下落地区ゼロが4期連続。横ばいも2地区に減少。地価LOOKレポート2023年第3四半期分
朝倉 継道
2023/11/22
下落地区は4四半期連続でゼロ。横ばい地区も4つ減り2地区に
11月17日、国土交通省が令和5年(2023)第3四半期分(7月1日~10月1日)の「地価LOOKレポート」を公表している。上昇地区が前期より4つ増えて全80地区中78地区となった。対して、下落地区ゼロの状態は4期連続で続いている。さらに、横ばい地区は前期から4つ減り、今回はわずか2地区となった。
住宅系地区では、すべてが上昇地区の状態が今期で6期連続となった。つまり1年半に達している。「地価のコロナ禍時代、遠く去った」の感があらためて強い。
なお、地価LOOKレポートの正式名称は「主要都市の高度利用地地価動向報告」という。日本の大都市部地価の動きと方向性を示す国の報告書となる。あらましについては当記事の最後であらためて紹介したい。
まずは、国内「全地区」における前期、前々期からの推移だ。
推移 | 今期 | 前期 | 前々期 |
上昇 | 78地区(97.5%) | 74 | 73 |
横ばい | 2地区(2.5%) | 6 | 7 |
下落 | 0地区(0.0%) | 0 | 0 |
繰り返すが、下落地区は4期連続で0地区=0%となった。参考までに、コロナ禍のピーク時(20年第3四半期)は、同じ数字が45.0%まで伸びていた。
福岡・大濠の数字がやや落ち着く
上昇地区には、率に応じて3つのレベルがある。「上昇(6%以上)」「同(3%以上6%未満)」、「同(0%超3%未満)」だ。
それぞれのレベルにおける、前期からの推移はこうなっている。
推移 | 今期 | 前期 | |
上昇 | (6%以上) | 0地区 | 1 |
(3%以上6%未満) | 3地区 | 1 | |
(0%超3%未満) | 75地区 | 72 |
このとおり、全体の数は4つ増えたが、前期1地区あった「6%以上」が今期は消滅した。当該地区は福岡市中央区の「大濠」(住宅系地区)となる。同地区の直近4四半期分の動きは以下のとおりだ。
22年第4四半期 | 3%以上6%未満 |
23年第1四半期 | 6%以上 |
23年第2四半期 | 6%以上 |
23年第3四半期 | 3%以上6%未満(今期) |
見てのとおり、2四半期続いていた「6%以上」の大幅上昇から、今期は「3%以上6%未満」へ、やや落ち着きを取り戻したかたちとなっている。
不動産鑑定士によるコメントの一部を抜粋、要約しておこう。
「当期も福岡市内で優良マンションの開発が可能なエリアでは、開発用の土地の需給逼迫が続いている。市内で行われた複数の取引でも多くの需要競合が見られた」
「市内有数の優良マンション供給エリアに位置付けられる当地区では、取引価格の上昇傾向は、やや緩やかになったものの続いている」
インバウンドが地価を熱くする東西の2地区
そうしたわけで、今期は上記の「大濠」を含む3地区となった「3%以上6%未満」の上昇地区だが、ほかの2地区の顔ぶれは以下のとおりとなる。
東京都 中央区 銀座中央 | (商業系地区) |
京都市 下京区 京都駅周辺 |
見てのとおり、これら東西2地区にあっては、インバウンド需要回復の影響が特に強いと見られるエリアである点が共通している。
まずは「銀座中央」についての不動産鑑定士のコメントだ。(一部を抜粋、要約)
「国内の富裕層等に加え、アジアや欧米からの外国人観光客による消費が旺盛な状況。特にラグジュアリーブランドや宝飾品、高級時計等の高額商品を扱う百貨店や商業施設の好調ぶりは、新型コロナウイルス感染症の拡大以前を凌ぐ勢い」
次に「京都駅周辺」。(同上)
「入国制限の緩和後は外国人観光客の増加傾向が続いており、周辺ホテルの稼働率の高まりも続いている」
ちなみに、日本政府観光局(JNTO)のつい先日の発表によると(11月15日)、今年10月の「訪日外客数」は推計値で251万6500人。コロナ禍以降、初めて 2019年の同じ月を超えた(19年同月比 プラス0.8%)。なお、1月はマイナス44.3%だった。順次数字を上げてきた結果、ついにプラスとなっている。
年月 | 人数 | 対19年同月比伸率 |
5月 | 1,899,176人 | -31.5% |
6月 | 2,073,441人 | -28.0% |
7月 | 2,320,694人 | -22.4% |
8月 | 2,157,190人 | -14.4% |
9月(推計値) | 2,184,300人 | -3.9% |
10月(推計値) | 2,516,500人 | 0.8% |
いわゆる右肩上がりとなるこのペースが続けば、観光地を中心とする日本各地の地価も、今後さらに影響を受けることになるだろう。
残る横ばい地区「青海・台場」「立川」
さて、以上のとおり、調査対象地区のすべてが間もなく地価上昇地区となりそうな勢いの中、今期「横ばい」に留まっているのは以下の2地区となる。
東京都 江東区 青海・台場 | (商業系地区) |
東京都 立川市 立川 |
場所は、いずれも東京都内。さらにはいずれも東京都心部から見て距離的に、あるいはイメージとして“縁辺”といえるエリアに位置する街となる。
なお、前期はこの2地区のほか、以下の各地区が横ばい地区となっていた。
千代田区 丸の内 | (商業系地区) |
千代田区 有楽町・日比谷 | |
港区 六本木 | |
港区 品川駅東口周辺 |
このとおり、やはりすべてが東京都内のエリアだったが、これらは今期そろって上昇地区となり、いわば離陸を果たしている。残りの「縁辺部」2箇所への今後の波及が気になるところといえるだろう。
ちなみに、青海・台場地区にあっては、プロバスケットボールはじめさまざまなイベントの舞台となる多目的アリーナの建設(25年開業予定)など、新たなプロジェクトが複数発表されている。
地価LOOKレポートとは?
最後に、地価LOOKレポートとは何か? について添えておこう。
国交省が四半期ごとに公表する「地価LOOKレポート」は、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない頻繁な更新をもって、われわれに日本の土地の価値に関わる方向性を指し示してくれるものだ。
特徴としては、地価の動向を表す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは異なり、土地の価格そのものが示されるわけではない。地価のトレンドを調査し、分析する内容の報告書となっている。
全国80の調査対象地区すべてにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントが添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえでよい助けとなるだろう。
留意すべき点として、地価LOOKレポートは全国の主な大都市部の地価にのみ対象を絞っている。正式名称「主要都市の高度利用地地価動向報告」が示すとおりとなる。
以上、当記事で紹介した今期分の地価LOOKレポートは、下記にてご覧いただける。
「令和5年第3四半期分(2023年7月1日~10月1日)地価LOOKレポート」
さらに、途中で数字を挙げた日本政府観光局による今年10月の訪日外客数等のデータについては、下記でご確認いただける。
(文/朝倉継道)
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この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。