購入から売却まで不動産投資がトータルで儲かるかを分析する方法
大倉修治
2016/03/10
投資期間全体を通した投資分析を行なってみよう
前回お話ししました「NOI利回り」(*)は、将来の賃料収入や運営費の変動、売却時の収支の状況などの要素は反映されていません。今回はそれらの要素を加味した投資期間全体を通じての投資分析の方法についてご説明します。
(*)NOI利回り:実質利回り。
お金の“現在の価値”を考える
購入時から売却時までといった「一定の投資期間」を基準に投資分析をする際には、お金の時間的な価値の違いを考慮する必要があります。
たとえば、「いますぐに受け取れる100万円」と「10年後に受け取れる101万円」どちらを希望するかと問われたらどう答えるでしょうか? 多くの人は「今すぐ受け取れる100万円」と回答するでしょう。
100万円をいますぐ受け取り、それを仮に年率0.5パーセントでしか運用できなかったとしても、10年後には約105万円残ります。時間の経過によってお金の価値は増減するということです。そこで、「将来得られる収益(価値)」を評価する上では、「現在の価値」に割り引くといった作業を行なう必要があります。
正味現在価値(NPV)と内部収益率(IPR)による投資分析
具体的なシミュレーション例を見ていきましょう。
たとえば、総投資額は3200万円(物件価格3000万円+物件購入時の諸費用200万円)、自己資金800万円(物件価格×20パーセント+物件購入時の諸費用)、残り2400万円は金融機関から借り入れ金利2.0パーセント、返済期間は30年として借り入れを行なうことで収益不動産(投資物件)を購入します。
満室時の賃料収入は240万円、運営費は48万円(便宜的に賃料収入の20パーセントと設定)として試算すると、NOIは192万円。NOIから年間のローン返済額約106万円を差し引くと、税引き前のキャッシュフローは約86万円となります。
この収益不動産を6年間保有し、6年後に売却するという前提でシミュレーションしたのが以下の図表です。
図表のキャッシュフローの数値は1年目と2年目は満室想定、3年目~6年目については、稼働率を90パーセントとした税引き前のキャッシュフローの額としています。また、6年目は、売却時に手元に残るキャッシュ(売却価格からローンの残債と売却時の諸費用を差し引いた金額)を640万円として試算しています。
複利現価率とは、「将来の価値」を「現在の価値」に割り引く際の率(割引率)のことをいいます。ここでは、便宜的に5パーセントと設定しました。なお、複利現価率は、投資家が自己資金を運用する際に期待する利回りぐらいに捉えておくとよいでしょう。税引き前のキャッシュフローに複利現価率を乗じて計算したのが、将来の価値から割り引いた「現在の価値」です。
以上の前提の結果、シミュレーション上、投資することで得たキャッシュを現在の価値に割り引いた額の合計が約802万円となりました。入ってくるキャッシュの現在価値の合計802万円に対して、出ていくキャッシュの現在価値は、初年度の自己資金の800万円ということです。
「入ってくるキャッシュの現在価値の合計」から「出ていくキャッシュの現在価値」を差し引いた金額のことを、「正味現在価値(NPV)」といいます。ちなみに、シミュレーションの結果、「NPV」がプラス(NPV≧0)であれば、投資する価値があるとみなされ(投資適格)、マイナス(NPV<0)であれば投資不適格となります。この例では、NPVがプラス2万円となるため投資適格ということです。
内部収益率(IRR)を見ると何がわかるのか
以上のような分析において、投資家が知りたいのが、NPVが0になる割引率です。これは言い換えると、投資の全期間を通したキャッシュの出入りをふまえて、最初に投入した自己資金がどの程度の効率(≒収益率)で運用できたかを意味します。
このNPVが0になる割引率のことを内部収益率(IRR)といいます。IRRは、ほかの投資との比較においても有効です。エクセルなどの表計算ソフトで「IRR」という関数を用いれば、簡単に計算できます。ちなみに、この事例では、図表の初年度から6年目までのキャッシュフローの部分を範囲指定してIRR関数を入力すると5.1パーセントという数値が導き出されます。
なお、IRRは、投資の収益性を測るには適していますが、投資に係るリスクについては考慮されていない点には留意する必要があります。上記の例のようにローンを活用して投資を行なう場合は、ローン返済の安全性についても合わせて検証するとよいでしょう。
この記事を書いた人
CFP、1級ファイナンシャルプラニンング技能士
DCマイスター、宅地建物取引士 1972年生まれ。立教大学卒業。学生時代はラグビー部に所属。 大手住宅メーカー、 住宅・マンションディベロッパー、外資系生命保険会社を経る過程で、お客様にとって「偏りのない納得性の高いアドバイス」を提供したいという思いから、20世紀末より、ファイナンシャルプランナー(FP)としての業務を始める。