管理不全空き家への固定資産税「優遇解除」報道と、14年前の面白いアイデア
朝倉 継道
2023/03/01
風雲急?の空き家対策
この1月後半~末にかけて、「管理不全空き家」という言葉が各メディアの記事を賑わせた。
とりわけ、注目を集めたのは以下の部分だ。
- 全国で増え続ける「空き家」問題への対策のため、国土交通省が新たな方針を固めた
- 管理が不十分な空き家を「管理不全空き家」に指定、行政が改善を指導する
- 改善されない場合、固定資産税の優遇措置(住宅用地特例)の解除を可能とする
上記に加えて、
- 「支援法人」を指定しての空き家所有者に対する相談、助言制度の整備
- 空き家の活用や建て替え等を促すため、市区町村が「活用促進区域」を設定
等、かなり具体的な内容が報道されている。そのうえで、上記「管理不全空き家」については、その指定基準として、
- 住宅の窓が割れていたり、敷地に雑草が生い茂ったりしている状態
が、想定されているとのこと。
なお、以上は国交省が今国会に提出する「空き家対策特別措置法」改正案に盛り込まれるともされていて、話はなにやら風雲急だ。
現在、無人となった実家など、空き家を抱えている人や、将来そうした物件の持ち主となりそうな人など、心のざわめく思いでいる人も少なくないだろう。
公式発表はまだ
もっとも、これらの報道は国交省の正式な発表にもとづくものではない。
管理が不全な空き家の問題に対する今後の対策のあり方については、たしかに国交省の「社会資本整備審議会 住宅宅地分科会 空き家対策小委員会」が、昨年秋より審議・検討を重ねてはいた。
よって、上記報道も基本的には当小委員会関係者への取材に拠るものであるはずだが、最終報告となった2月7日付けの「とりまとめ」には、さほど切迫した言及は見られない。
特に重要なポイントとなる「管理不全空き家に対する固定資産税の優遇措置(住宅用地特例)解除」にあっては、下記のようにさりげなく(?)括弧書きで添えられる程度となっている。
「そのまま放置すれば特定空家等の状態となるおそれのある空き家について、所有者に対し、市区町村が適切な管理を促すことを可能とする仕組みを検討する(固定資産税の住宅用地特例の解除の検討を含む。)」――(とりまとめ本文より抜粋)
従って、国交省側としては、公式には、
「現時点では審議会が意見をとりまとめたまで」
「すべては今後検討」
「報道内容はメディア独自の取材・見解に基づくもの」
と、いったスタンスが現状のはずだ。(2月下旬現在)
が、ともあれ、NHKや全国紙のものも含むこれらの記事を一応信用するならば(するならば、だ)この件に関しては、すぐにでも法案化をスタートさせられるだけの準備がバックヤードでは整っている。
また、記事の中にはこの3月に法改正への閣議決定が予定されている旨、早々と報じるものもあって、話が随分といそがしい。
よって、利害が生じそうな人は、ぜひこれに耳をそばだて、今後を鋭意注視していくべきだろう。
空き家に価値を生ませる「住宅の総量規制」「建物滅失権取引制度」
ところで、この日本の「空き家問題」に対しては、その解決策になりうるひとつとして、ぜひ皆さんに知ってほしい面白いアイデアがある。
筆者のアイデアではない。もっと優れた他人のものだ。ただしあまり知られてはいない。
しかしながら、筆者は以前からこれをとても魅力的に感じている。なので、以下は微力ながらこれを知る人を増やすためのアシストのつもりだ。
そのアイデアとは――、「住宅の総量規制」および、これをより具体化した提案となる「建物滅失権取引制度」というものだ。
両者の基本的な考え方は、野村総合研究所が2009年に発表したレポートの中に見ることができる。「住宅の総量規制」と、題された部分に紹介されている。
要約しよう。
- 空き家率が上昇し、深刻な社会問題となった際の施策として「総住宅戸数の総量規制」が考えられる
- 住宅の新たな建築と、空き家の除去を連動させる制度だ
- 一戸建てを建てるためには、どこかで同数前後の空き家の除去が行われることを原則とする
- 地球温暖化対策のための排出権取引制度などと似た仕組みとなるものだ(キャップ&トレード方式)
- 上記「建築権」(空き家の除去権)を取引きする市場や、権利の清算機関が準備される必要がある
- この制度により、中古住宅は、居住だけでなく除去可能性という「価値」を持つことになる
――最後の部分に筆者は特に惹かれる。巧緻な制度によって0の状態から何らかの価値が生まれる、「人間、してやったり」の瞬間だからだ。
さらに、このアイデアに具体的に肉付けした「建物滅失権取引制度」の提案を2014年に「株式会社リクルート住まいカンパニー 住まい研究所」(当時)が行っている。主な要点を並べてみよう。
- 建築確認申請時に滅失権の確認として閉鎖登記事項証明書を添付させ、照合を行う
- 上記を建築基準法で規定し、地域別の新築住宅に対する滅失権比率は政令で定める。これにより、地域別の需給に応じた調整が可能となる。なお、対象となる滅失権は過去1~2年以内の空き家除却により生じたものに限られる
- 二重取引等、不適正な運用を防止するため、滅失権取引は宅地建物取引業者が行う。宅建業法上の指定機関(レインズのような機関、あるいはレインズそのもの?)が運営する滅失権管理システムに権利を登録させる
- 滅失権売却後の更地に対しては固定資産税優遇措置を継続する。管理システムへの情報登録によりこうした施策も可能となる。
なお、以上の「滅失権」は、当然ながら野村総研案でいう空き家の除去権(新たな住宅の建築権)に相当するものだ。
検討・研究の価値がある提案
いかがだろう。09年の野村総研の提案はいわば基礎であり土台。14年のリクルート住まい研究所の提案によって、そこに骨組みが建ち上がったかたちだ。
だが、その後“工事の現場”はどうなっているのだろう。それっきりの状態だとすれば、筆者の想いとして「もったいない」に尽きる話といえるだろう。
09年、あるいは14年当時、これらを読んで若干心動かされた国交省職員がいたとして、いまはすでに他へ異動したり、公務員ではなくなっていたりする場合も多いはずだ。
しかし一方で、他で政策立案能力を高めたうえで、住宅行政の最前線にふたたび立ち戻っている人材がいる可能性もある。
空き家問題に関し、検討価値、あるいは研究価値のあるものとして、上記「住宅の総量規制」「建物滅失権取引制度」を筆者からはぜひ推薦しておきたい。
なお、記事中紹介した2つのレポートは、それぞれ下記でご覧いただける。
「野村総合研究所『人口減少時代の住宅・土地利用・社会資本管理の問題とその解決に向けて(下)』――植村哲士・宇都正哲・水石仁・榊原渉・安田純子」(知的資産創造2009年10月号)
「『空き家率の推定と滅失権取引制度』――株式会社リクルート住まいカンパニー住まい研究所(現SUUMOリサーチセンター)所長 宗健」(2014年7月)
(文/朝倉継道)
この記事を書いた人
コミュニティみらい研究所 代表
小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。