コロナ後の人類は、健康的な生活様式を手に入れる?
ウチコミ!タイムズ編集部
2020/09/01
イメージ/©︎paylessimages・123RF
毎日の通勤のカロリー消費は7キロのランニングに匹敵?
新型コロナは日常生活にも大きな変化を与えている。それを一括りでいってしまえば「生活様式の変化」というわけだが、コロナ禍の中でこれまで以上に見かけるようになったのが、公園や川沿いの遊歩道などでのランニングやウォーキングをする人たちの姿だ。
とくに政府が4月に出した緊急事態宣言以降、外出自粛の最中ではランニング、ウォーキングをする人はむしろ増え、“密”ともいえる状態になるほどだった。
こうしたランニングやウォーキングをする人が増えた理由は、コロナ以前からランニングをしていた人に加え、新型コロナが広がり始めたころ、クラスターが発生した施設にスポーツジムがあったことから、スポーツジムが休業。それまでジム通いをしていた人が街中でのランニングを始めた。
さらにテレワークによる在宅勤務、外出自粛で外に出ることができず、外出といえば食料品の買い物ぐらいしかできない中での、運動不足とストレス解消のための人、これまでほとんど運動らしいことをしなかった人も、手軽な運動としてランニング、ウォーキングに参戦したわけだ。やはり、運動は必要なもののようだ。新型コロナ以前にまったく運動していなかったという人でも、こうしたランニングやウォーキングを始める人も増えたらしい。
というのも、毎日の通勤がけっこうな運動になっていたからだ。
たとえば、体重70キロの人の家と会社のドアtoドア通勤時間が90分(歩行25分/電車内で立った状態が60分/途中の階段の上り下りが5分)の人の消費カロリーは278カロリー。体重50キロの人であれば、200カロリーを消費する、これが往復になるので、1日の通勤だけで、体重70キロの人は556カロリー、50キロの人で400カロリーが消費される。
実はこの消費カロリーは、時速8キロで55分、距離にして7キロあまりをランニングした消費カロリーに匹敵する。これまで日常的に運動しなかった人がランニングやウォーキングを始めたのは、新型コロナ禍で通勤の運動がなくなり、身体のほうが運動を求めランニングやウォーキングへとつながったようなのだ。
世界各国で外出自粛前より運動をする人が増えている
ランニングやウォーキングをする人が増えたのは日本だけでなかった。
新型コロナの感染拡大を受けて、国際的にも人気の高いスポーツ用品メーカーのアシックスが行った「新型コロナウイルス感染症影響下におけるランニングに関する意識調査」によると、約36%の人が外出自粛前よりも活発に運動しているという調査結果が得られたと発表している。
このアンケート調査は、4月~5月末に世界12か国の定期的に運動をしている人18歳から65歳の男女を対象にして行われたもので、対象地域は日本、中国、インド、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ロシア、オーストラリア、ブラジル、イギリス、米国の各地域の1000人(英国・米国は2000人)の14000人からの回答から分かったものだ。
また、同社が提供しているランニング用アプリ「ASICS Runkeeper」(アシックス ランキーパー)」のデータを解析したところ、あらゆるレベルのランナーがより頻繁に、長い距離を走っていることが明らかになっている。具体的にはこのアプリの利用者のうち、週に1度以上ランニングをする人が世界で62%増加、日本では118%増加したことが判明している。
なぜここまで走る人が増えたのかも、このアンケート調査結果から読み取れる。
新型コロナ禍のような困難な状況において、問題に対処する際にランニングやエクササイズなどの運動が精神面で役立ったと答えている人が世界で67%、日本で41%おり、運動をすることで、気分が晴れ、自分自身をコントロールできていると実感したとしている。加えて、世界で81%、日本で84%の人が「ランニングは頭をスッキリさせるのに重要な役割を果たしている」とし、世界で65%、日本で67%の人が「ランニングは精神面におけるメリットがある」と回答している。
これまでも運動による精神的な効能についてはさまざまなところでいわれてきたが、新型コロナ禍のような厳しい状況におかれると、より一層そうした効果が高くなるようだ。
出典/アシックス「新型コロナウイルス感染症影響下におけるランニングに関する意識調査」
3密への不安? コロナ禍で定期健診をしない人が増えている
こころと身体の健康維持のためにランニングやウォーキングをする人が増える一方で、身体の健康状態を見るために欠かせない定期健診だ。しかし、この定期健診を受ける人が減少しているという。
企業では4月~5月といった年度明けに定期健診を行っているところが多い。しかし、今年は新型コロナによる緊急事態宣言が4月~5月に出されたため、健診を行う施設も休止。健診が受けられない状態になってしまった。緊急事態宣言後もテレワークなどによる在宅勤務が続いたこと、また、健診施設が密になりがちなイメージもあって避けた人も多かったようで、定期健診をなんとなく避ける傾向があったようだ。
そのため6月からはほとんどの健診施設で定期健診が再開されてはいるが、いまなお従来通りな状態になっていないという。加えてすべての検査がこれまで通りとはなっていということもある。例えば、胃や大腸の内視鏡検査、肺活検査などマウスピースをくわえて検査するものは中止されているところは多いという。
運動によって健康維持を図ることはよいとはいえ、やはり定期健診で身体の状態をチェックすることはは欠かせない。「死の4重奏」という言葉があるように「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」「上半身肥満」の4つの生活習慣病は脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化を引き起こすた因子を見つけるたには定期健診はとても重要だ。なんといっても、この4つの生活習慣病に共通しているのは、「一度なってしまうと完治は難しく、一生つき合っていかなくてはならない病気」で、継続した治療が必要となる。そうならないてめにも発症の危険因子をいち早くつかむためのものが定期健診だからだ。
基準の見直しで450万人が降圧薬治療対象者に
なかでも注意したいのが、高血圧だ。日本の高血圧患者は4300万人いると推定されており、厚生労働省が出している「国民健康・栄養調査」(平成30年)では、収縮期(最高)血圧が140以上の人の割合は男性が36.2%、女性26.0%となっている。この割合は年々下がってきてきたが、2019年4月に高血圧治療ガイドラインが5年ぶりに見直され、降圧目標が引き下げられた。
出典/厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成30年)
改定の内容は、高血圧の基準は従来の140/90以上としたものの、降圧目標は、75歳未満は130/80未満、75歳以上は140/90未満とされた。この降圧目標の変更により、新たに450万人が降圧薬治療の対象になるとの試算をされているのだ。
有り体にいってしまうと、これまで薬を飲まずに食事や日常生活の見直しでギリギリセーフだった人も、薬を飲まなくてはならない対象者とされてしまったというわけ。
もう1つ、注意が必要なのは糖尿病だ。
糖尿病は有病者と糖尿病予備群がそれぞれ1000万人、合わせて2000万人いるといわれている生活習慣病である。「国民健康・栄養調査結果」(平成30年)によると、「糖尿病が強く疑われる人」の割合は男性が18.7%、女性が9.3%と高血圧に比べれば低いが、年代別で見ると、50歳を超えると一桁だった割合が急激に上がって18.6%、60歳を超えると24.8%と4人に1人が糖尿ということになるだ。こうした傾向は女性も同じで割合が増えるのは男性より遅く60歳を超えてからで、12.8%と2桁になってくる。
出典/厚生労働省「国民健康・栄養調査」(平成30年)
このように高血圧、糖尿病は加齢とともにその割合が増えており、とくにこの2つはさまざま病気の因子と結びつき合併症を併発することが多いため、定期健診でその兆候をつかむことが重要なのだ。そんな中で新型コロナによって、定期健診をしない人が増えていることは要注意な傾向ということができるだろう。
年齢を重ねていくと「眠れない」「何を食べてもおいしくない」「疲れがとれない」など、身体の不調を感じることが多くなってくるもの。このように何となくスッキリとしない状態を「クオリティ・オブ・ライフ(QOL)が低下した状態」という。QOLとは、「生活の質」「人生の質」と訳され、自分の意思で人間らしい生活、自分らしい生活を送り、幸福を感じる人生という意味で、高齢化が進む中で重要視されている。
例えば、どんなことを指すかというと、健康で家族や友人との会話を楽しみながら、おいしく食事をする。好きな趣味を楽しむことができるなど、日常生活をストレスなく、普通に楽しむことができていることがQOLの高い生活ということになる。こうしたQOLが高い生活は、日々の生活を充実させるだけにとどまらず、免疫力も高めることにつながる。
しかし、新型コロナは家族や友人との会話を楽しみながら、おいしく食事をする。好きな趣味を楽しむ――といったQOLの高い生活を阻む大きな障害になっている。
前述のアシックスのアンケート調査によれば、新型コロナウイルス感染症が収束した後も、ランニングやエクササイズなどの定期的な運動を継続したいと考えている人が世界で73%、日本で75%とおよそ4分の3が運動を継続したいと考えている。そして、このうち新型コロナが拡大してからランニングを始めた人が62%を占める。
これまでの生活様式を変えさせた新型コロナだが、収束しこれを乗り切った人類はより健康に目覚めることになるのかもしれない。
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