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約6割に是正指導。サブリース業者等へ、国交省が全国一斉立入検査

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約6割の業者に是正指導

自身の物件をサブリースで運営している賃貸住宅オーナーは、特に注目してほしい内容となる。

先月(5月)、国土交通省が、全国の賃貸住宅管理業者およびサブリース業者へ一斉立入検査を行った結果を公表している。(検査実施期間:2023年6月~24年3月)

対象となったのは179社。うち、106社が是正指導を受けている。割合にして59.2%=ほぼ6割だ。これは、明らかによい数字ではない。なお、延べ指導件数は228件となっている。

以下、国交省のコメントだ。(要約)

  • 一部の業者において法に対する理解不足が見られる結果となった
  • (指導を受けた)106 社全てにおいて是正等がなされたことを確認している
  • 引き続き、立入検査等を通じて適正化に向けた指導等を行っていく

ちなみに、昨年公表された前回分の数字を挙げると以下のとおりとなる。

前回:令和4年度(検査実施期間23年1~2月)
検査対象 97社
是正指導 59社(60.8%)
延べ指導件数 113件

見てのとおり、今回は前回に比べ、検査対象となった業者の数が1.85倍に増えている(97→179社)。そのうえで、指導を受けた割合は、前回、今回ともほぼ同じとなった(約6割)。

一方、述べ指導件数は、業者数の増加割合に対して伸びが大きい残念な結果となっている(113→228件。約2倍)。

目につく「大事な書類を決まりどおりに作れていない」事例

是正指導の内容を見ていこう。以下、全11項目を並べていく。

なお、これらは、国交省の報告書からほぼそのままを抜粋したものだ。役所的な言い回しが若干読みづらいが、オーナーはそれでもじっくりと目を通してほしい。管理会社とやりとりしている書面を参照しながら確認するのもいいだろう。

3つ、用語について補足しておく。

「賃貸住宅管理業者」とあるのは、文字どおり、賃貸住宅の管理さらには仲介や入居者募集等を行う業者となる。いわゆる管理会社だ。

「特定転貸事業者」というのは、いわゆるサブリース業者を指す。さらに「特定賃貸借契約」とは、彼らが行う“サブリース”事業のこととなる。賃貸住宅の所有者であるオーナーから物件を一括借り上げなどのかたちで賃借し(この過程をマスターリースという)、それを入居者に転貸(サブリース)するビジネスだ。

さらに、「法〇〇条」と書かれた「法」とは、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律、略して「賃貸住宅管理業法」のことを指す。

ちなみに、今回検査対象となった179社のうち、賃貸住宅管理業のみを行っている事業者は87社、管理業に加えてサブリースも行う業者は89社、管理業を行っていないサブリース業者は3社となっている。

「今回(令和5年度分)の検査に伴い、是正指導が行われた事項」

  1. 管理受託契約の締結前の書面の交付(重要事項説明)義務違反(法13条関係)
    内容:法定記載事項の記載不備(再委託に関する事項、入居者に対する管理業務の内容および実施方法の周知に関する事項等)など
    件数:26件
  2. 管理受託契約の締結時の書面の交付義務違反(法14条関係)
    内容:法定記載事項の記載不備(委託者への報告に関する事項、入居者に対する管理業務の実施方法および周知に関する事項等)など
    件数:57件
  3. 賃貸住宅管理業者の財産の分別管理義務違反(法16条関係)
    内容:管理業務において受領する家賃等の金銭を管理するための口座を自己の固有財産を管理するための口座と明確に区分していないなど
    件数:2件
  4. 賃貸住宅管理業者の従業者証明書の携帯等義務違反(法17条関係)
    内容:従業員証明書未作成など
    件数:22件
  5. 賃貸住宅管理業者の帳簿の備付け等義務違反(法18条関係)
    内容:事業年度ごとの記載をしていない、法定記載事項の記載不備(管理受託契約を締結した年月日、報酬の額等)など
    件数:37件
  6. 賃貸住宅管理業者の標識の掲示義務違反(法19条関係)
    内容:法定様式の未使用など
    件数:13件
  7. 賃貸住宅管理業者の委託者への定期報告義務違反(法20条関係)
    内容:管理業務報告書の法定記載事項の記載不備(報告の対象となる期間、管理業務の実施状況、入居者からの苦情の発生状況および対応状況)、賃貸人が管理業務報告書の内容を理解したことの確認不足など
    件数:16件
  8. 特定転貸事業者等の誇大広告等の禁止義務違反(法28条関係)
    内容:特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃の額等の賃貸の条件やその変更に関する事項、特定賃貸借契約の解除に関する事項の記載が無い(借地借家法に関する事項の未記載等)など
    件数:7件
  9. 特定賃貸借契約の締結前の書面の交付(重要事項説明)義務違反(法30条関係)
    内容:法定記載事項の記載不備(賃貸住宅の維持保全の実施方法、維持保全に要する費用の分担に関する事項等)など
    件数:7件
  10. 特定賃貸借契約の締結時の書面の交付義務違反(法31条関係)
    内容:法定記載事項の記載不備(維持保全の実施状況の報告に関する事項、転借人に対する維持保全の実施方法の周知に関する事項等)など
    件数:17件
  11. 特定転貸事業者の書類の閲覧義務違反(法32条関係)
    内容:業務状況調書未作成、法定様式の未使用など
    件数:24件

以上のとおり、最も件数の多いのが「2」の「管理受託契約の締結時の書面の交付義務違反」(57件)。次に「5」の「賃貸住宅管理業者の帳簿の備付け等義務違反」(37件)。さらに、「1」の「管理受託契約の締結前の書面の交付(重要事項説明)義務違反」(26件)が3番目となっている。

そこで、注目したいのは、これらいずれにおいても「法定記載事項の記載不備」が指摘されていることだ。

のみならず、この「法定記載事項の記載不備」は、ほかの指導事項でも目立っており、その数、11事項中6つに及ぶ。これらの指導を受けた業者は、要するに「大事な書類を決まりどおりに作れていない」業者というわけだ。

なぜ決まりどおりに書類を作れないのか?

彼ら指導を受けた業者が、書類を決まりどおりに作れていない理由のひとつを推測すると、それらを取り決めている賃貸住宅管理業法が、まだ新しい法律であることが挙げられる。

同法は21年6月に全面施行されたが、その後、まだ日が浅いといえばいえなくもない。一方で、それ以前から長期にわたり、賃貸住宅の管理やサブリースを手がけていた業者にあっては、業法に合わせて書類をリニューアルしたり、業務の手順を見直したりといったアクションをとらずにいるところもおそらく少なくないだろう。

だが、それらは必ずやらなければならない仕事だ。たとえ目の前の収益に結びつかず、些事に見えたとしても、こうしたコンプライアンスを先送りにする体質はやがて事故を生む原因となる。組織が腐る要因ともなる。

法定記載事項の記載不備のみならず、当局の検査が入ればその対象となったうちの(なんと)6割の業者に問題が指摘されるというのは、一業界としてかなり惨めな状況と言っていい。汚名返上のためには、業者個々だけでなく、業界挙げての行動が今より望まれるところだ。

借地借家法がもたらすオーナーの「弱い」立場

上記、是正指導が行われた事項の「8」を再掲しよう。

8.特定転貸事業者等の誇大広告等の禁止義務違反(法28条関係)
内容:特定賃貸借契約の相手方に支払う家賃の額等の賃貸の条件やその変更に関する事項、特定賃貸借契約の解除に関する事項の記載が無い(借地借家法に関する事項の未記載等)など
件数:7件

数は7件と少ないが、これは本来ゼロでなければならない。特定転貸事業者=サブリース業者の「誇大広告等の禁止義務」違反は、それほどに重要な問題だ。

いわゆるサブリース契約では、物件をオーナーから借りる(借りて転貸する)業者に比べ、貸すオーナーの立場は非常に弱い。

なぜなら、業者は、どのような規模の業者であっても、賃貸住宅を借りる以上は「借家人」として、一般個人の入居者同様、借地借家法による強力な権利の保護を受けることになるからだ。

よって、両者の間において「契約を続ける/やめる」「(マスターリースの)家賃を維持する/下げる」といった重要な判断が議論される場面では、業者側は常に主導権をもつことになる。一方、オーナーは常に譲歩を余儀なくされやすい。

そこで、賃貸住宅管理業法では、オーナーを守るため、借地借家法によって生じるオーナーの不利について、業者側がオーナーに開示・説明しない場合は、業法違反となる仕組みを定めるなどしている。

つまり、上記「8」では、そういった説明が広告上正しく行われていなかった事例が、今回の立入検査では多い場合で7件見つかったことが示されているわけだ。(想像だが7件全部がそうである可能性は高い)

これは、繰り返すがあってはならないことだ。

国交省によるこの立入検査は、本年度もおそらく行われ、結果は来年また公表されることになると思われるが、この部分は、次回も変わらず注目される重要なポイントとなる。

今回分の報告書は下記リンク先で確認できる。

賃貸住宅管理業者及び特定転貸事業者への全国一斉立入検査結果(令和5年度)

(文/賃貸幸せラボラトリー)

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賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室

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