客付けがむずかしい戸建投資、その最大のメリットとは?
尾嶋健信
2016/04/13
不動産投資の6つのパターン
前回もお伝えしたように、不動産投資の手法を投資物件別に分類すると、(1)区分マンション投資、(2)戸建投資、(3)地方高利回りアパート投資、(4)RCマンション投資、(5)新築アパート投資、(6)競売物件投資の6パターンがあります。
これらのうち、区分マンション投資については、前回お話ししました。そこで今回は、(2)戸建投資についてお話ししましょう。不動産投資を行なう場合、戸建に投資するとどんなメリットがあって、どんなデメリットがあるのでしょうか。
これからサイドビジネスを始めたいと考えている方も、あるいは一般教養としての財テクについて知りたい方も、不動産投資の基礎の基礎としてお読みいただければと思います。
リフォーム工事に要注意
戸建投資とはその名のとおり、一戸建て住宅を活用した不動産投資のこと。一般的には、戸建物件を購入し、その物件を賃貸経営することで利益を上げる手法を指します。戸建には新築と中古がありますが、不動産投資の場合、中古の戸建を使うケースが圧倒的に多いようです。
まず、戸建住宅を不動産投資物件として見た場合のデメリットからご説明しましょう。
先ほど述べたとおり、不動産投資では中古の戸建住宅を使うケースが多いのですが、中古住宅を借家人に貸すためには、必ずといっていいほど、リフォーム工事が必要になります。そのリフォーム工事が、実は適切に行なわれていない場合が多いのです。
たとえば、ここに1軒の中古戸建住宅が、不動産投資物件として売り出されているとしましょう。その物件はリフォームしたばかりで、写真を見ても、現物の外観・内観を見ても、新築かと見間違えるほど美しくぴっかぴかに仕上がっています。
「これだけきれいなら、すぐに借り手がつくはずだ」と、物件購入へと心が動き始めたアナタ。しかし、ちょっと待ってください。見た目がいくら新築同然にぴかぴかだったとしても、実は上っ面だけの中途半端なリフォーム工事しか施工されていないケースも少なくないのです。
自腹で補修を行なわなければならない場合も
中古戸建の投資物件でよく耳にするトラブルが、購入後にシロアリ被害が発生した、というもの。あるいは、購入後数カ月で家自体が傾き始めたという事例もあります。
いずれの場合も、その中古住宅は土台や柱などの基礎構造部分に重大な欠陥があったわけですね。ところが、外見をきれいにリフォームされてしまうと、基礎部分に欠陥があっても、素人には見抜けません。しかも、そういった物件には、瑕疵担保責任が保障されていない場合が多いのです。
瑕疵担保責任とは、不動産売買などの有償契約で、売買された物件に後から瑕疵(欠陥)が見つかった場合、売り主側の責任で補修や賠償を行なうという担保責任のこと。
通常の不動産売買契約では、この瑕疵担保責任が「2年間」など期間を限定して設定されています(瑕疵担保特約といいます)。しかし、中古住宅が売買される場合、オーナー側が面倒くさがって、この瑕疵担保責任を契約書に明記していないケースが多いのです。
そうなると、中古住宅購入後に不具合が見つかった場合、購入者がすべて自腹で補修・改修を行なわなければならなくなります。
このように、中古の一戸建て住宅は、建物の状態を見極めるのが一般の人にはむずかしく、思わぬババ物件(買ってはいけない物件)をつかまされるおそれがあります。これが戸建投資の大きなリスクであり、デメリットでもあります。戸建投資をする場合は、少なくとも瑕疵担保責任のついた物件を購入すべきでしょう。
戸建の賃貸物件は客付けに苦労する
不動産投資で戸建住宅に投資する際のデメリットのふたつ目は、賃貸経営する場合、客付けに苦労するということ。つまり、借り手がなかなか見つからない、といった状況に陥りがちです。
集合住宅(アパート・マンションなど)と戸建住宅の立地を比較すると、戸建住宅のほうが相対的に、最寄り駅から遠くに建てられています。戸建住宅は、建物面積の割に広い敷地面積が必要になるため、地価の高い鉄道駅周辺の地域には建てにくいのです。
一方、集合住宅は建物面積のわりに敷地面積が小さくて済むため、容積率が高ければ高いほど、地価の高い鉄道駅周辺にも建てやすくなります。
つまり、戸建住宅の多くは、アパート・マンションのように「交通至便」というわけにはいきません。販売価格が安ければ安いほど、最寄り駅から遠くなる傾向にあり、なかには最寄り駅まではバスを使わなければ出られない物件も少なくありません。
こうした戸建物件で賃貸経営を行なおうという場合には、駅からの遠さが大きなネックになります。都市生活者の多くは都心部に通勤していますから、交通に不便な物件ほど、入居者を見つけにくくなるわけです。
不動産投資用の賃貸物件は通常、地元の不動産会社に管理・運営を委託するケースが多いもの。しかし、中古の戸建物件1軒のために、地元の不動産会社がわざわざ入居者探しに動いてくれるとは思えません。入居者探しは結局、オーナー自らが広告を打つなどして、動いていかざるを得ません。
購入後、客付けに多大な労力がかかるのが戸建投資のデメリット。そして、入居者ゼロの状態が長引けば長引くほど、賃貸経営は破綻のリスクが高まるのです。
このように、戸建物件は家の状態の見極めがむずかしいだけでなく、入居者探しに苦労するという、大きなデメリットがあるのです。
メリットは長期間、安定収入が得られること
しかし、「客付けしにくい」というデメリットは、その反面として、「客離れしにくい」というメリットをもっています。具体的にいうと、駅から離れた戸建賃貸物件に入居した人は、5年・10年という長いスパンで住み続けてくれる確率が高いのです。
駅から離れた戸建賃貸物件を「住まい」に選ぶのは、どんな人たちでしょうか。それは、おそらくファミリー層か熟年層です。なぜなら、そういった物件を選んだ時点で、「通勤の利便性」より「家賃の安さ」「家の広さ」や「学校・病院・公園などの住環境」を重視した人たちだとわかるからです。
ファミリー層や熟年層は、地域コミュニティーと強い関係性を持つのが一般的です。たとえば、子どもの幼稚園や小・中学校の学区だったり、習い事だったり、ママ友や子ども同士の友人関係だったり。熟年層であれば、かかりつけの医者との関係性も重要でしょう。
そして、そういった結びつきが強くなるほど、その家族はその地域から引っ越しにくくなります。戸建物件のオーナーから見れば、長期にわたって家賃を安定して収め続けてくれる、優良借家人になる可能性が高いのです。
「賃貸経営」として見ると、この戸建投資は都心部ワンルームマンション投資と、ちょうど真逆の関係になります。都心部のワンルームマンションの場合、入居者はすぐに決まります。これは大きなメリット。ただし、たいてい2年以内に退去していきます。入居者の回転率が高いのです。
この回転率の高さは、賃貸経営としては実はマイナスです。なぜなら、入居者が退去するたびに、修繕費や広告宣伝費などの経費がかさむから。回転率が高すぎると、いくら家賃収入があっても利益が出にくくなります。
一方、戸建投資では、入居者が決まるまでには時間がかかるものの、一度入居してしまうと、収入MAXの状態が長期間続きます。その間、修繕費や広告宣伝費もまず発生しません。これが戸建投資の大きなメリットといえるでしょう。
この記事を書いた人
満室経営株式会社 代表取締役
1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。