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「空き家対策と今後の不動産業界について」公益社団法人全日本不動産協会理事 南村忠敬氏のスペシャルインタビュー

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近年、空き家問題に関する話題を目にする機会が増えている。日本では今後さらに高齢化社会が進行し、全国のいたるところで相続が発生することが予測されるが、実家などの建物に居住者が不在のまま放置されているケースが一定数ある。こういった現状を踏まえ、2022年10月下旬に国土交通省が空き家の対策強化に向けた専門家会議を開催するなど、空き家問題は日本の喫緊の課題であると言えるだろう。公益社団法人全日本不動産協会の理事も務める南村忠敬氏に空き家対策と今後の不動産業界についてインタビューを行った。(取材・文/嶋田 尚子)


質問:行政と不動産事業者及びリフォーム事業者との連携について今後の展望や現場ならではのご意見はありますか?

私の地元兵庫県における空き家対策の窓口は二つに分かれております。県が行っている空き家政策と、政令指定都市である神戸市独自の政策があります。
全国的には、兵庫県と同様の政策を、それぞれの市町の方で受けて空き家対策をしているケースが多いと思います。空き家バンクの設営と運営などが、各市町村がやっていることですよね。
しかし、我々のような事業者からみると、空き家バンクには色々問題があると思います。 殆どが事業者が介在せずに、物件の所有者が直接担当市町の窓口に申請し、そのまま物件を空き家バンクHPに載せるということになります。

それを地方公共団体や委託先のNPOなどが運営する流れになっているのですが、なにが問題かと言うと、掲載した物件の所有者と、「買いたい人・借りたい人」が直接やり取りするのではなく、掲載物件に反響があってから、「仲介」という形で空き家バンクに登録している地元の事業者を間に入れるわけです。そうすると、事業者は現場も見ていないので、本当に取り扱いのできる物件なのかを調査することから始めなければならず、事業者の手によって一般的に流通しているものは、売り物件であっても貸し物件であっても、必要な調査を行った上で、必要であればリフォームや修繕など、ある程度手を加えてから広告に掲載するケースも多く、空き家バンクの場合と明らかに商品としての状態が異なるわけです。内覧の申込みが入ってから、はじめて業者が入り、物件を実際に確認してびっくりすることがあります。

我々不動産業者は成功報酬ですので、契約に至らなければ収支はマイナスですから、このような仕組みで運営されている空き家バンクの掲載物件を流通させることは、現実的には難しいところです。一方の神戸市は独自の政策よって空き家対策を実施しています。神戸市の外郭団体である一般財団法人神戸住環境整備公社(旧神戸市住宅供給公社)が運営する“すまいるネット”が、空き家の専門相談を受け付けています。

そこに寄せられる相談内容も、難しい物件が多いですね。地元の不動産会社に行って、そのままでは取り扱えないと言われたものなどが上がってくるわけですから。
神戸市は、地形的にも坂道が多く、斜面地の住宅街も多いので、再建築不可など問題がある物件も多いです。神戸市は海と山に囲まれている地形で、面積の半分以上が山ですからね……。

私たちは、常に神戸市やすまいるネットとディスカッションを重ねながら、空き家対策を前進させています。所属協会を通じて、会員宅建業者の中から専門相談員を選定し、空き家等の相談に対応しています。今年秋の時点で空き家等に関する相談件数は、1000件近くあるのではないでしょうか。そのうち専門相談に回ってくるのが4割程度ですね。
全国の地方自治体で行われている一般的な空き家相談は、相談にアドバイスをするだけが主ですが、神戸市が行っている空き家等専門相談は、最後の出口までお世話しますので、根本的な解決に繋がる確率は上がりますね。また、窓口が行政なので、不動産について詳しくない所有者の方も、安心されて相談に来られます。



空き家のイメージ


質問:居住支援について現場の声やご意見をお伺いできますか。

例えば、住宅要配慮者の中でも高齢の方が住まいを借りたいと思ったときに、不動産会社が相手をしてくれなかったりします。そんな時に、居住支援法人に登録している事業者の方が、一緒に不動産会社に付き添って行ってあげたりするのは、高齢の方や他の要配慮者の方にとってもいいと思いますね。高齢の方でしたら不動産会社への送迎だけでも大変助かることだと思います。
また、知らない不動産業者と話すわけですから、そういう観点からも1人で来られることが非常に難しい方が結構います。サポートの方とお越しいただければ、私たち業者も話し易いですし、安心です。また、居住支援法人の方であれば、要配慮者の方に住まいが見つかるまでサポートしてくれます。いい制度だと思いますので、もっと活動をアピールして欲しいと考えます。


質問:不動産業界全体の展望について。

業界全体では新型コロナウイルス感染症抜きでは話はできないかもしれませんね。 コロナ以降、不動産の市場も変わりました。
国の政策の見直しは、ある程度既存の税制や法律をその都度見直しながら、こうしたら業界のためになるのではないか、一般消費者の利益があるのではないかと国が考えてくれていると思います。新しい法律の制定というより、特別措置法なんかがそうですね。
最近大きな法律改正の動きがありました。所有者のわからない空き家や空き地の調査ですが、宅建業者はせいぜい法務局で謄本を調べるか、固定資産税の台帳を閲覧する程度しかできなかったのです。今では固定資産税課税台帳も所有者の委任状が無ければ出来ません。
閉鎖の住民票などは、個人情報の関係で取れなくなっています。しかし、行政は固定資産税を徴収する権限があるので、所有者が亡くなっていても、一定の相続人情報を掴んでいます。それを開示して欲しいという陳情に応えたような形で、三年ほど前に改正され、我々不動産業者でも、請求に公共の利益に与する理由があり、相続人の承諾があれば情報を開示してもらえます。しかし、承諾を得られなければ一切教えてもらえません。ですので、結果的には今までとほとんど変わらないですね……。

所有者不明土地の何が問題かというと、近隣の方々が土地や家を売却するときに、境界確定などで話が進まないという問題があります。その為、所有者不明土地に接する不動産は、一般的に敬遠されますね。その結果、処分できずに放置されていくと建物などは老朽化しますよね。放置空き家も法律で行政代執行が積極的にできるようになりましたが、しかしこれは最後の手段です。法律上手続きが簡素化されて、以前よりはやりやすくなりましたが、行政はそもそも民間とのトラブルを起こしたくないので、なかなか行政代執行まではいかないですね。

ゴミ屋敷の問題をみていてもわかるように、あそこまでひどくなって、それこそ警察沙汰にならないと動けないっていうスタイルですね。空き家問題に関しても、同じようなことが起こっています。それを改善していくために、少し遠回りの法案なのですが“相続登記の義務化”が2024年4月から施行されます。不動産の所有者に相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をしなければならなくなりました。この法改正により所有者不明の空き家・空き地を少なくしていこうということですね。

もう一つ、条件付きにはなりますが“相続土地の国庫帰属法”というものも2023年4月までに開始されます。『不動産登記の義務化』『相続登記の国庫帰属制度』こういう法改正が空き家対策になっていくのではないでしょうか。
(※法務省ホームページ引用 https://www.moj.go.jp/content/001375975.pdf

これからの日本は、外国人労働者の受け入れと共生が必要不可欠になってくると思います。
特殊な業種もそうですが、一般的な職種もこれからは外国人労働者が増えていくと思うので、空き家も外国人に活用してもらえるような仕組みが出来ればいいですよね。
街中の空き家ではなく、日本らしい古い家屋だったり、農村の住宅だったり、外国人が気に入るような日本の原風景に溶け込むような空き家、それらを利活用できればよいのですが、法律の壁が出てきてしまう。

これからの不動産業界では、当たり前に土地が売れるとか、郊外の建売が売れるとか、そういうことだけではなく、これからの世の中、何が変わっていくのかということを、もう一度平たい目で見つめ直さないと、時代に乗り遅れてしまうのではないでしょうか。それはすなわち、既存の不動産業者の淘汰に繋がると危惧しています。

南村 忠敬(みなみむら ただたか)
第一住建株式会社 代表取締役社長/公益社団法人全日本不動産協会・公益社団法人不動産保証協会・一般社団法人全国不動産協会 理事
大学卒業後、大手不動産会社勤務。営業として年間売上高230億円のトップセールスを記録。1991年第一住建株式会社を設立し代表取締役に就任。1997年から我が国不動産流通システムの根幹を成す指定流通機構(レインズ)のシステム構築や不動産業の高度情報化に関する事業を担当。また、所属協会の国際交流部門の担当として、全米リアルター協会(NAR)や中華民国不動産商業同業公会全国聯合会をはじめ、各国の不動産関連団体との渉外責任者を歴任。国土交通省不動産総合データベース構築検討委員会委員、神戸市空家等対策計画作成協議会委員、神戸市空家活用中古住宅市場活性化プロジェクトメンバー、神戸市すまいまちづくり公社空家空地専門相談員、宅地建物取引士法定講習認定講師、不動産保証協会法定研修会講師の他、民間企業からの不動産情報関連における講演依頼も多数手がけている。2017年兵庫県知事まちづくり功労表彰、2018年国土交通大臣表彰受賞・2020年秋の黄綬褒章受章。

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この記事を書いた人

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