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東京一極集中はよくないことなのか?「地方創生」10年目の総括

朝倉 継道朝倉 継道

2024/08/11

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東京一極集中、流れ変わらず

この6月に、政府が「地方創生10年の取組と今後の推進方向」と、題したレポートを公表している。第二次安倍政権時代の2014年から本格的な取り組みが始まった、いわゆる看板政策における10年目の総括となる。以下のようなまとめだ。

  1. 政府においては、地方創生のため4つの柱に沿った施策を展開してきた。4つの柱とは、地方に仕事をつくる、人の流れをつくる、結婚・出産・子育ての希望をかなえる、魅力的な地域をつくる―――以上となる。
  2. この間、地域によっては、人口増加が見られたところや、13年当時の人口推計値を上回るところもあった。この中には、地方創生への取り組みの成果といえるものが一定数あると評価できる。
  3. とはいえ、国全体で見ると、人口減少や東京圏への一極集中といった流れを変えるには至っていない。成果が挙がっているケースにあっても、多くは移住者の増加による社会増にとどまっている。地域間での人口の奪い合いとなっている様子が見られる。
  4. 人口減少に歯止めをかけ、東京圏への過度な一極集中を是正することは、わが国全体が戦略的に挑戦すべき課題である。今後も、時宜を捉えた対応が求められる。

以上、読んで分かるとおりだ。この政策は、現状のわが国におけるいわゆる東京一極集中―――特に人口においての集中を「是正すべきこと」としたうえで、推し進められてきたものとなる。しかしながら、10年の歳月を経ても、その流れは変わっていないというのが政府自らの評価だ。

ところで、その東京への人口集中について、当レポートには面白い資料が添付されている。内容を紹介していきたい。

東京の人口をどんどん増やしているのは「地方の都会」

以下は、東京都における対道府県別の転入(人口)超過数を並べたものだ。上位9道府県となる(数字は2014~23年までの累計)。

1位 大阪府 73,054人
2位 愛知県 60,716人
3位 兵庫県 45,885人
4位 福岡県 38,047人
5位 北海道 35,483人
6位 静岡県 30,850人
7位 宮城県 27,959人
8位 新潟県 25,705人
9位 広島県 22,707人

ある共通性に気付く人が多いはずだ。答えは「政令指定都市」となる。上記全てが、これを抱えた道府県となっている。いわば地方の都会だ。

(大阪府――大阪市・堺市、愛知県――名古屋市、兵庫県――神戸市、福岡県――福岡市・北九州市、北海道――札幌市、静岡県――静岡市・浜松市、宮城県――仙台市、新潟県――新潟市、広島県――広島市)

そのうえで、東京都の転入超過数全体に対しては、大阪、愛知の2府県でその約2割を占める(19.5%)。さらに、残り7道県分(33.1%)を加えると、実に5割を超える(52.6%)。

すなわち、以上からは「地方の都会」こそが、東京へ人を送り、東京の人口を嵩上げする強力なポンプになっている様子が見てとれる。

そのため、今回のレポートにおいてはこんな言及がされている。

「こうした都市(上記9道府県)において、東京圏への人口流出を抑制する役割――いわゆる人口のダム機能――を担うことが期待される」

以下は、上記9道府県のうち、特に重要な大都市を抱える6道府県における「人口のダム」としての成績だ。(2014~23年までの累計による)

(6道府県――東京圏に次ぐ大都市圏の中心を担う大阪府と愛知県、および、いわゆる地方4大都市を抱える福岡県、広島県、宮城県、北海道)

6道府県のうち、ダム機能“たりえている”3府県
大阪府 東京圏を中心に転出超過
関西地方を中心に転入超過
全体としては「転入」超過
愛知県 東京圏を中心に転出超過
中部地方を中心に転入超過
全体としては「転入」超過
福岡県 東京圏を中心に転出超過
中国・九州地方を中心に転入超過
全体としては「転入」超過
6道府県のうち、ダム機能“たりえていない”3道県
広島県 東京圏、関西圏を中心に転出超過
全体として「転出」超過
宮城県 東北地方を中心に転入超過
東京圏を中心に転出超過
全体としては「転出」超過
北海道 東京圏を中心に転出超過
全体として「転出」超過

以上、東京一極集中および、地方における都市部への人口集中に関して、その流れをざっと俯瞰して捉えることができる面白いデータと言えるだろう。

「東京一極集中はよくないこと」は正しいのか?

ところで、当記事の冒頭近く、筆者は、当該地方創生にかかわる政策について、「東京一極集中を『是正すべきこと』としたうえで、推し進められてきた」とした。

やや含んだ言い回しになっているが、その理由は当然ながら、東京一極集中を是正すべきものとする考え方について、筆者が若干の疑問を抱いているからにほかならない。

都市には、メリットとデメリットがある。一方は「集積の利益」などと呼ばれ、また一方は「集積の不利益」などと呼ばれる。前者は経済面において、後者は住人の生活面において、その結果が顕著に表われる。

このうち、東京は、前者を最大化することに高い水準で成功し続けてきた街となる。他方、後者を最小化することにおいては、巨大人口を抱える世界都市として、おそらく人類史レベルでの成功をおさめている。(かつての公害を東京は乗り越え、スラムは消え、治安は高度に維持され続けている。残るは通勤の課題程度。なお、巨大災害への懸念を除く)。

なおかつ、これらは、統制が面倒な自由経済・民主体制のなかで実現されている。よって、個人的な感覚論となるが、集積の利益・不利益間におけるギャップ=差益を量る上で、東京は、世界の大都市の中での最高位に評価されるべきもののはずだ。ゆえに、繰り返すが、筆者はいまの東京の状況をよくないものであるとはどうしても感じられずにいるわけだ。

もっとも、東京における集積の利益は、はるか昔にそのピークを過ぎているという意見もある。現実として、東京という機関車が引っ張る日本経済は、ここ20~30年他国に追い抜かれっぱなしではないかという見方だ。十分に成り立つ理屈といっていい。

一方で、東京がどうにか引っ張ってきたからこそ、わが国経済はこのくらいの落ちぶれ方で済んでいるとの見方もある。

どちらも体(てい)としては正論を成していて、この対立にあってはおそらく正解は出てこない。極端な話、それを知るには別の世界線をたどる平行宇宙を見てくる必要があるわけだ。

日本には「二都」がお似合い?

以上、この6月に政府が公表した「地方創生10年の取組と今後の推進方向」と題したレポートについて、その一部を紹介したうえで、東京一極集中に関する筆者の感覚的な見解も添えてみた。

なお、ふわふわしたままの感覚論をもうひとつくっつけると、筆者は、日本においては「二都体制」が、実は、国のかたちにもっとも適合していると思っている。国を代表する拠点都市が2つ、国土に並立するかたちだ。

理由は、くだらない話だ。ひょろ長い国土をもつ、人口の多い国にはこれが合っていると感じるからだ。先進国ではイタリアが該当する。途上国ではベトナムが典型的となる。

現に、わが国にあってはかつてそのような時期も長かった。鎌倉期と江戸期だ。この間、日本はほどよく安定もしていた。国の骨格が太くなり、外患もよく防いでいる。明治国家がフローレスな国土を引き継げたのは、江戸という堅実な時代があったおかげといっていい。

なので、筆者は大阪に期待をしている。「大大阪時代」などというレトロな言葉もあるが、戦前か少なくとも高度成長期の頃までのように(あるいはそれら以上に)大阪は今後復活すべきだと思っている。そのための処方箋はいくつもあるはずだ。

もっとも、そうした試みにあっては、霞が関がそれを決め、東京に後押しされるかたちで進められるのではまるで意味がない。大阪は、自らが力を持たなければならない。獲得したその力によって、日本を動かす権限を奪取していかなければならない。

具体的には、大阪は、それを成しうる数の議席をまずは東京の国会にもつことだ。そのうえで、関西のみならず、西日本全域の世論と票を味方につけ、国家全体のための「二都構想」を推進していく必要がある。

すなわち、東京にあっては、ロンドンやニューヨークやパリ、ソウルやシンガポールだけではない、国内にも強力なライバルがいた方がよいというのが、筆者の意見となる。

なお、この記事で紹介した政府の報告書については、下記リンク先で資料共々ご覧いただける。

内閣府・内閣官房 地方創生10年の取組と今後の推進方向(2024年6月)

(文/朝倉継道)

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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