賃貸住宅とLPガス。歪んだ(?)パートナーシップがこの春一旦解消へ
2025/02/28

LPガスの霧が晴れる?
この春、賃貸住宅とLPガスを巡って長い間、世間に立ち込めていた「霧」が晴れようとしている。4月に、3本柱からなる「液化石油ガス法の改正省令」がいよいよ“完全施行”されるのだ。ただし、これによりマイナスの影響が及ぶオーナーも間違いなく多い。
とはいえ、これまでの状況は確かに「歪んだ」ものだった。今回の変化はトータルで見て、入居者、オーナー、さらにはLPガス事業者とその業界にとっても好ましいものといえるだろう。
これにより、賃貸住宅とLPガスの関係は、いわば一旦“仕切り直し”となる。以下に、主な要点をまとめていこう。
「三部料金制の徹底」が4月に施行
間もなく、この4月2日に、液化石油ガス法の改正省令のうちの「三部料金制の徹底(設備費用の外出し表示・計上禁止)」部分が施行される。
具体的にはこういうことだ。(経済産業省リリースより)
- 基本料金、従量料金、設備料金からなる三部料金制(設備費用の外出し表示)の徹底
- エアコンやインターホン、Wi-Fi機器等、LPガス消費と関係のない設備費用のLPガス料金への計上禁止
- 賃貸住宅向けLPガス料金においては、ガス器具等の消費設備費用についても計上禁止
少し分かりにくい箇所もあるが、単純には、
- LPガスと関係のない設備費用を
―――ガス料金として回収しない - LPガスと関係のある設備費用でも
―――賃貸住宅の入居者からは回収しない
これらを徹底するかたちになるわけだ。
歪んだ「ディール」
LPガス業界では、かなり以前から(昭和の時代からともいわれている)、ある特殊なセールス手法が少なからず採用されていた。
ターゲットは、アパートや賃貸マンションのオーナーだ。ガス料金を個別に支払う入居者をたくさん抱えている彼らは、LPガス事業者の側から見ると、ぜひとも契約を獲得したい大口の顧客となるわけだ。
そこで、業者は、契約成立の見返りとして、オーナーにさまざまな賃貸住戸用の機器や設備を無償で貸したり、提供したりするようになった。
その対象となるものは、当初はガス給湯器やガスコンロが中心だったといわれている。それが、やがて時代を経るにつれ、種類を増していった。
それらは、たとえば、エアコン、インターホン、Wi-Fi機器、防犯カメラ、温水洗浄便座等―――。また、これに並行して、こうした方法を採る業者の数も増えていったようだ。
そのうえで、これら機器や設備は、どれも入居者募集に役立つものだ。無償で借りられたり、提供されたりすれば、オーナーとしてはとてもうれしい。自腹を切って投資せずに済む。
そこで、業者は「これらと引き換えにウチと契約を」とオーナーに“ディール”を打診、ライバル業者に負けまいと必死に営業するかたちが、最近まで数多く見られる状況となっていた。
そこに、国がメスを入れた。
なぜメスが入ったかというと、すっかり広まってしまった上記のようなやり方が、いわば歪んだ環境を社会にもたらすようになっていたからだ。
機器等のコストは入居者の負担
歪んだ環境とは、こんなかたちだ。
まず、消費者である「入居者」が不利益を被る面として―――
- 無償で貸与、提供された機器や設備のコストは、実は、業者によってガス料金に上乗せされている。
- その分、高いガス料金を入居者は払わされることになる。なおかつ、そうした事実について、入居者はほとんどの場合、事前に知る機会がない。
- そのうえで、ガス料金が高いことに入居者が気付き、不満を感じても、賃貸集合住宅ではオーナーが契約した業者を他と代えられない。
業者自身も厳しい立場に
さらに、業者の側にも影響は跳ね返っていた。
- オーナーに無償で貸与、提供する機器や設備の費用を負担できない業者が、契約を断られるようになった。
- 契約やその更新を条件に、オーナーから過大な要求を受けるケースが生じるようになった。
- 無償で貸与、提供した機器や設備にあっては、通常、それらの交換、修理など、以降にかかるコストについても、業者が引き受けざるをえない状態となった。
なお、過大な要求はオーナーばかりではない。オーナーがたくさんの入居者を抱える「強い」存在であるように、多数のオーナーを抱える不動産管理会社も、LPガス事業者に対しては同様の立場となる。彼らや、彼らに関連する建設業者等による過重なリクエストも、やはり少なからず見られたようだ。
そのうえで、それでも契約が欲しい業者の中には、オーナーに実質、現金を渡すところもあった。その名目や方法は色々だが、たとえばガスボンベ設置場所の地代といったものもそのひとつとなる。
ともあれ、国は、本来あるべきガス料金の差ではなく、こうした別のサービスの差によって契約が決まっていく状況を「歪み」であり、不健全なものと見たようだ。
なおかつ、それが弱い立場にある入居者の不利益につながっている点を見過ごせない大きな問題であるとした。
2つの柱は先行して実施
以上のような状況を正すため、新たに定められた液化石油ガス法の改正省令3本柱のうち、2本はすでに昨年7月2日から施行されている。
ひとつは、「過大な営業行為の制限」だ。
これにより、機器や設備の無償貸与、無償提供や、実質的な現金供与といった「過大な営業行為」はすでに禁止となっている。
さらに、「LPガス料金等の情報提供」だ。
これにより、LPガス事業者に対しては、入居希望者へガス料金を事前に提示する努力義務が課された。(直接か、またはオーナー、管理会社等を通じて行う)
加えて、入居希望者から直接情報提供の要請があった場合は、それに応じることが義務づけられている。
そのうえで、「三部料金制の徹底」も、前記のとおり間もなく施行となる。
以上により、この問題のいわば入り口である「オーナーへの過大な営業行為」に加え、出口となる「入居者からの費用の回収」、いずれもがNo―――禁止となるわけだ。
なおかつ、入居者における受益と対価の関係を明確化させる詰めも行われ、このたびの規制の全体が、これで整うことになる。
なお、以上のうち、「業者の義務」化された決めごとについては、罰則等も規定されている。
過大な営業行為の制限、三部料金制の徹底、さらには入居希望者から直接要請があった場合のガス料金についての情報提供が、それに当たる。
国はかなり本腰を入れて、今回の課題に対応したといえるだろう。
再掲しよう。
- 「過大な営業行為の制限」(24年7月2日 施行)
- 「LPガス料金等の情報提供」(同上)
- 「三部料金制の徹底(設備費用の外出し表示・計上禁止)」(25年4月2日 施行)
以上、改正3本柱が揃うことで、一部では「プロパンガススキーム」などと呼ばれていたかつてのやり方は終了。繰り返すが、賃貸住宅とLPガスの関係は仕切り直しとなる。
今後について。オーナーは―――
そこで、今後に関する声もさまざま出ている。
たとえば、当然のことだが、機器や設備の無償貸与・提供に加え、その後の無償交換・メンテナンスといった、大きな便宜を得られてきたオーナーにとっては、これからの環境は厳しくなる。
すなわち、1台10万円のエアコンであれば、20部屋の交換で200万円。それらは、今後は自腹だ。
よって、こうしたコストを家賃に転嫁できるオーナーと、それができないオーナー、双方明暗が分かれることになる。
(その点、無償貸与・提供スキームを採っていたLPガス事業者は、オーナーの負担を減らすことで、実は、高いガス料金を取る反面、安い家賃の形成を促していたケースも中にはあったといえなくもない)
他方、いわゆるオーナーチェンジの際に、LPガス事業者の切り替えが生じるケースで、それが無償貸与された設備等の貸与期間内だと、話がややこしくなるのではと心配する声もある。
たとえば、この場合、残存期間の(簿価による)清算が行われるとすると、前提として、それは以前のオーナーが負担するかたちになるだろう。
そのうえで、新たな業者がスムースなオーナー交代のため、それら設備を買い取るなど、便宜的に関与すると、話は確かにややこしくなる。新オーナーへの過大な営業行為と見られる可能性も、場合によっては生じてくるだろう。
また、そうした流れを踏まえた契約が、三部料金制の徹底(4月2日)以降に結ばれるケースでは、業者は投じた費用をガス料金に含めて回収できなくなる。関係者間において、さまざま考慮が必要となる要因になりそうだ。
今後について。業者・業界は―――
「ガスは、料金以外に差別化がしにくい商品なので、業者は今後もなんとかしてオーナー側への利益供与を図るのでは」との予想もある。
ただし、経産省のスタンスは現状かなり厳しい。
そのため、競争の尺度がほぼ料金のみと、シンプルになることで、業者間での差が見えやすくなり、体力のある業者によるそうでない業者の買収等、淘汰がこれから一層進むのではないかとの見方もある。
一方で、「賃貸集合住宅に関していえば、ガス料金を払うのは入居者であって、オーナーにはその安さを求めるモチベーションは本来湧きにくい」と、考える人もいる。
そのため、オーナーから業者への選別圧力は、今後はさらに生じにくくなり、なおかつ、これまでのコストから解放されたことで、それらが純粋に業者の利益となるケースは多いだろうとの見立てだ。
こんな予測もある。「LPガス業界そのものがダメージを受けそうだ」。
今回のことで、都市ガスが引かれている地域では、オーナーがLPガスを選択するメリットが失われるというのがその理由となる。たしかに、そうした地域に限っては、大小影響が生じるかもしれない。
最後、根本的な疑問の声も、少数だが存在する。
「無償貸与・提供のやり方は、歪んだ不健全なものではなく、真っ当な競争のひとつだったのでは」との意見だ。
たとえば、LPガス同様、商品そのもので差別化を図れない電力会社(小売電気事業者)は、現在さまざまな電気とは関係のないサービスを付与、展開しながら、顧客獲得競争につとめている。
すなわち、LPガスで問題といえたのは、
「料金が入居希望者に事前開示されておらず、選択の材料となっていなかった部分に尽きるのでは?」
そんな見方だ。なるほど一理あるかもしれない。
参考:
「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則の一部を改正する省令を公布しました」(経済産業省ニュースリリース)
(文/賃貸幸せラボラトリー)
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この記事を書いた人
編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室