また起きた…札幌でアパート2階通路床が崩落、女性が落下しケガ オーナーは点検と対策を
賃貸幸せラボラトリー
2022/07/22
イメージ/©︎photoAC
床が割れて落ち、女性が落下
また起きた——と、いったところだろう。この7月6日に札幌市で発生したアパート2階通路の崩落事故だ。
外階段を上り、2階の部屋のドアを目指す小さな空間。そこで人々の足元を支える薄い床。アパート建築ではよく見られる構造だ。これが人の重さに耐えられず、割れた。2/3ほどが落下した。
割れた床とともに地面に落ちたのは59歳の女性だった。報道によれば「腕など複数箇所を骨折した」とのこと。入居者ではなく、市の広報誌を配りに来たアルバイトの方だった。
ちなみにアパートは築40年以上。かなり老朽化していたらしい。のみならず、解体が予定されていたため入居者はいなかった。女性はそれを知らずに階段を上ったようだ。
現場には、以前、立ち入り禁止の柵があったものの、事故発生の時点ではそれが無くなっていたとの情報もある。警察は業務上過失傷害の疑いで詳しい状況を調べている。(以上、事故当日および翌日の各メディアの報道からまとめている)
近年、毎年起きている賃貸物件での崩落事故
アパートで「足元が崩落、人が落下」といえば、記憶に新しいのが昨年の4月に起きた東京都八王子市での「アパート外階段崩落事件」だ。こちらは築古ではなく、築8年とかなり新しい物件で起こった。原因はこの建物を施工した会社による、きわめてずさんな工事だった。鉄骨製の階段と踊り場の接合部分に使われていた木材に、あってはならない腐食が起きていた。崩れた階段とともに地上へ落下した入居者は死亡。とりかえしのつかない事態となっている。
その前年(2020)には、北海道苫小牧市でアパートの外廊下が崩落している。事故に遭ったのはこの物件に住む家族。5人が、骨折するなどのケガを負った。幸い死者は出なかったものの、けが人の中には0歳児も含まれるなど、一歩間違えば悲惨な事件となるところだった。建物は築25年ほど。古いといえば古いが、床が抜け落ちるほど老朽化していても不思議ではないなどとは、到底いえないレベルだろう。
さらにその前年(2019)、沖縄県那覇市で、鉄筋コンクリート造4階建て賃貸マンションの3階外廊下が崩落している。こちらも幸い死者は出ず、けが人もいなかったが、70代の入居者が部屋から出られなくなった。玄関ドアの前にあった床がきれいに消えたかたちとなったからだ。消防が駆け付け、助け出す騒ぎになっている。建物は築46年とのことで、かなり劣化していたようだ。
以上、ここ4年にわたって、全国に報じられるようなアパート・賃貸マンションでの外階段・外廊下の崩落事故が立て続けに起きている。しかも、述べたようにそれらは老朽化した物件のみで起きているのではない。八王子の事件のように、施工に手抜きや瑕疵が仮にあったとすれば、築後間もない建物でも当然事故は起こりうる。
オーナーは即点検を
こうした事件・事故の発生は、普段同様のリスクの存在を忘れがちな賃貸住宅オーナーにとって、皮肉なことながらありがたいものとなる。動く機会を与えてくれるからだ。
早速、自らの物件を点検しに行こう。外階段、外廊下、手すりなどに危険が及んでいないか、ほかにも落下しそうなものはないかなど、入念に見て回りたい。
なお、その際は「自分が乗ってもビクともしないから大丈夫」などと、安易なモノサシで判断するのは避けたい。鉄骨製の外階段や踊り場の床がサビて膨らみ、形が変わっているような場合など、オーナーひとりがそこに乗って平気でも、複数人が乗れば簡単に崩れてしまうケースもある。
入居者にも尋ねよう
入居者にも尋ねたい。何を尋ねるのか? 答えは簡単だ。彼らこそは毎日そこに暮らし、物件に存在する危険をもっとも感知しやすい人々なのだ。
「物件に危険や異常が生じていないか? 気になることはないか?」——ヒアリングやアンケートを行い、リスクの早期発見にぜひ協力してもらおう。
外階段や外廊下、手すりなどばかりではない。「漏電しているのでは」「ガス器具の調子がこのところおかしい」など、外からは状況が判らず、オーナーも管理会社もなかなか気付けない異常について、彼らに聞けばより早くそれを知ることができるはずだ。
リスクの周知を怠ってはならない
今回の札幌の事故で、オーナーにとってよい教訓となるのが、ケガをしたのが入居者ではなく外部の人だったその経緯だ。
報道内容から想像するに、この物件のオーナーもしくは管理会社は、取り壊し予定で、なおかつ無人の建物に人が立ち入らないよう、以前は何らかの手立てを講じていたらしい(前述のとおり柵があったとの話が出ている)。しかしながら、事故発生時にはそれがおそらく無くなっていたか、機能しなくなっていたようだ。
それではいけない。今回、警察が業務上過失傷害の疑いで調べを進めている旨報じられている通り、ケガをさせた相手が誰であろうと、責任は物件の所有者にかかってくるのが基本だ。賃貸物件の場合、それはもちろんオーナーだ。(民法上の工作物責任)
立ち入ったり、近づいたりした際にリスクがある建物ならば、誰にでも分かるよう明確にそれを表示しておかないと、事故が起きた際、他人の身体・生命だけでなくオーナー自身の立場や財産も守れなくなる危険性が高いことを肝に銘じておこう。
施設賠償責任保険には必ず入っておく
施設賠償責任保険については、これを知るオーナーが最近かなり増えてきている。さきほど挙げた八王子の事件や、苫小牧の事故などが契機ともなっているようだ。
ちなみに、施設賠償責任保険とは、こんな内容の保険となる。
「被保険者(賃貸物件であればオーナー)が所有、管理する施設において、それらの欠陥や、管理・安全性の不備等による事故が生じ、他人の身体や財物へ損害を与えた場合で、被保険者(同上)が法律上の賠償責任を負うことになった際、賠償金や緊急費用、争訟費用等を補償してくれる——」
要は、賃貸物件において建物の欠陥や不備にともない入居者等がケガをした場合など、この保険がオーナーを財産面で守ってくれる。
つまり、オーナーならば必須のリスクヘッジ手段といえるが、うっかり存在を知らずにいたり、加入している火災保険に付帯できるのに怠っていたりといったケースがたまに見られたりもするものだ。
そんな状態のままでは賃貸経営はいささか危なっかしい。繰り返すが、この保険はオーナー「必須」のリスクヘッジといえるひとつだ。
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編集者・ライター
賃貸住宅に住む人、賃貸住宅を経営するオーナー、どちらの視点にも立ちながら、それぞれの幸せを考える研究室