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「事故物件ロンダリング」が行なわれることも

事故物件の告知義務ルールを悪用したケースに要注意!

尾嶋健信尾嶋健信

2016/05/25

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非常にあいまいな告知義務のルール

宅地建物取引業法(宅建業法)の規定により、宅地建物取引業者は売り主(借り主)に対して、重要事項の告知義務があります。ですから、前回お伝えしたように、不動産業者が事故物件を販売・賃貸する場合、本来であれば、事故物件であることを買い主(借り主)に告知しなければなりません。

「その物件で過去に人が異状死した」という事実は、過去の判例においても心理的瑕疵と認定されていますから、宅建業者としては当然、重要事項として売り主(借り主)に告知しなければなりません。

とはいえ、人が亡くなった事故や事件について、「過去」にどのくらいまでさかのぼって告知すればいいのか、明確なガイドラインは決まっていません。また、どこからどこまでを「異状死」と見なすかについても、明確な線引きがあるわけではありません。

どこからが「異状死」に当たるのか

ここまでは、前回お話した通りです。では、たとえば、どこまでを異状死と見るかについてですが…。

仮に、あるアパートの一室で、持病のあるお年寄りが孤独死して、それを3日後にホームヘルパーが発見したとしましょう。こうした場合であれば、おそらく異状死とは扱われません。法医学的にはさておき、不動産業界的には、あくまでも病死(自然死)と見なされ、この件に関する告知義務はないと判断されるはずです。

不動産業界で長年生きてきた私の感覚でいえば、死後1週間から10日以内に発見された老人の孤独死は、おそらく異状死とは見なされないはず。死後2週間以上経っていて、しかも死体が腐乱していたり、ミイラ化していたりしたときにはじめて、その部屋は「事故物件」と呼ばれるのです。

マンションのある部屋の住人が室内で首を吊って自殺した場合、その部屋はもちろん、事故物件になります。しかし、そのマンション全体については、事故物件とは見なされません。また、地上8階の部屋から住人が投身自殺した場合、その部屋を事故物件として扱うかどうかは、業者によって対応が異なります。

もちろん、宅建業法の建前からいえば、買い主や借り主にきちんと告知するべきでしょう。しかし、「その部屋で人が死んだわけではないから」と、あえて口をつぐんでしまう業者がいるのも事実です。

さらにいえば、その人がその部屋から直接飛び降りたのではなく、屋上まで上がってから飛び降りたのだとのだすれば、自殺の事実を告知する業者はずっと少なくなるような気がします。そもそも、マンション共用部分については告知義務がないとの意見もあります。

事故物件に対する告知義務をどう判断するかは、このようにグレーゾーンがきわめて大きいのです。

事故物件もロンダリングされる?

過去どれくらいまでさかのぼるかについても、明確な基準があるわけではありません。判例では、6年前の縊死自殺や7年前の服毒自殺が「嫌悪すべき事項」として心理的瑕疵に認定されたケースがあります。

業界内では、賃貸については事件事故から3年間、売買については5年間の告知義務がある、ともいわれていますが、その根拠がどこにあるのか、不明確なままです。

悪質な不動産業者の場合、事故物件の告知義務を解除するために、マネーロンダリングならぬ「介在者ロンダリング」なる手法を行なうこともあるようです。

これは、「事件事故があった物件に別の買い主・借り主が一定期間住んだ後であれば、心理的嫌悪感も薄まる」という考え方が前提にあります。実際、そのように言及した過去の判例もあったようです。そこから、「事件事故の告知義務があるのはひとり目の入居者までで、ふたり目からは事故歴を告知しなくていい」と考える業者が出てきたのでしょう。

事故物件は、不動産業者にとって頭痛のタネです。通常は、事故物件になんて誰も住みたくありませんから、買い主・借り主を見つけるためには、売価や賃料を大幅に下げざるを得ません。

しかし、その物件の名義を一時的に社員や知人に置き換えたり、賃貸であれば短期間でも社員のひとりにでも入居させたりしてしまえば、次の買い主・借り主には、事故歴を告知する義務がなくなり、相場の価格で物件を扱えるようになると考える業者がいるのです。自分は絶対にふたり目の買い主、借り主になりたくありませんが…。

考えてみれば、わが国では毎年3万人前後が自殺しています。もちろん、すべてが室内で起こるわけではありませんが、それだけ事故物件が毎年増えていっているわけですね。

不動産投資市場には、利益の上がらないババ物件だけでなく、アブナい事故物件も数多く出回っています。事故物件には告知義務があるとはいえ、これから不動産投資を始めようという人は、インターネットの「事故物件検索サイト」をチェックするなどして、事故物件に関するアンテナをしっかり張っておいてほうがよさそうです。

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この記事を書いた人

満室経営株式会社 代表取締役

1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。

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