⽇本⼀空き家率の⾼いエリアを⽣き抜く オーナー自らつくりだす"付加価値"
ウチコミ!タイムズ編集部
2022/04/08
我が国の社会問題として悪化の⼀途を辿っている“空き家問題”——。空き家は、景観を損ない、⽼朽化による倒壊、不法占拠や不法投棄、放⽕などの犯罪の温床になる可能性といった危険をもたらす。2018年に総務省が⾏った「平成30年住宅・⼟地統計調査」で、21.3%と最も⾼い空き家率であった⼭梨県で、状況を打破しようと奮闘するオーナーがいる。⼭梨県の県庁所在地である甲府市で、賃貸事業を営む⻑⽥穣(おさだみのる)オーナーに話を聞いた。(取材/尾崎 光・⽂/佐藤 美⽉)
受け継いだ賃貸経営 他責ではなく⾃責
前述の⼟地統計調査において、現在の⽇本の総住宅数は6240万7000⼾とされており、13年での調査結果と⽐べ2.9%増加している。そのうち空き家は、848万9000⼾(3.6%の増加)、空き家率は13.6%と過去最⾼となっている。この空き家のなかで「賃貸⽤の住宅」が半数以上を占めており、その数なんと約432万⼾にも及ぶ。全国の空き家率1位という厳しい状況におかれる⼭梨県で、満室経営を実現させている⻑⽥オーナーはこう語る。
「祖⽗が相続税対策のために始めた賃貸経営でしたが、当初は順調だったものの2000年代に⼊ると、物件の供給過剰と築年数の経過による資産価値の低下で経営が悪化していきました。06年に私が引き継いだときには、すでに家賃収⼊よりも銀⾏返済などの支出がはるかに上回り、債務超過の状態だったのです。
当時私は、部屋が埋まらないことを『管理会社のせい』と考え、担当者に厳しく⼊居付けするよう伝えるのみで、実際の管理や集客は任せきりにしていました。しかしそれではいけないと気が付き、少しずつ⾃分で物件掃除を⾏ったり退去後のリフォームをしっかり⾏ったりしたことで、14年には満室にして⿊字化することができました。
しかし17年に物件が築24年を迎えた際、繁忙期になっても部屋が全く埋まらなくなってしまいました。物件の管理や退去時のリフォームを適切に⾏い、募集を不動産会社に委ねるといういわゆる“通常の集客”では通⽤しなくなってしまったのです。AD(広告料)を2カ⽉つけましたが、あまり効果がみられませんでした」
自ら物件の清掃を行う長田オーナー
家賃を⾼くする施策 集客⽅法は⾃分次第
築年数の経過によって、同じやり⽅のままでの⼊居付けは年々難しくなっていく。ADをつける、家賃を下げる、新たな設備を付ける、あるいは売却するなど、オーナーによって戦略は変わるが、空き家問題の解決という観点において最も理想的なのはどんな⽅法だろうか。
「銀⾏への返済もあり、『家賃を下げてこのままの募集⽅法でとりあえず家賃収⼊を得る』か、『追加の投資を覚悟して資産価値を上げ、家賃が⾼いまま賃貸経営をする』かの選択をする岐路に⽴たされました。そして私は、後者の戦略をとりました。家賃を下げて⼊居者募集をするのは、オーナーだけでなく、⼊居者、不動産会社にとってデメリットが多いと判断したためです。空き室率が⾼く借り⼿市場の⼭梨県において、⼊居者とオーナーの関係バランスをよく保つために、家賃は⾼いまま募集をし、利幅が⼤きい分を物件に還元することで、不動産会社も募集したくなる物件になり、かつ⼊居者のメリットになるという理想的なスパイラルに導くことができると思いました」(⻑⽥オーナー)
家賃を維持する、または⾼くした状態で⼊居率を確保できれば、その物件は“⽣きた物件”になる。家賃が⾼くてもいいから住みたいという⼈たちが集まり、空き家で問題視されている景観や衛⽣⾯、治安もよくなりやすい。オーナー、⼊居者、不動産会社、そしてその地域、全てにプラスに働くのだ。
では、築年数が経過した物件でも家賃を維持したまま、または⾼くして客付けに困らない物件にするにはどうすればいいのか。⻑⽥オーナーは2つの側⾯から施策を⾏っているという。
「これまでのリフォームから“リノベーション”へと舵を切り、かつ集客⽅法を⼤幅に⾒直すことにしたのです。リノベーションで徹底的に重視したのは、“⼊居者⽬線”での差別化を図ることでした。単に新しくリノベーションされたおしゃれな部屋では、数あるほかの物件に埋もれてしまい、さらに新築も競合物件となり、結局は家賃の価格競争に巻き込まれてしまいます。差別化によって、具体的に誰に向けてアピールする部屋にしていくのか、そこに対してこの部屋でどういう⾵に⽣活ができるかをいかに具体的にイメージさせられるかが勝負になります。
私が所有している物件はファミリー向けのもので、こうした物件での部屋の決定権は、多くの場合は⼥性が握っています。そのため、⼥性⽬線で考えた『おしゃべりしやすい空間』と『癒される空間』を両⽴できる、カフェ⾵の部屋づくりを意識して差別化をしています。築古物件のネックである、キッチンや浴室、洗⾯台などの⽔回りも、新しくするだけでなく、素材やデザインにこだわり、コンセプトに沿った演出をしていくのです。費⽤は1部屋200万円程度と通常のリノベーションよりもかかりますが、同じ条件の物件より1万円以上⾼い家賃ですぐに成約に⾄るので、⼗分ペイできます。
また、集客の⼤きな窓⼝であるポータルサイトは、お部屋を探している⽅が希望条件を⼊⼒して、気になる物件情報を絞り込むため、1つでも条件から外れるお部屋は成約候補から外れてしまいます。築古で家賃が⾼く、和室がある私の物件は、明らかに顧客のニーズから外れており、ポータルサイトからの反響が激減していました。築年数は変えようがなく、かつ家賃を下げずに集客をするために、私は独⾃のホームページとInstagram、Twitterのアカウントを開設しました。そして定期的な情報発信を続けた結果、今では成約の約8割がこれらの独⾃ルートで集客することができるようになりました。⾃然検索でホームページを閲覧している⼈は、ポータルサイトと⽐べて物件ページの閲覧時間が⻑く、より⾼い集客効果が⾒込めます。SNS経由の場合は、⾃然検索と⽐べて圧倒的にホームページへのアクセス率が⾼いのが特徴です。
これらの独⾃の発信は、開始当初こそSEO的に不利な状態が続くものの、⼊居者のニーズを調査し、そこに直接届けることを意識することで確実に効果を伸ばすことができます。インターネットで『⼭梨 賃貸』と検索すると、関連キーワードに『おしゃれ』や『リノベーション』といった⽂字を⾒ることができます。こういったところからも⼊居者のニーズを把握し、SNSを活⽤する際は、『#おしゃれ賃貸』や『#⼭梨』といったハッシュタグをつけて発信しています。お部屋を探している⼈にダイレクトに情報が届く⼯夫です。
そしてきれいな写真が重要で、IKEAの家具などでホームステージングして視覚的な⼯夫もします。また、『#IKEA』のハッシュタグは活発に閲覧されていることが多いので、つけておくと閲覧数が伸びることが多いです。お部屋を探す⽬的でSNSを閲覧していない場合でも、こういったハッシュタグによって⾒つけてもらうことができます」(⻑⽥オーナー)
素材やデザインにもこだわり、女性目線を意識した空間
“⾃ら動く”がカギ 安⼼感が付加価値に
「さらに差別化として意識しているのは、“オーナー⾃らが動くことによる付加価値”です。私は平⽇に毎⽇物件に出向き、建物の掃除をしたり、ごみ置き場の清掃を⾏ったり、雪かきをしたりしています。山梨県では、こうしたことは⼊居者がやるケースがほとんどですが、オーナーがやる姿をSNSで動画で発信することによって、『この物件のオーナーはここまでやってくれる』という印象を与えることができます。実際、雪かきを⾏っている際に急遽内⾒の申し⼊れがあり、そのまま成約に⾄ったこともあります。そのときの⼊居の決め⼿は、『オーナーが雪かきをしていたから』とおっしゃっていました。オーナーが率先して対応している安⼼感が伝わることによって、その安⼼感こそが価値となり、⾼い家賃でも⼊居が決まる要因になるのです」(⻑⽥オーナー)
こうした施策をすべてのオーナーが⾏うことは難しいが、⻑⽥オーナーは「少しでもいいから⾃分で動いてみることが⼤切」だと語る。こうした⼀つ⼀つの⾏動が、オーナーにとって空き家率が⾼いエリアでも家賃を維持したまま賃貸経営を⽣き抜くことにつながり、空き家問題を解決する⽷⼝になるだろう。
また、⻑⽥オーナーは今までの経験を⽣かし「賃貸リノベーション集客コンサルタント」としても活動している。お困りごとを抱えているオーナーは⼀度相談してみてはどうだろうか。
この記事を書いた人
賃貸経営・不動産・住まいのWEBマガジン『ウチコミ!タイムズ』では住まいに関する素朴な疑問点や問題点、賃貸経営お役立ち情報や不動産市況、業界情報などを発信。さらには土地や空間にまつわるアカデミックなコンテンツも。また、エンタメ、カルチャー、グルメ、ライフスタイル情報も紹介していきます。