお、土砂災害警戒区域――通称イエローゾーンともいわれるものだが、地方の山沿いにばかり存在するものではない。たとえば東京都心にもあちこちにある。そう言うと「えっ」と驚く人もいる。

なおかつ、そうした都心のイエローゾーンの多くにおいても、その内側にはさらに危険な土砂災害特別警戒区域――通称レッドゾーンが指定されていたりもする。

ちなみに、土砂災害警戒区域および特別警戒区域には3つ種類がある。「土石流」「地すべり」「急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)」それぞれの危険を示すものだ。

今回、久留米市で被害が生じたのは(その中心は)このうち土石流の危険があるとされていた区域だが、東京都心で無数に見られるのは3番目の「急傾斜地の崩壊」となる。

ただし、繰り返すが、「ハザードマップは危険の存在を示してはいても、安全を示しているものではない」――そのことにおいては、いずれも同様、変わりはない。

以上は、賃貸、持ち家にかかわらず、家に住む人・建てる人の誰もが心掛けておきたい事実となる。

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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