「動きが遅い不動産管理会社」を”上手く動かす”賢いつきあい方
尾嶋健信
2016/07/06
不動産管理会社の仕事とは?
賃貸経営で失敗しないために、私が最も重要だと考えているのは、ビジネスパートナーである管理会社と仲良くすること。それがなぜ重要なのか、まずは管理会社の存在について説明しましょう。
個人の不動産投資家は、賃貸経営とは別に、「会社員」などの正業に就いているのが一般的です。そのため、賃貸経営用のアパートやマンションを購入しても、その物件のオーナー業をフルタイムでこなすことはできません。そこで、不動産投資家が賃貸経営を始める場合は、不動産管理会社との間で「管理委託契約」を結ぶことになります。
投資家が管理会社に委託する管理業務は、大きく分けて「建物管理」と「賃貸管理」のふたつ。それらを具体的に説明すると、次のようになります。
(1)建物管理
共用部分や敷地内の清掃、植樹の手入れ、共用部の電灯・エレベーターの保守点検など
(2)賃貸管理
入居者の募集、賃料の集金代行、滞納家賃の督促、入居者からのクレーム対応など
投資家と管理会社の間にはギャップがある
不動産投資家であるオーナーは、おおよそ家賃収入の5%程度を支払って、上記のような業務を不動産管理会社に委託するわけです。賃貸物件を経営していくうえで、これらの業務がきわめて重要であることは、皆さんも理解できるはず。つまり、不動産管理会社にしっかり働いてもらわなければ、個人投資家による賃貸経営は成り立ちません。当然、管理会社との間で良好な関係を保つべきです。
ところが、私の見る限り、管理会社との関係が「うまくいっていない」個人投資家が実に多いのです。いったいなぜか。それは、個人投資家と管理会社との間に、さまざまな意味でのギャップが存在するからです。
管理会社の多くは「空室」に対する反応が鈍い
アパート・マンションのオーナーには、いわゆる地主系大家(地主)と投資家系大家(不動産投資家)がいます。近年の不動産投資ブームで投資家系大家の数は増えていますが、まだまだ地主系大家の数にはかないません。
不動産管理会社が管理しているアパート・マンションの多くは、オーナーが地主さんです。私の感覚では、賃貸物件全体の9割以上は、オーナーが地主さんではないでしょうか。
地主さんは文字通り「土地の所有者」であり、もともと持っていた土地に、相続対策や節税対策でアパート・マンションを建てるケースがほとんど。そのため、当初から「賃貸経営で儲けよう」とは思っていないし、アパートに空室が出ても、特に危機感を抱くようなことはありません。
地主さんは、アパート経営を「細く長く」続けていければいいと考えています。そのため、焦って“変な人”に入居してもらうよりは、時間がかかってもいいから、“末永くつきあっていける人”に入居してもらいたいと考えます。
こうした地主さんの考え方は、物件を管理している不動産管理会社にも当然反映されます。つまり、普段から地主さんとのつきあいが多い管理会社は、賃貸物件に空室が出ても、すぐには危機感を抱きません。「空室」に対する反応が鈍いため、おそらく、ただちに空室対策に取りかかるケースは少ないでしょう。
「空室」に神経を尖らせる不動産投資家
一方、投資家系大家、すなわち不動産投資家の意識は、地主さんとは大きく違っています。投資家は、賃貸物件の土地も建物も、銀行ローンという借金で購入しているケースがほとんど。毎月の返済額も大きいですから、家賃収入も毎月きちんと受け取りたいと考えます。1室でも空室が出れば、収支が赤字になる可能性もあります。そのため、不動産投資家は空室に対して神経をとがらせており、空室は一刻も早く埋めたいと考えます。
「空室」に対して、管理会社は反応が鈍く、不動産投資家は反応が過敏。この「空室」に対する危機感の違いが、不動産投資家と管理会社の間で生じる、最初のギャップといえます。
投資家側は管理会社に、「一刻も早く空室を埋めてほしい」「そのために募集広告を打つなど、迅速に行動すべきだ」と期待しますが、危機感の薄い管理会社側はなかなか動いてくれません。すると、投資家側は管理会社に対して、一方的に不満を募らせます。「管理委託費を毎月払っているのに、一体何をやっているんだ!」と。
そこで投資家側は、管理会社側に空室対策を促すわけですが、このとき、さらなるコミュニケーションギャップが生まれます。というのも、両者の間には、情報リテラシーにおいてもギャップがあるからです。
不動産投資家は一般的に、一流大学を出て大手企業に就職した、いわゆる「属性のよい」人たち。職種はホワイトカラーであり、パソコンやインターネットの使いこなしなど、情報リテラシーにも通じています。一方、管理会社の人たちは投資家たちほど属性が良いわけではなく、基本的にブルーカラー。情報リテラシーにも通じていません。
管理会社から嫌われてしまったふたつのケース
私の知っている事例をお話ししましょう。
一流商社マンの投資家さんが、管理会社の担当者に、所有するマンションの空室対策をメールでお願いしました。ところが、メールに対する返信が2日経っても返ってきません。
そこで、投資家さんは「自分のメールは届いているか」を問いただすメールを再度送りました。すると、担当者からすぐに返事の電話があったので、投資家さんは怒ってこう言いました。「私のメールには、メールで返信してほしい。仕事が忙しい時間帯に電話をかけてくるのは迷惑である」と。
それ以降、管理会社の担当者はすっかり萎縮してしまい、自分から投資家さんに連絡することは一切なくなりました。
また、個人事業を営む別の投資家さんは、空室が2カ月間埋まらなかったことにいらだち、管理会社に、「なぜ空室が埋まらなかったのか、問い合わせ数と内覧者数のデータも含め、レポートを書いて提出せよ」と求めました。
しかし管理会社側は、そんなレポートを書いた経験はないし、そもそも、たった1室の空室にそこまで労力をかけていられません。
どちらのケースでも、投資家さんは管理会社側からすっかり嫌われてしまいました。その結果、その後の管理業務もすっかりおざなりになってしまったようです。
パートナーとして同じ目線で行動する
管理会社との関係を悪化させるのは、投資家サイドにとって、大きなマイナスになります。賃貸経営で失敗しないためには、何よりも管理会社との関係を良好に保つことが大切です。管理会社の実情を理解したうえで、管理会社に対しては、「金を払って管理させている」という「上から目線」で接するのではなく、「共に成功を目指す」ビジネスパートナーとして、同じ目線で行動することが求められるでしょう。
管理会社側が、投資家を「味方」だと思ってくれれば、日常の管理業務もしっかりやってくれるはず。また、投資家=オーナーに対して何でも言いやすい関係が築ければ、「●●が傷んできたので、早めに補修したほうがいいですよ」「魅力ある物件にするため、空室に●●を設置しましょう」など、多くの有益な提案もしてくれるようになるのです。
この記事を書いた人
満室経営株式会社 代表取締役
1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。