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「◯◯年一括借上げシステム」のワナ

賃貸経営のプロ、大手不動産管理会社の手口とは?

尾嶋健信尾嶋健信

2016/01/20

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駅から20〜30分の空き地を探せ!

 今回は、不動産投資のプロである、不動産賃貸大手A社とB社のビジネス手法についてご紹介しましょう。

 A社はマンスリーマンションの草分け的存在で、B社は土地建物の35年一括借上げによる賃貸経営受託システムが有名。どちらもテレビCMを頻繁に流しているので、皆さんもどこかで社名を聞いたことがあるはず。

 この2社のおもなビジネスは、土地のオーナーである地主さんと交渉して、賃貸マンションや賃貸アパートを建設し、入居者や仲介業者とのコンタクトを含め、そのマンションやアパートを管理すること。マンション建設による工事費と、マンションの運営管理による管理費が彼らの収入源ですが、実態としてはかなりエグいことをやっております。

 彼らの賃貸経営ビジネスは、営業マンが歩いて土地探しをするところから始まります。狙いは東京郊外や大都市近郊に土地を持つ地主さん。それも、鉄道の駅から徒歩20分以上かかる、交通の便の悪い土地の地主さんを探すのです。

 なぜ、駅から遠い土地の地主さんをわざわざ探すのか。なぜなら、駅徒歩10分圏内の好立地には、すでに多くの賃貸物件が建てられているから。条件のよい土地を持つ地主さんは、すでに地域No1の不動産会社や工務店との関係ができ上がっていて、そこに新参者(=大手不動産会社)の入り込む余地はありません。

 A社、B社が狙っているのは、まだどの不動産会社も目をつけていない、未開の地。駅から多少遠くても気にしません。大手不動産会社のブランド力と広告宣伝力があれば、入居者はいくらでも集められるのですから。問題は、人口が密集する都市部近郊で、マンションやアパートを建てられるだけの土地がまだ見つかるかどうか。要するに、空いた土地させあればいい。そこで、どの不動産屋からも声を掛けられたことがなさそうな、不便なエリアに空き地を持つ地主さんがターゲットになるのです。

契約のためなら海外旅行の接待も

 A社、B社の営業マンは、駅から20〜30分離れたエリアで空き地とその地主さんを見つけたとしても、すぐにビジネスの話をしたりしません。「自分はこの地域を新たに担当することになった営業マンです」と名乗り、贈答品を手に何度も足繁く訪問して、地主さんとの信頼関係を築いていきます。

「遊んでいる土地に賃貸マンションを建てませんか?」と営業マンが切り出すのは、地主さんとの間に強固な信頼関係を築いてから。

 地主さん側からすれば、もともと先祖伝来持っていた土地だし、いまさらその土地で一儲けしようなんて色気は持っていませんでした。そこへ、降って湧いたようなおいしい話。賃貸マンションを建てれば毎月家賃という安定収入が見込めるし、それが節税対策になるなら一石二鳥。なにより、日頃よくしてくれる営業の○○さんがそこまでいってくれるのであれば、賃貸マンションのオーナーになるのも悪くないかな……と考えるようです。

 A社の場合は、さらに裏ワザがあります。自社が海外に所有する保養所に、これは! と見込んだ地主さんをアゴアシつきで招待するのです。この接待を断らずに受けてしまった地主さんは、営業マンに対する義理人情から、ほぼ間違いなく、工事請負契約書にサインすることになるでしょう。

 A社からすれば、この地主さん接待にかかる経費は数十万円程度。たったそれだけの出費で、場合によっては賃貸マンションが2棟、3棟と建てられるのですから、こんなにおいしい話はありません。

一括借上げシステムのワナ

 一方、B社が早くから、新規オーナー獲得の切り札として使ってきたのが、一定期間の家賃収入を保証する「35年一括借上げシステム」。「たとえ空室が出ても一銭も損をしないのであれば…」と、このシステムを全面的に信用して契約書にサインする地主さんが少なくありません。

 ところが、B社をはじめ、いまや不動産賃貸大手各社が採用しているこの「一括借上げシステム」には、実は盲点があります。

 それは、保証賃料の固定期間が、かならずしも借上げ期間と一致しないこと。たとえ「35年一括借上げ」を謳っていたにしても、契約書をよく読むと、保証賃料の固定期間は実は10年であり、「その後は2年ごとに保証賃料の金額を見直す」と書かれてあったりします。この場合、家賃収入が全額保証されるのは最初の10年のみ。つまり11年目からは、不動産賃貸会社側の都合で、保証金額が大きく減額される可能性もあるわけです。

 たとえば、ある賃貸大手の契約書には、「2年ごとの契約更新時には、そのときの入居状況に応じて保証賃料は見直す」と書かれています。これは、契約更新時にそのマンションの入居率が低ければ、保証賃料が下がることを意味します。つまり、この条文のおかげで、賃貸会社側は契約更新時にわざと空室を埋めないなどの措置を取ることで、保証賃料を意図的に下げることができるわけです。

 地主さん側からすれば当然、「そんなの、契約のときに聞いてないよ!」となりますね。というわけで、A社、B社を相手取っての訴訟騒ぎが全国で多発しています。ニュースにはあまり取り上げられませんが、全国の地主さんはくれぐれもご注意を。

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この記事を書いた人

満室経営株式会社 代表取締役

1970年、神奈川県逗子市生まれ。青山学院大学経営学部卒業。 大学卒業後、カメラマン修行を経て、実家の写真館を継ぐ。その後、不動産管理会社に勤務。試行錯誤の末、独自の空室対策のノウハウを確立する。 2014年時点で、500人以上の大家さんと4000戸以上の空室を埋めた実績を持つ。著書に「満室革命プログラム」(ソフトバンククリエイティブ)、「満室スターNO1養成講座」(税務経理協会)がある。 現在、「月刊満室経営新聞(一般社団法人 日本賃貸経営業協会)、「賃貸ライフ(株式会社 ビジネスプレス出版社)」にコラム連載中。 大前研一BTT大学不動産投資講座講師。

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